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[SPOTLIGHT] 2024年6月定期公演に登場する日本人指揮者達が語らう 原田慶太楼、鈴木優人、沖澤のどか

公演情報2024年5月21日

6月の定期公演では、原田慶太楼(Aプログラム)、鈴木優人(Bプログラム)、沖澤のどか(Cプログラム)と、将来を期待される日本人指揮者たちが指揮台に立ちます。
世界を股にかけて活躍し多忙を極める3人ですが、先ごろスケジュールを縫ってオンラインで集い、それぞれの公演の聴きどころやコンセプト、お互いのプログラムについての感想、指揮スタイルについてなど、さまざまな話題を語り合いました。年齢も近く、もともとよく知る間柄の指揮者どうし、会話はおおいに盛り上がりました。

(聞き手・構成:高坂はる香)



第2013回 定期公演 Aプログラム
2024年6月8日(土) 開演 6:00pm
2024年6月9日(日) 開演 2:00pm
NHKホール

指揮:原田慶太楼
ピアノ:反田恭平

スクリャービン/夢想作品24
スクリャービン/ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 作品20
スクリャービン/交響曲第2番 ハ短調 作品29

第2015回 定期公演 Bプログラム
2024年6月19日(水) 開演 7:00pm
2024年6月20日(木) 開演 7:00pm
サントリーホール

指揮 : 鈴木優人
ヴァイオリン : イザベル・ファウスト

ウェーベルン/パッサカリア 作品1
シェーンベルク/ヴァイオリン協奏曲 作品36
バッハ(ウェーベルン編)/リチェルカータ
シューベルト/交響曲 第5番 変ロ長調 D. 485

第2014回 定期公演 Cプログラム
2024年6月14日(金) 開演 7:30pm
2024年6月15日(土) 開演 2:00pm
NHKホール

指揮 : 沖澤のどか
ピアノ : デニス・コジュヒン
女声合唱 : 東京混声合唱団*

イベール/寄港地
ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲
ドビュッシー/夜想曲*



― それぞれの選曲理由やコンセプトを教えてください。

原田: 私が出演するのは、Aプログラム。オール・スクリャービンという選曲のきっかけは、《ピアノ協奏曲》でソリストを務める反田恭平さんです。反田さんとはプライベートでも親交があるのですが、仲のいいソリストと共演するとき、ふだんあまり弾いていないレパートリーにいっしょに挑戦しようと提案しています。今回彼にN響と共演したい曲をたずねたところ、提案されたのがスクリャービンでした。
スクリャービンは独自の世界観を持っていて、少し“不思議ちゃん”なところがある作曲家ですよね(笑)。海外でも演奏機会は多くはないけれども、日本での演奏機会はさらにまれなので、このチャンスに取り上げたいと思いました。
《ピアノ協奏曲》は、スクリャービンが初めて書いたピアノとオーケストラのための作品です。そこで、「初めて」をテーマにして、彼にとって初のオーケストラ曲であり、作風の原点が感じられる《夢想》を組み合わせました。20代のスクリャービンの個性が現れています。
《交響曲第2番》はその少しあとに書かれたもの。スクリャービンは、「音が色に見える」特別な感覚の持ち主だったので、ハーモニーのつくり方も独特です。そして、ピアニストとして優れていながらも右手を故障したため、彼のピアノ曲は左手が技巧的で美しいものが多いのですが、それがオーケストラ作品にも通じているのがおもしろいと思います。低音が美しくも忙しく、たくさん会話します。とてもピアニスティックなシンフォニーです。

沖澤: 私はCプログラムに出演します。テーマは「光」。今回、私からN響に提案したプログラムがそのまま採用されて、うれしく思っています。
原田さんのお話にあったスクリャービンの「左手」のつながりですが、ラヴェルの《左手のためのピアノ協奏曲》は、スクリャービンの《2つの左手のための小品》を研究して書かれたというエピソードがあります。始まりからおどろおどろしく、そこからさまざまな要素を含んだ音楽が展開するので、ソリストのデニス・コジュヒンさんはきっとこの曲の「闇」の部分を豊かに表現してくださるだろうと期待しています。
プログラム冒頭には、「光」を感じるイベールの《寄港地》を置きました。第1曲〈ローマ─パレルモ〉の冒頭の弱音に感じる朝もやの中の光から、勢いよく始まる第3曲〈バレンシア〉に感じる強い光など、各曲がスタートした瞬間に色が変わるところが魅力です。
最後のドビュッシー《夜想曲》は、以前、メルボルンで指揮したことがあって、いつか日本のすばらしいオーケストラとも演奏したいと思っていました。ドビュッシーが、この作品は夜を表現しているというより光の濃度やテクスチャーの概念を表していると言及しているのを読んで、このプログラムにぴったりだと選びました。

