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2023年9月定期公演プログラムについて
公演情報2023年7月14日
オーケストラ・コンサートのプログラムをどう組み立てるか。それは指揮者だけでなく、我々のような企画担当者にとっても、いつも大変悩ましい問題だ。集客と芸術性のバランス、予算、スケジュール、前後のプログラムとの兼ね合い、曲の難易度、アーティストの持ち味や特性、等々。そして何よりも大事な、楽団の個性とポリシ-。計算に入れなければならないことが山ほどある。
それらはさておき、純粋に中味だけを考えたときに、1回のコンサートに複数の作曲家の作品をパッケージするか、一人の作曲家の作品だけで通すかは、人によって好みの違いもあり、一筋縄では行かない選択の分かれ道である。
例えばレナード・スラットキンは、同じ作曲家の曲だけでは芸がない、多種多様な作品を提供するところにプログラミングの醍醐味があるという明確な考えの持ち主で、さすがは筋金入りのエンターテイナーだ。
一方でN響のタイトル指揮者、ファビオ・ルイージやパーヴォ・ヤルヴィは、一人の作曲家による「オール・〇〇・プログラム」に抵抗がないばかりか、むしろ積極的にそのように組みたがる傾向がある。このやり方には、単調に陥るリスクがあるものの、特定の作曲家の世界観にじっくり浸れるというメリットがあることも確かであろう。
シュトラウス若き日の名作《イタリアから》で
ルイージが母国イタリアを活写する
2023-24シーズンは、首席指揮者ルイージによる「オール・R. シュトラウス・プログラム」でスタートする。[Aプログラム]の《ブルレスケ》と《イタリアから》は、どちらも1886年、22歳のシュトラウスが作曲した。彼がオペラはおろか、初期の主要ジャンルである交響詩にも、まだ手を染めていなかった頃の作品である。《ブルレスケ》は、曲の構成やモチーフの扱い方にブラームスの影響がみられる。また《イタリアから》は、ローマ帝国時代の廃墟や、風光明媚なナポリを訪れたシュトラウスが「美しい光景そのものではなく、それを目にした時の感情を描いた」という作品で、このコメントは、ベートーヴェンが《田園交響曲》について述べたことと、ほとんど同じである。
つまりこの時期のシュトラウスが、ドイツの偉大な先人を研究し、そこから独自性を編み出そうと工夫を重ねていた、ということがよくわかる。個別に聴いていたのではなかなか気づかない、こうした発見があるところに「オール・〇〇・プログラム」の面白さがあるように思う。
《イタリアから》は、ルイージが各地でたびたび取り上げ、レコーディングもしているお気に入りの作品である。首席指揮者就任前から、この曲への愛を熱く語っていた。ドイツ後期ロマン派を得意とするマエストロの芸術的な関心と、イタリア人のメンタリティとして共感できる部分のバランスが、絶妙にうまく取れた音楽なのだろう。
終楽章には、シュトラウスが現地の民謡と勘違いして引用したという、有名なデンツァ作曲《フニクリ・フニクラ》のメロディーが現れる。この主題がソナタ形式の枠組みの中でどう展開されるかも、聴きどころの1つである。
《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》は、上記2作の10年近く後に作曲された。《イタリアにて》をきっかけに、自分の進むべき方向をはっきりつかんだというシュトラウスは、その後しばらく交響詩の作曲に熱中する。技術に磨きをかけた彼は《ティル》で初めて、4管という難易度の高い巨大な楽器編成を採用し、オーケストレーションの名人としての評価を確立することになった。
中世のトリックスターを題材にしたこの曲が持つユーモラスな味わいは、「風刺のきいたジョーク」を言葉の意味に持つ《ブルレスケ》にも通じるものがあり、この2曲を続けて演奏するのは、興味深い試みになるはずだ。

