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2025年10月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
公演情報2025年6月 2日
今年98歳になる桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットが登場。N響を愛してやまないマエストロは、昨年秋も長旅の疲れを感じさせず、6回のコンサートを完遂した。2025年の年明けには、72歳の“若手”指揮者の代役を務めるなど、その後も旺盛な活動を続けている。今回も“枯淡の境地”とは程遠い、中味の濃いプログラムである。万全の体制を整えて、日本に迎えたい。
ブロムシュテットが共感する「言葉を介さずに神をたたえる」作曲家の姿勢

[Aプログラム]のストラヴィンスキー《詩篇交響曲》とメンデルスゾーン《交響曲第2番「讃歌」》は、どちらも神への賛美を歌った旧約聖書の「詩篇」に基づく作品で、ラテン語とドイツ語の違いはあるが、そのうち第40篇と第150篇は、両方に共通するテキストである。
ブロムシュテットは今年1月、バイエルン放送交響楽団と同じプログラムを演奏した。N響とも数年前から機会を探っていたが、世界最高峰のスウェーデン放送合唱団に加え、当世ベストと言ってよい顔ぶれのソリストを、ようやくこのタイミングで揃えることができた。

《詩篇交響曲》は、しばらく信仰から遠ざかっていたストラヴィンスキーが、ロシア正教に復帰して間もない1930年に作曲された。ヴァイオリン、ヴィオラ、クラリネットを欠く特殊な編成のオーケストラが、いかにも新古典主義風のすっきりと洗練された響きを聴かせるのと対照的に、狭い音域を上下する合唱は、まるで中世の典礼歌のような趣である。
両者が掛けあう様は、正教の交唱(アンティフォン)を思わせるが、見方を変えれば、価値観の揺らぎに苛まれる人間の苦悩を象徴するようでもある。終楽章では2つが溶け合い、静かに高揚するが、これはストラヴィンスキーが同時代に示した1つの答えだったかも知れない。
一方、19世紀半ばに書かれた《讃歌》には、プロテスタントだったメンデルスゾーンの迷いのない信仰心が反映されている。
意外にも、ブロムシュテットは長い間、この曲にあまり関心がなかったという。90歳近くになってから研究を始め、メンデルスゾーンが聖書のテキストにどのように向き合ったか、その足跡をたどることで、初めて共感を抱くようになった。
特に、型通り過ぎると感じていた第1部〈シンフォニア〉については、見方が根本的に変わった。ここでメンデルスゾーンが成し遂げたのは「言葉を介さずに神をたたえる」こと。それはマエストロが長年、指揮活動によって実践しようとしてきたことだったのだ。
Aプログラム(NHKホール)
2025年10月18日(土)6:00pm
2025年10月19日(日)2:00pm
指揮 : ヘルベルト・ブロムシュテット
ソプラノ : クリスティーナ・ランツハマー*
メゾ・ソプラノ : マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト*
テノール : ティルマン・リヒディ*
合唱 : スウェーデン放送合唱団
ストラヴィンスキー/詩篇交響曲
メンデルスゾーン/交響曲 第2番 変ロ長調 作品52 「讃歌」*

グリーグ《組曲「ホルベアの時代」から》は、18世紀前半に活躍し、デンマーク文学の父と呼ばれた作家ホルベアを記念したもので、彼が生きたバロック時代の組曲の様式で書かれた弦楽合奏曲。続くニルセン《フルート協奏曲》は20世紀前半の作品で、弦に10人の管打楽器奏者を加えただけの、小ぶりのオーケストラで演奏される。
スタイルは違うが、どちらも機知に富んでいて、きびきびとした足取りで進んでいく。年齢を重ねるごとにみずみずしさを増すブロムシュテットの指揮で聴いてみたい音楽である。
協奏曲のソリスト、セバスティアン・ジャコーは、マエストロと年の差ちょうど60歳。「大事なのは年齢ではなく、いかに解釈するかだ」と言うマエストロと、若き世界的プレイヤーが、世代を超えて作品の本質に迫る。