鈴木: 私が出演するBプログラムは、ウェーベルン、シェーンベルク、ウェーベルン編曲のバッハ、シューベルトで構成されていて、「新・旧ウィーン楽派の音楽」がテーマです。
イザベル・ファウストさんと共演するのは、シェーンベルクの《ヴァイオリン協奏曲》。私にとって初めて取り組む難しい曲ですが、イザベルといっしょなので心強いです。
同時期にウェーベルンがバッハの《6声のリチェルカーレ》を編曲した《リチェルカータ》は、金管楽器から始まるところにオルガン的なものを感じますし、また音の色使いがとても実験的な作品です。ちなみに本来のバッハのチェンバロ版だと、6声をひとりで弾くのがとても大変なので、ウェーベルンが管弦楽に編曲してくれてよかったなと(笑)。
メインとなるシューベルトの《交響曲第5番》は、透明な木管楽器で始まり、突然ヴァイオリンが走りだし、「歌曲王」らしく美しいメロディがたくさん現れます。若いシューベルトの作品で、モーツァルトなど古典派の美への憧れが感じられます。前述のウェーベルンにはバッハへの尊敬を感じるので、「昔の音楽への憧れ」がプログラムの共通テーマといえるでしょう。
ウェーベルンの作品からは《パッサカリア》も取り上げます。彼は十二音技法の難しい曲をつくる人というイメージがあるかもしれませんが、これは美しいメロディとR.シュトラウスのような重厚な和声感がある、親みやすい作品です。
全体を通して聴くと、シューベルトの時代から、シェーンベルク、ウェーベルン、ベリオ、ベルクという十二音技法の時代まで、変化は突然変異的ではなくグラデーション的に起きたものだと感じていただけると思います。


― それぞれのコンセプトや構成の意図を伺いましたが、ほかの方のプログラムについてどんな感想を持ちましたか?

沖澤: 優人さん、シェーンベルクの《ヴァイオリン協奏曲》は、どういうきっかけで選ばれたのですか?私はシェーンベルクの音楽が入ってきにくいと感じていて……ベルクはわりと好きなんですが……こんなに難しい曲を初めてN響で演奏するなんてすごいと思いました。イザベル・ファウストさんのご提案ですか?

鈴木: そう、一昨年N響と共演した演奏会をイザベルが聴きにきてくれて、次はシェーンベルクをいっしょにと誘われたんです。十二音の世界には現代アートと似たものがありますよね。例えばひとつの絵画も、こっちから見ると戦争に、違う角度から見るとアモーレ(恋愛)に見えるということがあると思いますが、それと同様で、音の解釈の幅が広い。イザベルにはきっと彼女にしか見えていない世界があると思うので、それを教えてもらうのが楽しみです。
私は逆に、ベルクの《ヴァイオリン協奏曲》のほうが難しいと感じるんだよね。どのくらい「歌う」かの判断に幅があるので、自由であるからこそ同時に難しい。

原田: 両方振ったことがありますが、ベルクは計算されているからよけい難しいと私も思う。縛りがある中で美しく歌うことにいつも苦戦するというか。それに対してシェーンベルクはそんなに計算されていないから、演奏家の個性が出しやすいと思う。のどかは違うふうに感じているのだろうけど。

沖澤: そうですね、逆に感じていました!ベルクのほうがロマンティックで歌いやすいって。

鈴木: 作曲家たちにしても、新ウィーン楽派だからこうと決めて書いているわけではなく、どこを自由にしてどこをどう縛るかを書くたびに変えていったところがあるよね。
シェーンベルクの《ヴァイオリン協奏曲》の場合は、絶対にこう弾かなくてはいけないという縛りやプレッシャーが強い部分もあるいっぽう、突然に自由なところに放り出されて困惑する部分もあるし。自由度の変化のペースが速い作品だとは思う。

