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- 第2015回 定期公演 Bプログラム
※約2時間の公演となります(休憩20分あり)。
※やむを得ない理由で出演者や曲目等が変更となる場合や、公演が中止となる場合がございます。公演中止の場合をのぞき、チケット代金の払い戻しはいたしません。
ABOUT THIS CONCERT特徴
2024年6月Bプログラム 聴きどころ
ウィーンという街にはふたつの貌(かお)がある。ひとつはモーツァルトやベートーヴェン、そしてブラームスが活躍したドイツ・オーストリア音楽の「中心」という側面。そしてもうひとつは──地図を見ればすぐわかるように──チェコ、スロヴァキア、そしてハンガリーなどと接したヨーロッパの「周縁」的な側面。シューベルトと新ウィーン楽派の作曲家たちの共通点は、このふたつの貌をそのまま受けついだ点にあろう。いわば、正統的な「中心」にして、孤独な「周縁」。彼らの音楽の魅力は、そんな二律背反のなかに潜んでいる。
(沼野雄司)
PROGRAM曲目
ウェーベルン/パッサカリア 作品1
「中心/周縁」だけでなく、新ウィーン楽派の音楽には、もうひとつのユニークな二面性がある。それは調性に対する革新的な態度の一方で、形式にかんしては極度の保守性を示す点だ。
一般に「現代音楽」の出発点とされる彼らの音楽は、性急なまでに無調への歩みを進めていったが、しかし形式については、むしろワーグナー以前へ逆戻りして、バロックからロマン派までのフォルムを頑ななまでに墨守しようとする。アントン・ウェーベルン(1883〜1945)の記念すべき「作品1」である《パッサカリア》も、その例にもれない。
1908年、最初期の作品だから、まだ無調に足を踏み入れてはいない。それでもレ─ド♯─シ♭─ラ♭─ファ─ミ─ラ─レという基本の8音音列は、「シ♭─ラ♭」というあたりで相当な浮遊感を発揮する。
一方、形式はタイトルに示されている通り、バロック時代のパッサカリアそのもの。弦のピチカートで主題がまずは提示されたあと、律義に23の変奏とコーダが続く。もっとも、途中で長調へと転じるあたりもふくめてブラームスの《交響曲第4番》終楽章にそっくりだから、バロック→ブラームス→ウェーベルンという連鎖で考えるべきなのかもしれない。
24歳の筆であることを考えると驚くべき完成度を誇る作品だが、最初の変奏からフルート、クラリネット、ホルンと、順に楽器が足されてゆく特異な音色感覚は、すでにのちのバッハ編曲を予言するものといえよう。
(沼野雄司)
演奏時間:約11分
作曲年代:1908年
初演:1908年11月4日、ウィーン、作曲者自身の指揮
シェーンベルク/ヴァイオリン協奏曲 作品36
1933年10月、アルノルト・シェーンベルク(1874〜1951)は、ナチ政権を逃れて、パリ経由でアメリカに渡った。最初は東海岸で仕事を見つけたが、翌1934年に温暖な気候のカリフォルニアへと居を移す。彼はこの新天地で、誰に依頼されるともなくヴァイオリン協奏曲の作曲に取りかかった。
曲は1936年9月に完成。さて、問題は初演である。前代未聞といってよい難曲だけに並みの奏者では歯が立たないことは明らか。シェーンベルクが白羽の矢を立てたのは、ちょうどこの頃、やはり東海岸からロサンゼルスに転居してきたヤッシャ・ハイフェッツだった。彼は当時、世界最高のヴァイオリニストとして人気の絶頂にあり、これ以上は望めない人選といえよう。
しかしハイフェッツは、譜面を慎重に検討した結果、申し出を断ってしまう。彼が初演を断ったのは、おそらくは純粋に技術的な理由というよりは、十二音技法で書かれたこの楽曲を、自分なりに理解することが難しかったためだろう。結局、1940年になってから、ベルクの協奏曲初演でも知られるルイス・クラスナーが独奏を務めて、ようやく初演がかなったのだった。
ちなみに、十二音技法の見本のように語られるこの協奏曲だが、次のようなエピソードが残されている。曲のピアノ・リダクションを担当したグライスレが、楽譜上のいくつもの音列の間違いを手紙で指摘すると、シェーンベルクは「だからどうだというんです?」と答えたというのである(フライターク『シェーンベルク』)。つまり、シェーンベルクは、決してシステムに依存しているだけではなく、感覚的に音を選んでもいるわけだ。
第1楽章は3つの部分からなり、何よりリズムの多彩な発展が聴きどころ。最後には強烈なカデンツァ(これも古典派以来の伝統的なフォルムだ)が待っている。第2楽章は、管楽器のソロを生かした複雑な音色が特徴。そして行進曲風に始まる第3楽章は、おそろしく多層的な音楽であり、その様態はしばしば彼のオペラ《モーゼとアロン》の響きを思い起こさせる。作曲時期が近接しているから当然ともいえるのだが、この2曲を双子のようにとらえることも、ひょっとすると可能なのかもしれない。
