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2023年6月定期公演プログラムについて

公演情報2023年3月17日

5年振りに登場の人気指揮者、ノセダが贈る
母国イタリアとロシアの作品たち

ジャナンドレア・ノセダは、世界各地のオーケストラや歌劇場からオファーが絶えない人気指揮者で、現在ワシントン・ナショナル交響楽団音楽監督、チューリヒ歌劇場音楽総監督などを務めている。N響とは2005年以来しばしば共演しているが、ようやく5年ぶりにスケジュールを押さえることができた。母国イタリアのレスピーギとカゼッラ、そして長くマリインスキー劇場の首席客演指揮者を務めた関係で縁の深いロシアの作品を指揮する。


カゼッラのリバイバルに尽力するノセダが
オペラ《蛇女》の組曲を日本初演

Aプログラム]の《3つのオレンジへの恋》《蛇女》には共通点がある。どちらもオペラをもとにしたオーケストラ組曲で、原作は18世紀ヴェネツィアの劇作家カルロ・ゴッツィの寓話劇である。ゴッツィは、戯画化されたキャラクターが面白おかしく掛け合いを演じるイタリア伝統の喜劇“コメディア・デラルテ”を下敷きにしながら、風刺を効かせた童話風の物語を次々に発表し、人気を博した。プッチーニのオペラ《トゥーランドット》の原作者もゴッツィである。
《3つのオレンジへの恋》と《蛇女》は、モーツァルトの《魔笛》などと同様、主人公が試練を乗り越えて目的を達成するファンタジックな冒険譚で、両方の音楽に《行進曲》が含まれるのは、ストーリーの性格を考えれば決して偶然ではない。機械的でエッジの効いたプロコフィエフの有名な《行進曲》に対し、カゼッラのそれは色彩豊か、特に後半はまるでハリウッド映画さながらのゴージャスさである。
埋もれかけていたカゼッラに光を当てたのは、ノセダの大きな功績の一つ。以前N響と演奏した《交響曲第2番》《第3番》に続く企画第3弾の《蛇女》は日本初演、今回の3種類のプログラムの目玉と言ってよい。
2曲の間に演奏されるのはプロコフィエフの《ピアノ協奏曲第2番》。《3つのオレンジへの恋》に先立つこと数年、サンクトペテルブルク音楽院在学中だったプロコフィエフのモダニズム精神あふれる力作を、ウズベキスタン出身のベフゾド・アブドゥライモフが弾く。《協奏曲第3番》の録音で技巧とリズムの冴えを見せつけた若手が、より前衛的な《第2番》にどう迫るのか興味深い。

ジャナンドレア・ノセダ、カゼッラ、プロコフィエフ、ベフゾド・アブドゥライモフ

2023年6月10日(土)6:00pm
2023年6月11日(日)2:00pm
NHKホール



今こそ耳を傾けたい--
戦争の惨禍を表象するショスタコーヴィチ《第8番》

プロコフィエフが斬新な音楽を書いてほどなく、ソヴィエト政権下のロシアでは社会主義リアリズムの徹底が図られ、芸術活動への統制も強まっていく。
そんな時代に書かれた[Cプログラム]《交響曲第8番》について、ショスタコーヴィチは「楽天的で人生を肯定的に描いたもの」と語っているが、もちろんその言葉を鵜呑みにはできない。この曲でも、行進曲風のリズムが複数の楽章にまたがって現れる。しかしそれは決して「楽天的」などではなく、曲が書かれた当時のリアルな現実、すなわち戦争の惨禍を表象していると考えるのが自然だろう。第3楽章では無機質に刻まれる2分の2拍子の弦に、スフォルツァンドの和音や管楽器の急激な下降音が暴力的に叩き込まれるが、昨今のニュース映像でも目にする、砲弾やミサイルが飛び交う光景を否応なしに連想してしまう。続くパッサカリアとフィナーレは鎮魂や救いになり得るのか・・・。
この選曲は「気軽に名曲を楽しむ」というCプログラムのコンセプトから逸脱していると、お叱りを受けるかもしれない。しかし今、耳を傾けるべき1曲として、この大曲を敢えてシーズンの締めくくりに置くことにした。
ノセダは、首席客演指揮者を務めるロンドン交響楽団と、ショスタコーヴィチの交響曲を継続的にレコーディングしている。陰鬱さや暴力的な側面をことさら強調するのではなく、どちらかと言えば滑らかに、西洋音楽のスタイルの継承者としてのショスタコーヴィチを打ち出そうとしているように感じられる。そう言えば、N響常連の指揮者ソヒエフも最近《第8番》を録音したが、従来のように重苦しさ一辺倒の解釈とは距離を置いていた。賛否両論あるとは思うが、こうした試みが新しい見方を提示し、作品にいっそうの奥行きを与えていくことは確かであろう。

ジャナンドレア・ノセダ、ショスタコーヴィチ

2023年6月16日(金)7:30pm
2023年6月17日(土)2:00pm
NHKホール



[Bプログラム]は、教会音楽が通しテーマになっている。《3つのコラール》は、バッハが自作のカンタータから編曲したオルガン音楽を、レスピーギがさらに管弦楽用にアレンジしたものである。1930年前後のアメリカ・イギリスでは、ストコフスキーを筆頭に、バッハの編曲・演奏が流行っていた。レスピーギも依頼を受けていくつか手掛けているが、多くの先例と違ってこの曲は巨大管弦楽ではなく、標準的な編成で書かれている。最初の2曲で終始抑制的に使われていたオーケストラが、有名な《目覚めよと呼ぶ声が聞こえ》の後半で、文字通り目覚めるかのようにパッと花開く瞬間はとても効果的だ。
レスピーギはバッハに限らず、ルネサンスやバロックの音楽を熱心に研究した。その成果の一つが、教会旋法やグレゴリオ聖歌の旋律を取り入れた《グレゴリオ風協奏曲》である。長調・短調が確立される前の古い時代の旋法と、師であるリムスキー・コルサコフ譲りの近代的で華麗なオーケストレーションを融合させた点に、作品のユニークさがある。もちろんソロの見せ場にも事欠かない。
庄司紗矢香は以前、ノセダが指揮するサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団とこの曲を演奏しており、日本での再演を希望した。サンタ・チェチーリアと言えば、レスピーギが長く教鞭をとった音楽院である。幼少期をイタリアで過ごした庄司にとって、格別の思いがある選曲に違いない。
ラフマニノフ《交響曲第1番》で、ロシア正教会で歌われるズナメニ聖歌を主題のアイデアに用いたと言われる。また彼がたびたび引用した「怒りの日」の冒頭4音がこの曲にも現れるが、はっきり意識して使ったかどうか定かではない。とはいえ、曲全体に漂う宗教的なオーラは明らかである。
グラズノフの指揮による初演は失敗し、その後の人気も他の2つの交響曲に比べると今一つだが、曲としての完成度の高さを評価する声もある。ノセダもその一人で、こちらが提案した《第2番》ではなく、あくまで《第1番》にこだわった。
生誕150年にちなみ、毎月1曲ずつ取り上げてきたラフマニノフも今月で最終回。有終の美を飾る演奏を期待したい。

ジャナンドレア・ノセダ、バッハ、レスピーギ、ラフマニノフ、庄司紗矢香

2023年6月21日(水)7:00pm
2023年6月22日(木)7:00pm
サントリーホール



[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

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