原田: 優人のプログラムは後半のシューベルトになった瞬間に、オーケストラもほっとしそうだね(笑)。でも前半は、作曲家の名前だけ見ると難しそうだけど、内容はとても聴きやすくて美しいと思う。

鈴木: スクリャービンやドビュッシーの世界に橋渡しをするようなプログラムといえるかな。

原田: そうだね。のどかのプログラムは、私もプログラミングをするときにコンセプトを大事にしているから、「光」というテーマがあると聞いてすごくいいなと思った。そういうテーマがあると聴く楽しみが見つかるよね。

沖澤: そう言ってもらえてうれしいです。全体を並べたら、現実とそうでない世界のはざま、「ここではないどこかを想う」プログラムになりました。私自身、音楽を聴きにいくときはコンセプトを求めているので。
慶太楼さんのプログラム、私は自分からスクリャービンを提案することはまずないので、すごくうらやましいです。きっと、慶太楼さんの体の中にある音楽なのでしょうね。



― みなさん、N響との共演だからこそつくりあげたレパートリーかと思いますが、N響はどんな特性を持つオーケストラだと感じていますか?

原田: これまでいろいろな作品で共演してきて、特に印象に残るのは、ストラヴィンスキー《火の鳥》全曲を取り上げたときのこと。長くロシアで勉強してきたこともあって、ロシア音楽は自分のDNAに組み込まれたようにも感じるのだけれども、このときのN響との演奏はとても心地よかった。スクリャービンの《交響曲第2番》は、柔らかさや硬さ、いろいろなカラーを出さなくてはいけない難しい作品なので、N響のパワフルながらすごく繊細な表現もできるフレキシビリティを最大限に引き出して演奏したいと思います。

鈴木: 私のプログラムに関しては、先ほどからみんなが難しいと言っているシェーンベルクのような作品では特に、N響メンバー個々の演奏能力の高さが発揮されると思います。ソリストと丁々発止にやりとりをするデュオの場面が突然に出てくるので、そういう機敏な切り替えも自在にこなしてくれ、より自由な演奏を実現できるだろうと想像していますね。

沖澤: 私はこれまでに3回ほどN響と共演していますが、最初のリハーサルで音が出たとき、毎回、うまい!ってびっくりするんですよね(笑)。何を演奏していても、ああ、これがN響の音だという強烈な個性があるというか。
前回はオーチャードホールで近代フランス音楽を取り上げたのですが、自由度を与えるとすぐに遊び始めてくれるのがすごく楽しくて(笑)。今回は会場がNHKホールなので、フランス音楽は後ろの席だと遠く感じるかもしれないと最初は思ったのですが、いつもそこで演奏しているのだからきっと大丈夫だろうと。それから、デュトワさんをはじめ歴代のフランス人指揮者から受け取ったものが引き継がれているオーケストラですから、それを聴かせてほしいという気持ちもあります。もちろん、それに加えて自分で引き出していかなくてはいけないわけですけれど。
N響のリハーサルって独特の緊張感がありますよね。どこかベルリン・フィルと似ているというか。一人ひとりフレンドリーだけれどお互いに尊敬し合っているから、ちゃんとやらないといけないという空気が感じられます。そういう緊張感と遊び心のギャップがすごくすてきで、楽しみなんです。


― せっかく指揮者が3人揃ったので、お互いの指揮スタイルについて感じることを語っていただけますか?

鈴木: 指揮者の特徴って、本番の指揮スタイルだけではなく、それ以外の部分で出るところも多いよね。

沖澤: ほかの指揮者がどんなリハーサルをしているのかは、すごく興味があります。

原田: 優人とは最近、山田和樹さん、藤岡幸夫さんと私という4人の指揮者が集まる企画でいっしょだったから、お互いにリハーサルを見る機会があって、おもしろかった。

鈴木: ほかの指揮者が見ていると、その気がなくても妙な威圧感が出てしまうみたいで、オーケストラもちょっとだけやりにくそうだった(笑)。

原田: そうそう、「ふーん、そこでそういうこと言うんだ」みたいな(笑)。でもやっぱりほかの指揮者のリハーサルを見ると、必ず発見があるよね。
オーケストラのアシスタントをしていたころ、いろいろなマエストロのリハーサルを見たけれど、指揮者の一言で音が変わる場面を目の当たりにして、自分でやっても同じようになるのだろうかと試してみたことがあります。それがすごくうまくいくときと、全然変わらないときがあって(笑)。のどかもベルリンにいるとそういう場面に居合わせるんじゃない?