Aプログラム(NHKホール)
2023年9月9日(土)6:00pm
2023年9月10日(日)2:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ピアノ : マルティン・ヘルムヒェン*
R. シュトラウス/ 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
R. シュトラウス/ブルレスケ ニ短調*
R. シュトラウス/交響的幻想曲「イタリアから」作品16
優れた《指環》管弦楽編曲版で
何を選び、どう組み合わせるかがプログラミングの要諦だとすれば、長大な楽曲をダイジェストで聴かせる際にも、同じように思い切った取捨選択が必要となろう。
[Cプログラム]の《オーケストラル・アドベンチャー》は、ワーグナーの《楽劇「ニーベルングの指環」》を、コンサート用に編曲したもの。オランダの打楽器奏者フリーヘルは、全曲の演奏におよそ16時間かかる音楽を、わずか1時間に縮めるという離れ業に成功した。この編曲版の出来のよさは、1992年の初演以来、たちまち世界中で頻繁に演奏されるようになったという事実が証明している。
編曲の最大の特徴は、《指環》の壮大なストーリーを、英雄ジークフリートを主役とする冒険物語に集約し、これを主軸とする音楽が、1本の縦糸として紡がれていく点にある。有名な「ジークフリートの動機」を中心に、彼が奏でる楽器である「角笛の動機」や、大蛇を倒す武器となった「剣の動機」(これらは「ジークフリートの動機」と密接に関係がある)が、循環主題のように繰り返し現れることで、聴き手は英雄の愛と戦いの軌跡を克明にたどることができるのだ。
さらに言えば、これらの動機は、ライン河のさざ波を思わせる、曲冒頭の変ホ長調の分散和音から導き出されたもので、英雄の生きざま、ひいては人の一生が、自然から生まれ、やがてそこへ回帰していくものであることをも、強く意識させる構成になっている。単なるメドレーのような編曲とは次元が異なる、卓抜な手法という他ない。
新シーズン[Cプログラム]のテーマは、”冒険とファンタジー”。その幕開けにぴったりの、首席指揮者ルイージの選曲である。

2023年9月9日(土)6:00pm
2023年9月10日(日)2:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ピアノ : マルティン・ヘルムヒェン*
R. シュトラウス/ 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
R. シュトラウス/ブルレスケ ニ短調*
R. シュトラウス/交響的幻想曲「イタリアから」作品16
優れた《指環》管弦楽編曲版で
英雄の愛と戦いの軌跡をたどる
何を選び、どう組み合わせるかがプログラミングの要諦だとすれば、長大な楽曲をダイジェストで聴かせる際にも、同じように思い切った取捨選択が必要となろう。[Cプログラム]の《オーケストラル・アドベンチャー》は、ワーグナーの《楽劇「ニーベルングの指環」》を、コンサート用に編曲したもの。オランダの打楽器奏者フリーヘルは、全曲の演奏におよそ16時間かかる音楽を、わずか1時間に縮めるという離れ業に成功した。この編曲版の出来のよさは、1992年の初演以来、たちまち世界中で頻繁に演奏されるようになったという事実が証明している。
編曲の最大の特徴は、《指環》の壮大なストーリーを、英雄ジークフリートを主役とする冒険物語に集約し、これを主軸とする音楽が、1本の縦糸として紡がれていく点にある。有名な「ジークフリートの動機」を中心に、彼が奏でる楽器である「角笛の動機」や、大蛇を倒す武器となった「剣の動機」(これらは「ジークフリートの動機」と密接に関係がある)が、循環主題のように繰り返し現れることで、聴き手は英雄の愛と戦いの軌跡を克明にたどることができるのだ。
さらに言えば、これらの動機は、ライン河のさざ波を思わせる、曲冒頭の変ホ長調の分散和音から導き出されたもので、英雄の生きざま、ひいては人の一生が、自然から生まれ、やがてそこへ回帰していくものであることをも、強く意識させる構成になっている。単なるメドレーのような編曲とは次元が異なる、卓抜な手法という他ない。
新シーズン[Cプログラム]のテーマは、”冒険とファンタジー”。その幕開けにぴったりの、首席指揮者ルイージの選曲である。

