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2023年2月定期公演プログラムについて

公演情報2022年12月12日

尾高渾身のタクトで ポーランド民族の魂に触れる

Aプログラム]の尾高尚忠《チェロ協奏曲》は1944年、戦時下の日独交歓演奏会において、N響の前身である新響が世界初演した。ソロによる情熱的な導入はエルガーを、スケールの大きさはドヴォルザークを思わせる。“ミラーソラ・ラミー”という都節風のテーマは一度聴くと耳から離れない。ドイツ音楽の伝統的な形式に則りながら、日本らしさを出そうとした作曲者の工夫の跡が伺える。尚忠は言うまでもなく指揮者・尾高忠明の父。宮田大は初演時のソリスト、倉田高の娘である澄子に師事した。80年近い歳月を経て、初演ゆかりの顔ぶれが勢ぞろいする。

尾高忠明、ルトスワフスキ、パヌフニク、尾高尚忠、宮田 大

パヌフニクと尚忠は、共にウィーンで学んだ親友同士である。ソ連によるポーランド人虐殺をテーマにした《カティンの墓碑銘》は、悲痛な事件への哀悼と祈りの歌。一方、パヌフニクとデュオ仲間だった同じポーランド人のルトスワフスキは、ソ連の抑圧下にある民族の魂を《オーケストラのための協奏曲》に込めた。一見渋い選曲だが、どの作品も聴きごたえ十分。20世紀の歴史の断面に迫る、尾高渾身の好企画と言えよう。

2023年2月4日(土)6:00pm
2023年2月5日(日)2:00pm
NHKホール



気鋭フルシャが贈る 母国チェコの愛国的作品とブラームス

[Bプログラム]シマノフスキも、ポーランドを代表する作曲家だ。後期ロマン派風に始まり、オリエントや印象主義の影響を受けたり、民俗音楽に傾倒したりと、次々スタイルを変えたが、探求の旅路の一つの終着点が《協奏交響曲》である。2006年にもこの曲を弾いたアンデルシェフスキが、再演を強く希望した。密やかでありながらしっかり芯のある音質、ヴァイオリンやフルート・ソロとの神秘的な掛け合い、舞曲の絶妙なリズム感など、当時の演奏は今も鮮やかに記憶に残っている。

ヤクブ・フルシャ、ブラームス、ドヴォルザーク、シマノフスキ、ピョートル・アンデルシェフスキ

祖国チェコの大作曲家ドヴォルザークは、フルシャの大事なレパートリーである。《フス教徒》のフスとは、ルターに先立つこと1世紀、チェコで宗教改革を先導した人物。曲の素材にフス教徒のコラールが使われるが、ブラームス《交響曲第4番》の第4楽章では、熱心なルター派であったバッハのカンタータが変奏の主題になっている。N響が名だたる巨匠たちと数限りなく演奏したブラームス。フルシャはそのタクトを任せるにふさわしい指揮者の一人である。

2023年2月15日(水)7:00pm
2023年2月16日(木)7:00pm
サントリーホール



2つの《シンフォニック・ダンス》に交錯する ロシアとアメリカのエッセンス

英語に“juxtaposition“という単語がある。“並置”と訳されるが、2つを並べることでそれぞれの特徴を際立たせるといったニュアンスを含む。[Cプログラム]は、どちらも20世紀半ばに生まれた《シンフォニック・ダンス》だが、バーンスタインラフマニノフではその個性に天地の開きがある。指揮のフルシャはこの“juxtaposition”のアイデアに大変興味を示してくれた。
ミュージカルの聴きどころを集めた前者は、多様なリズムやメロディが交錯する、いかにもアメリカ的な作品。〈サムウェア〉や〈マンボ〉といった人気ナンバーが紡がれる中、十二音技法を用いるなど前衛的な側面も持つ。

バーンスタイン、ヤクブ・フルシャ、ラフマニノフ

一方、教会の聖歌や愁いを秘めたワルツ等、ロシアのエッセンスが詰まったラフマニノフの作品は発表当時、“前世紀の遺物”的扱いを受け、酷評された。しかしブロードウェイの流行作曲家にアルト・サックスの用法を教わるなど、決して時代に背を向けて書かれたわけではない。今日では晩年の傑作として広く認められている。
2曲の“juxtaposition”がどのような異化作用をもたらすのか、聴き手の皆様の反応が興味深い。

2023年2月10日(金)7:30pm
2023年2月11日(土・祝)2:00pm
NHKホール



[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

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