沖澤: そうですね、私は真似をしてみるというのがうまくできないのですが。いろいろな方の指揮を見ていて思うのは、自分のスタイルを確立している指揮者はすぐにオーケストラの音に出るということ。例えばペトレンコさんは筋肉質なイメージで、指揮もすごく上手なんだけれど、それがいい意味で印象に残らないというか。
優人さんはちょっとそのイメージに近いですよね。とても理路整然としているけれど、そこに留まらないのがすばらしい個性だなと思って。これって、最初から指揮者としての勉強をしてきた人が見落としがちなところだと思うんです。

鈴木: 確かに、印象に残ることには意味を求めていないかもしれない。でも、私も自分が客席でオーケストラの演奏を聴いているときは、どうしても指揮者を見るし、その動きと音の因果関係を考えてしまいます。
のどかさんも慶太楼さんも、明るくアクティブで、体をいっぱいに使ってオーケストラにこういう音楽をしようと訴えかけるタイプという印象。そういう積極性や強さがすごくすてきだなと思っています。

沖澤: 最近、指揮者志望の若い方々にお会いする機会があって感じたことなのですが、もともと指揮者だというタイプの人が一部いるんだなと。慶太楼さんはまさにそういうタイプですよね。私は自分がそのタイプではないので、誰かが指揮者に向いてると見出してくれるのか、ご自分で気がつくものなのかなと不思議なんです。

原田: 確かに私の場合はそうかもしれない。指揮が絶対にやりたくて、この道を見つけて歩んできたという自覚があります。もちろんその間に波乱万丈の旅があったけれど。
私からすると、のどかと優人の指揮は、音楽が体だけじゃなくて顔でも表現されていると感じるんだよね。一般に、アジア人の指揮者って「顔で振る」のが下手だといわれるけれど。私の師匠(フレデリック・フェネル)は、日本には歌舞伎の文化があるわりに、日本語がもともと顔を使って表現しない言語だから、発達していない筋肉がたくさんあるのだろうと言っていました。でも2人を見ていると、心にある音楽を全部出しきっているということが、顔の表情から感じられるんだよね。指揮そのものというより、全体的なオーラが音楽を語っている印象がある。


― 指揮者という職業には、そういう表現やテクニックを駆使して、ベテランもいるオーケストラ奏者たちをまとめなくてはならないというご苦労もあるのでしょうか。

鈴木: ある方から、普通の会社なら100人の部下をまとめる管理職は勤続30年でやっとたどり着くポジションなのに、指揮者はそれを3日で成し遂げないとならないから大変ですねって言われて(笑)。

原田: 本当に、あまりお勧めできる職業ではないよね(笑)。若い子が指揮者をやりたいんですって言っていると、「それは大変だよ」って。

鈴木: その苦行を楽しめる人ならできるのかもしれないね。この3人はわりとそのタイプかもしれない。

沖澤: それに加えて、粘り強いことと、運も大切ですよね。長いスパンで勉強することなので、すぐに結果を出したいと思っていたら続かないかも。

鈴木: 本当に、いろいろな思い出があるね……。我慢して苦しかった時期もあったし、突然の幸運が訪れたこともあったし。

原田: いざチャンスがきた瞬間に、準備ができているか否かで差が出ると思う。

鈴木: アメリカンなことを言うねぇ(笑)。

原田: でも絶対にそうだと思うよ。アメリカやヨーロッパだと、巨匠の代役に若い指揮者が抜擢されることがよくあるんです。そういうチャンスでちゃんとした演奏ができないとその後見かけなくなるし、よい結果が残せると長く活躍できる。