Cプログラム(NHKホール)
2023年9月15日(金)7:30pm
2023年9月16日(土)2:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ワーグナー(フリーヘル編)/楽劇「ニーベルングの指環」-オーケストラル・アドベンチャー-
匠のタクトによるモーツァルトで
[Bプログラム]の指揮は、定期公演初登場のトン・コープマンで、こちらも一人の作曲家を集めた「オール・モーツァルト」となる。マエストロは過去2回、2017年と2019年の共演でも、モーツァルトばかりのプログラムを披露した。その時の《第41番「ジュピター」》《第40番》の続編として、今回は後期三大交響曲の1つである《第39番》をこちらからリクエストした。
古楽とモダン・オーケストラの両分野で活躍するコープマンの指揮の最大の特徴は、風通しのよい音楽作りにある。モダン・オケに古楽の奏法を強引に押し付けるようなことはせず、そのエッセンスだけをシンプルな言葉と表情で伝える。リハーサルの進め方はあくまで無理がなく、奏者に余計なストレスをかけないので、その結果、いつも自発的でみずみずしい演奏が生まれるのだ。彼の指揮する音楽を聴くといつも、明るい陽光の入る暖かな室内を連想してしまう。
N響メンバーがソリストを務める企画は、これまでにも時々行ってきたが、幸いなことにとても好評で、今シーズンの定期公演でも2回予定している。その第1回として、フルート首席の神田寛明が登場する。フルーティスト必修の名曲である《フルート協奏曲第2番》を、すばらしい指揮者と演奏できるのは、古楽かモダンかといったスタイルに関わりなく、楽しみでならないという。気心の知れた奏者たちのサポートも得て、一体感のあるアンサンブルが聴けることだろう。
1曲目の《交響曲第29番》は、フルートなしで演奏できるという実務的な理由もあるが、澄みわたるような晴れやかさ、付点リズムを多用した2つの中間楽章の優美さが、コープマンの指揮する初秋のコンサートにふさわしいと思い、提案したものである。
“芸術の秋”の開幕を、3種類の「オール・〇〇・プログラム」でお楽しみ頂ければ幸いである。

Bプログラム(サントリーホール)
2023年9月20日(水)7:00pm
2023年9月21日(木)7:00pm
指揮 : トン・コープマン
フルート : 神田寛明(N響首席フルート奏者)
モーツァルト/交響曲 第29番 イ長調 K. 201
モーツァルト/フルート協奏曲 第2番 ニ長調 K. 314
モーツァルト/交響曲 第39番 変ホ長調 K. 543
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2023年9月15日(金)7:30pm
2023年9月16日(土)2:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ワーグナー(フリーヘル編)/楽劇「ニーベルングの指環」-オーケストラル・アドベンチャー-
匠のタクトによるモーツァルトで
みずみずしい古楽のエッセンスを堪能する
[Bプログラム]の指揮は、定期公演初登場のトン・コープマンで、こちらも一人の作曲家を集めた「オール・モーツァルト」となる。マエストロは過去2回、2017年と2019年の共演でも、モーツァルトばかりのプログラムを披露した。その時の《第41番「ジュピター」》《第40番》の続編として、今回は後期三大交響曲の1つである《第39番》をこちらからリクエストした。古楽とモダン・オーケストラの両分野で活躍するコープマンの指揮の最大の特徴は、風通しのよい音楽作りにある。モダン・オケに古楽の奏法を強引に押し付けるようなことはせず、そのエッセンスだけをシンプルな言葉と表情で伝える。リハーサルの進め方はあくまで無理がなく、奏者に余計なストレスをかけないので、その結果、いつも自発的でみずみずしい演奏が生まれるのだ。彼の指揮する音楽を聴くといつも、明るい陽光の入る暖かな室内を連想してしまう。
N響メンバーがソリストを務める企画は、これまでにも時々行ってきたが、幸いなことにとても好評で、今シーズンの定期公演でも2回予定している。その第1回として、フルート首席の神田寛明が登場する。フルーティスト必修の名曲である《フルート協奏曲第2番》を、すばらしい指揮者と演奏できるのは、古楽かモダンかといったスタイルに関わりなく、楽しみでならないという。気心の知れた奏者たちのサポートも得て、一体感のあるアンサンブルが聴けることだろう。
1曲目の《交響曲第29番》は、フルートなしで演奏できるという実務的な理由もあるが、澄みわたるような晴れやかさ、付点リズムを多用した2つの中間楽章の優美さが、コープマンの指揮する初秋のコンサートにふさわしいと思い、提案したものである。
“芸術の秋”の開幕を、3種類の「オール・〇〇・プログラム」でお楽しみ頂ければ幸いである。

Bプログラム(サントリーホール)
2023年9月20日(水)7:00pm
2023年9月21日(木)7:00pm
指揮 : トン・コープマン
フルート : 神田寛明(N響首席フルート奏者)
モーツァルト/交響曲 第29番 イ長調 K. 201
モーツァルト/フルート協奏曲 第2番 ニ長調 K. 314
モーツァルト/交響曲 第39番 変ホ長調 K. 543
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]