(沼野雄司)
演奏時間:約32分
作曲年代:1936年9月
初演:1940年12月6日、レオポルド・ストコフスキーの指揮、ルイス・クラスナーの独奏、フィラデルフィア管弦楽団
バッハ(ウェーベルン編)/リチェルカータ
第1次世界大戦終結後の1920年代。新古典主義と呼ばれる時代が到来すると、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750)の作品をオーケストラ用に編曲する試みが次々にあらわれた。有名なのは指揮者のストコフスキーによるバッハ編曲だろう。フィラデルフィア管弦楽団のゴージャスなサウンドによるレコードは世界的なヒットをとばした。ちなみにシェーンベルクも、1922年にバッハのコラール前奏曲を編曲している。
ウェーベルンがバッハの《音楽のささげもの》に含まれている、6声のリチェルカータ(「リチェルカータ」は、ほぼ「フーガ」と同義)を編曲したのは、少し遅れた1935年。もともとは経済的に困窮をきわめていた彼を見て、ウニヴェルザール社が勧めたのだという。流行に便乗して、少しお小遣いを稼いだらどうかというわけだ。
ところが、ウェーベルンの頭にあったのはまったく異なった編曲のかたちだった。構造の結晶のようなバッハ作品を、自らのやり方で彩色すること。彼は「音色のセリー」とでも呼びたくなるようなやり方を用いて、奇抜な色合いの編曲を行なうことに成功したのだった。
たとえば楽曲冒頭の主題、まずはトロンボーン→ホルン→トランペットという具合に、金管楽器が順に旋律を担当してゆくが、2回目の主題はこれに呼応するようにしてフルート→クラリネット→オーボエと、木管楽器によって担われる。このように入れ子状にさまざまな楽器が配されて、くるくると色合いを変えてゆくのである。
実際の効果としては、あまりにせわしないというか、やや「くどい」音色効果であることも否めない。しかしこうした実験的なオーケストレーションと、原曲にはないテンポの変化によって、バッハの編曲史にあらたな1ページが加わったのだった。
(沼野雄司)
演奏時間:約8分
作曲年代:[原曲]1747年夏 [編曲版]1935年
初演:[原曲]不明 [編曲版]1935年4月25日、ロンドン、編曲者自身の指揮
シューベルト/交響曲 第5番 変ロ長調 D. 485
先に、20世紀前半の「バッハ編曲ブーム」について触れたが、一方で20世紀末から生じているのが、現代作曲家によるフランツ・シューベルト(1797~1828)の編曲ブームである。もちろん「編曲」といっても原型をとどめないものが多いのだが、シューベルト作品の持つ多義性や曖昧さ、あるいは「冗長さ」といったものが、現代の作曲家を強く惹(ひ)きつけるのだろう。
シューベルトがこれだけ伸び伸びと自分の世界を広げることができたのは、歌曲以外はほとんど「商売」にならなかったせいでもある。現在これだけの人気を誇っているにもかかわらず、生前に出版された弦楽四重奏曲はわずかに1曲、交響曲にいたっては全く出版されていない。
1816年、作曲者19歳の年に書かれたこの《第5番》も、公的な演奏会のためではなく、ハトヴィヒ家の私的なオーケストラで演奏するために書かれたらしい。クラリネット、トランペット、ティンパニなどを含まない簡素な楽器編成は、おそらくはそのためだ。
第1楽章は、4小節の導入部に続いて主要主題があらわれる。分散和音が付点で上行するだけのシンプルな主題は、しかし曲全体を一瞬で象徴するような瑞々(みずみず)しさ。第2楽章は、おそろしく繊細な転調の数々が若き作曲家の感受性をよく示している。第3楽章はト短調という調性、スケルツォ的な性格などから、しばしばモーツァルトの《第40番》のメヌエット楽章との類似が指摘される。ただし、こちらの方がだいぶ「不純」だ。そして最後の第4楽章、小さな動きから驚くほど多彩な表情が産みだされてゆく様子は、一種、宇宙的な拡がりを感じさせる。
ちなみに、この交響曲が公開の席で初演されたのは、作曲者の死後10年以上が経過した1841年のこと。さらに驚くべきことに、総譜が出版されるまでには、初演からさらに40年以上という時間を要したのだった。
(沼野雄司)
演奏時間:約29分
作曲年代:1816年10月3日
初演:[私的初演]1816年秋、ハトヴィヒ邸 [公開初演]1841年10月17日、ウィーン
[アンコール曲]
6/19:ニコラ・マッテイス(父)/「パッサッジョ・ロット」