鈴木: 我々にもまだこれからそういう機会があるかもしれないから、しっかり準備をしておかないといけないよね! よい刺激になりました。




原田慶太楼(指揮)
欧米やアジアを中心に目覚ましい活動を続けている気鋭の俊才。1985年東京に生まれ、インターロッケン芸術高校音楽科で指揮をフレデリック・フェネルに師事した。2006年21歳のときにモスクワ交響楽団を指揮してデビュー。その後ロリン・マゼールなどの薫陶を受け、タングルウッド音楽祭やPMFにも参加した。シンシナティ交響楽団およびシンシナティ・ポップス・オーケストラ、アリゾナ・オペラ、リッチモンド交響楽団のアソシエイト・コンダクターを経て、2020年シーズンからアメリカ・ジョージア州サヴァンナ・フィルハーモニックの音楽&芸術監督に就任。国内でも多くの楽団と共演し、2021年4月から東京交響楽団の正指揮者、2024年4月から愛知室内オーケストラの首席客演指揮者兼アーティスティック・パートナーを務めている。またオペラでも国内外で活躍。日本人初となるサー・ゲオルク・ショルティ・コンダクター賞のほか、渡邉曉雄音楽基金音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞など、受賞歴も数多い。2019年8月に初めてN響を指揮し、その後たびたび共演。2022年1月以来の定期公演出演となる今回、既成概念にとらわれないアプローチで清新かつ生気に満ちた音楽を生み出す彼が、演奏機会の少ないスクリャービン作品の魅力をいかに伝えてくれるのか?大きな注目が集まる。

[柴田克彦/音楽評論家]


鈴木優人(指揮)
東京藝術大学卒業後、同大学院を修了。オランダのハーグ王立音楽院修士課程を修了後、指揮者、作曲家、ピアニスト、チェンバロ奏者、オルガン奏者として目ざましい活動を行っている。調布国際音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、NHK-FM『古楽の楽しみ』の案内役としても親しまれている。アンサンブル・ジェネシスの音楽監督として、さまざまな時代の多彩な作品をオリジナル楽器で取り上げる一方で、バッハ・コレギウム・ジャパンの首席指揮者、読売日本交響楽団の指揮者/クリエイティヴ・パートナー、関西フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者として活躍中。古楽器アンサンブルとモダン・オーケストラの双方で、作品に即したしなやかなアプローチを繰り広げ、注目すべき成果を収めている。NHK交響楽団に指揮者デビューしたのは、2019年12月の定期公演であるが、それ以前の2018年11月と2019年5月にオルガン奏者として共演を重ねてきた仲でもある。今回の定期公演では、ウェーベルンのロマンティックな初期作、彼の師匠であるシェーンベルクが十二音技法を用いた協奏曲、ウェーベルンが編曲した大バッハ、シューベルトの交響曲といった具合に、“ウィーン”という地を軸にしつつ、時代と音楽書法を自在に行き来する興味深いプログラムが組まれている。大いに期待したい。

[満津岡信育/音楽評論家]


沖澤のどか(指揮)
ベルリンを拠点に国際的に活動する、今もっとも注目される若手指揮者のひとり。2023年4月より京都市交響楽団第14代常任指揮者を務めている。青森県出身。東京藝術大学で指揮を高関健と尾高忠明に師事、その後ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンで学ぶ。2019年にブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、あわせてオーケストラ賞と聴衆賞も受賞した。2020年から2022年6月末までベルリン・フィルハーモニー・カラヤン・アカデミー奨学生およびキリル・ペトレンコのアシスタントを務め、2022年3月にはベルリンのベルヴュー宮殿でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「ウクライナのための連帯コンサート」を指揮した。また、同年5月にはキリル・ペトレンコとともにカラヤン・アカデミー50周年記念公演に出演している。以後、バーゼル室内管弦楽団、BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団、MDRライプツィヒ放送交響楽団、ミュンヘン交響楽団など世界各地の楽団に客演しながら、日本の主要オーケストラとも共演を重ねる。セイジ・オザワ松本フェスティバル2022では、モーツァルトの《歌劇「フィガロの結婚」》でサイトウ・キネン・オーケストラと共演し、絶賛を博した。N響とは2020年の「夏のフレッシュコンサート」で初共演。定期公演には今回が初登場となる。
フランス音楽プログラムでN響から精彩に富んだサウンドを引き出してくれることだろう。

[飯尾洋一/音楽ジャーナリスト]


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