ブロムシュテットとN響が、シベリウス《交響曲第5番》を演奏するのは1988年以来である。当時、既に還暦を過ぎながら、まだ青年のような風貌を残していたマエストロが、きれいに刈り揃えた髪を揺らしながら、力強く曲を締めくくった様子が思い出される。彼は、ベートーヴェン《交響曲第3番》と同じ変ホ長調で書かれたこの曲に、明らかに英雄的な性格を見出していた。
「全てを成し遂げることはできないし、またその必要もない。大切なのは変化すること。新しいことを学び、経験を重ねること」。
最近のブロムシュテットの言葉に従うなら、37年前と今回では、まるで違った演奏になるだろう。彼はいつも「新しい音楽だけを演奏」するのだ。
“英雄的な性格”がはっきり現れるのは、上空を舞う白鳥の群れを見て着想を得たという、終楽章の金管のテーマだが、第1楽章も別の観点でかなりユニークである。ここではソナタ形式の終盤に、もともと別の楽章だったスケルツォが巧みに継ぎ足されている。大地に草木が芽吹き、次第に枝葉を広げていくかのように、楽想は勢いを増していく。次世代へとバトンが受け渡されていく自然の摂理、生命の循環を連想しないではいられない。現役最高齢の指揮者は、この箇所にどんな思いを込めるのだろう。
2025年10月18日(土)6:00pm
2025年10月19日(日)2:00pm
指揮 : ヘルベルト・ブロムシュテット
ソプラノ : クリスティーナ・ランツハマー*
メゾ・ソプラノ : マリー・ヘンリエッテ・ラインホルト*
テノール : ティルマン・リヒディ*
合唱 : スウェーデン放送合唱団
ストラヴィンスキー/詩篇交響曲
メンデルスゾーン/交響曲 第2番 変ロ長調 作品52 「讃歌」*
みずみずしさを増すブロムシュテットの演奏で聴きたい北欧の音楽
[Bプログラム]では、ドイツ音楽と並んでブロムシュテットが得意とする北欧の作品をお送りする。
グリーグ《組曲「ホルベアの時代」から》は、18世紀前半に活躍し、デンマーク文学の父と呼ばれた作家ホルベアを記念したもので、彼が生きたバロック時代の組曲の様式で書かれた弦楽合奏曲。続くニルセン《フルート協奏曲》は20世紀前半の作品で、弦に10人の管打楽器奏者を加えただけの、小ぶりのオーケストラで演奏される。
スタイルは違うが、どちらも機知に富んでいて、きびきびとした足取りで進んでいく。年齢を重ねるごとにみずみずしさを増すブロムシュテットの指揮で聴いてみたい音楽である。
協奏曲のソリスト、セバスティアン・ジャコーは、マエストロと年の差ちょうど60歳。「大事なのは年齢ではなく、いかに解釈するかだ」と言うマエストロと、若き世界的プレイヤーが、世代を超えて作品の本質に迫る。

ブロムシュテットとN響が、シベリウス《交響曲第5番》を演奏するのは1988年以来である。当時、既に還暦を過ぎながら、まだ青年のような風貌を残していたマエストロが、きれいに刈り揃えた髪を揺らしながら、力強く曲を締めくくった様子が思い出される。彼は、ベートーヴェン《交響曲第3番》と同じ変ホ長調で書かれたこの曲に、明らかに英雄的な性格を見出していた。
「全てを成し遂げることはできないし、またその必要もない。大切なのは変化すること。新しいことを学び、経験を重ねること」。
最近のブロムシュテットの言葉に従うなら、37年前と今回では、まるで違った演奏になるだろう。彼はいつも「新しい音楽だけを演奏」するのだ。
“英雄的な性格”がはっきり現れるのは、上空を舞う白鳥の群れを見て着想を得たという、終楽章の金管のテーマだが、第1楽章も別の観点でかなりユニークである。ここではソナタ形式の終盤に、もともと別の楽章だったスケルツォが巧みに継ぎ足されている。大地に草木が芽吹き、次第に枝葉を広げていくかのように、楽想は勢いを増していく。次世代へとバトンが受け渡されていく自然の摂理、生命の循環を連想しないではいられない。現役最高齢の指揮者は、この箇所にどんな思いを込めるのだろう。
Bプログラム(サントリーホール)
2025年10月9日(木)7:00pm
2025年10月10日(金)7:00pm
指揮 : ヘルベルト・ブロムシュテット
フルート : セバスティアン・ジャコー
グリーグ/組曲「ホルベアの時代から」 作品40
ニルセン/フルート協奏曲
シベリウス/交響曲 第5番 変ホ長調 作品82
《ピアノ協奏曲第2番》のソリストは、ノルウェー生まれの世界的奏者、レイフ・オヴェ・アンスネス。著名なコンクールを経ることなく、若くして認められた彼も、早いもので今年55歳になる。ブロムシュテットとは、かねてから気心の通じた間柄で、N響定期では2011年にラフマニノフ《第3番》を弾き、2023年にも共演予定だったが、直前のマエストロの来日中止で叶わなかった。この時、尾高忠明の代役指揮で演奏されたベートーヴェン《皇帝》は、一音一音のタッチに神経が行き届いた名演で、会場に居合わせた誰もが、その美しさに息を呑んだ。
「何が必要かを、その場で瞬時に判断できる」というマエストロのタクトに、アンスネスは全幅の信頼を置いている。今度こそ共演が実現することを願いたい。