6/20:ルイ=ガブリエル・ギユマン/無伴奏ヴァイオリンのためのアミュズマン 作品18 ー 第12曲 アルトロ
ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
「フランツ・シューベルト」
ARTISTS出演者
指揮鈴木優人
東京藝術大学卒業後、同大学院を修了。オランダのハーグ王立音楽院修士課程を修了後、指揮者、作曲家、ピアニスト、チェンバロ奏者、オルガン奏者として目ざましい活動を行っている。調布国際音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサーを務め、NHK-FM『古楽の楽しみ』の案内役としても親しまれている。アンサンブル・ジェネシスの音楽監督として、さまざまな時代の多彩な作品をオリジナル楽器で取り上げる一方で、バッハ・コレギウム・ジャパンの首席指揮者、読売日本交響楽団の指揮者/クリエイティヴ・パートナー、関西フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者として活躍中。古楽器アンサンブルとモダン・オーケストラの双方で、作品に即したしなやかなアプローチを繰り広げ、注目すべき成果を収めている。NHK交響楽団に指揮者デビューしたのは、2019年12月の定期公演であるが、それ以前の2018年11月と2019年5月にオルガン奏者として共演を重ねてきた仲でもある。今回の定期公演では、ウェーベルンのロマンティックな初期作、彼の師匠であるシェーンベルクが十二音技法を用いた協奏曲、ウェーベルンが編曲した大バッハ、シューベルトの交響曲といった具合に、“ウィーン”という地を軸にしつつ、時代と音楽書法を自在に行き来する興味深いプログラムが組まれている。大いに期待したい。
[満津岡信育/音楽評論家]
ヴァイオリンイザベル・ファウスト
彼女ほど音楽に尽くすヴァイオリニストがほかにいるだろうか。舞曲を交えたバロックの無伴奏や新ウィーン楽派の調べ、近現代の精妙な作品に鮮やかなテクニックを披露するのはもちろんのこと、曲の背景やメッセージ性をも浮き彫りにする求心的な音楽観、探究心が素晴らしい。凛(りん)とした美音で創造の地平を拓く現代最高峰のアーティスト、イザベル・ファウストが2021年2月のシマノフスキ《ヴァイオリン協奏曲第1番》(指揮:熊倉優)以来、NHK交響楽団のステージに帰って来る。名伯楽クリストフ・ポッペンとデーネシュ・ジグモンディのもとで学び、1987年の第1回レオポルト・モーツァルト国際ヴァイオリン・コンクール(アウグスブルク)、および1993年のパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール(ジェノヴァ)優勝を契機に檜(ひのき)舞台に躍り出た。しかしファウストはキャリアを急がず、母国ドイツ、そしてフランス、スイスで研鑽(けんさん)を積む。近年の活躍はいちだんと目覚ましく、ジェルジュ・リゲティ生誕100年を記念したプロジェクトでも賞賛を博した。今回弾くシェーンベルクの《ヴァイオリン協奏曲》(1936)も十八番(おはこ)で、2019年にはダニエル・ハーディング指揮スウェーデン放送交響楽団と録音している。
[奥田佳道/音楽評論家]
MOVIEムービー
2024年6月Bプログラムによせて
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料金
S席 | A席 | B席 | C席 | D席 | |
---|---|---|---|---|---|
一般 | 9,800円 | 8,400円 | 6,700円 | 5,400円 | 4,400円 |
ユースチケット | 4,500円 | 4,000円 | 3,300円 | 2,500円 | 1,800円 |
※価格は税込です。
※定期会員の方は一般料金の10%割引となります。また、先行発売をご利用いただけます(取り扱いはWEBチケットN響・N響ガイドのみ)。
※この公演のお取り扱いは、WEBチケットN響およびN響ガイドのみです。
※車いす席についてはN響ガイドへお問い合わせください。
※券種により1回券のご用意ができない場合があります。
※当日券販売についてはこちらをご覧ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
ユースチケット
25歳以下の方へのお得なチケットです。
(要登録)
定期会員券
発売開始日
年間会員券
2023年7月17日(月・祝)10:00am
[定期会員先行発売日: 2023年7月9日(日)10:00am]