長調と短調の間で揺れ動く《交響曲第3番》を、ブロムシュテットは、喜びとも不安とも取れる「モナリザの微笑」に例えたことがあるが、一面的ではない複雑な情感を表出できる点に、ブラームスの4曲の交響曲の中で、とりわけこの曲を愛する理由があるだろう。
2019年に演奏した際には、何度か答礼が続いた後、マエストロとメンバーの阿吽の呼吸で、第3楽章がリピートされた。定期公演でのオーケストラのアンコールは極めて珍しいことである。大げさな身振りとは程遠いマエストロの指揮により、室内楽のように親密なハーモニーの余韻が、いつまでもホールに漂っていた。コンサートに出かける喜びは、まさにこのような瞬間にある。再び同じ体験ができるだろうか。いや、ブロムシュテットの場合“同じ体験”はあり得ない。常に変わり続けること、オーケストラとともに果てしない高みに上り続けることが、生涯現役を続ける指揮者ブロムシュテットの信条なのだから。
2025年10月9日(木)7:00pm
2025年10月10日(金)7:00pm
指揮 : ヘルベルト・ブロムシュテット
フルート : セバスティアン・ジャコー
グリーグ/組曲「ホルベアの時代から」 作品40
ニルセン/フルート協奏曲
シベリウス/交響曲 第5番 変ホ長調 作品82
名手アンスネスと送るブロムシュテットのブラームス円熟期の名曲
[Cプログラム]では、1880年代前半、ブラームスの円熟期に書かれた2曲を取り上げる。《ピアノ協奏曲第2番》のソリストは、ノルウェー生まれの世界的奏者、レイフ・オヴェ・アンスネス。著名なコンクールを経ることなく、若くして認められた彼も、早いもので今年55歳になる。ブロムシュテットとは、かねてから気心の通じた間柄で、N響定期では2011年にラフマニノフ《第3番》を弾き、2023年にも共演予定だったが、直前のマエストロの来日中止で叶わなかった。この時、尾高忠明の代役指揮で演奏されたベートーヴェン《皇帝》は、一音一音のタッチに神経が行き届いた名演で、会場に居合わせた誰もが、その美しさに息を呑んだ。
「何が必要かを、その場で瞬時に判断できる」というマエストロのタクトに、アンスネスは全幅の信頼を置いている。今度こそ共演が実現することを願いたい。

長調と短調の間で揺れ動く《交響曲第3番》を、ブロムシュテットは、喜びとも不安とも取れる「モナリザの微笑」に例えたことがあるが、一面的ではない複雑な情感を表出できる点に、ブラームスの4曲の交響曲の中で、とりわけこの曲を愛する理由があるだろう。
2019年に演奏した際には、何度か答礼が続いた後、マエストロとメンバーの阿吽の呼吸で、第3楽章がリピートされた。定期公演でのオーケストラのアンコールは極めて珍しいことである。大げさな身振りとは程遠いマエストロの指揮により、室内楽のように親密なハーモニーの余韻が、いつまでもホールに漂っていた。コンサートに出かける喜びは、まさにこのような瞬間にある。再び同じ体験ができるだろうか。いや、ブロムシュテットの場合“同じ体験”はあり得ない。常に変わり続けること、オーケストラとともに果てしない高みに上り続けることが、生涯現役を続ける指揮者ブロムシュテットの信条なのだから。
Cプログラム(NHKホール)
2025年10月24日(金)7:00pm
2025年10月25日(土)2:00pm
指揮 : ヘルベルト・ブロムシュテット
ピアノ : レイフ・オヴェ・アンスネス
ブラームス/ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83
ブラームス/交響曲 第3番 ヘ長調 作品90
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2025年10月24日(金)7:00pm
2025年10月25日(土)2:00pm
指揮 : ヘルベルト・ブロムシュテット
ピアノ : レイフ・オヴェ・アンスネス
ブラームス/ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83
ブラームス/交響曲 第3番 ヘ長調 作品90
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]