ページの本文へ

  1. ホーム
  2. コンサート情報
  3. 定期公演 2023-2024シーズン
  4. Aプログラム
  5. 第1989回 定期公演 Aプログラム

定期公演 2023-2024シーズンAプログラム
第1989回 定期公演 Aプログラム

NHKホール
Googleマップ 座席表

※約2時間の公演となります(休憩20分あり)。
※やむを得ない理由で出演者や曲目等が変更となる場合や、公演が中止となる場合がございます。公演中止の場合をのぞき、チケット代金の払い戻しはいたしません。

ABOUT THIS CONCERT特徴

リヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)は「バイエルンの」作曲家である。プロイセンによってドイツ統一が成されつつあった時期に、シュトラウスはバイエルン王国の首都ミュンヘンで育った。彼の音楽の解放感と闊達(かったつ)な笑いには、オクトーバーフェスト(ミュンヘン名物のビール祭り)的な快楽が満ちあふれている。これは北方ドイツの作曲家たちには見られないものだ。今日のプログラムは、若き日のシュトラウスが次第に自らの本領を見いだしていく道程に焦点を合わせている。

(岡田暁生)

PROGRAM曲目

R. シュトラウス/ 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28

ホルンはシュトラウスの名刺代わりの楽器である。彼の父フランツはミュンヘン宮廷歌劇場の伝説のホルン奏者だったが、私生児として鐘楼守の叔父に育てられ、10歳にも満たない頃から酒場でいろいろな楽器を演奏していた。大道芸人的というかティル・オイレンシュピーゲル的な民話世界を出自とする人だった。主人公をホルンで描く本作品は、そんな父へのオマージュだったのかもしれない。1889年初演の《交響詩「ドン・フアン」》はシュトラウス最初のブレークスルーであったが、その後も彼はロマン派的世界苦を完全にはふっきれないでいた。ワーグナーにあまりに呪縛されていたのであろう。翌年の《マクベス》と《死と変容》は重い苦渋に満たされ、大失敗に終わった最初のオペラ《グントラム》(1894年初演)も同様である。そんな暗雲を一掃するように、1895年の《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》でシュトラウスは底抜けの「笑い」を全開にした。ドイツ・ロマン派的な泣き笑いではない。反権威主義的な乾いた挑発の哄笑(こうしょう)であり、ニーチェの影響を見ることは難しくない。《ティル》の比類なき独創性は、従来のドイツ・ロマン派の孤独と苦悩のポーズを完全に断ち切った点にある。
 《ティル》の構成は極めて標題音楽的である。「むかしむかし」で始まり、ティルが登場し(ホルン)、意地悪く笑って(クラリネット)、そして旅に出る。形式はロンド。毎回違ったいたずらのエピソードをはさみつつ、次の冒険へ向かうティルのテーマが繰り返し戻ってくる。ソナタ形式ではないところがミソだ。ソナタ形式より軽いとみなされがちだったロンドを敢えて使う。堂々巡りで何が悪い? ソナタ的弁証法なんてくそくらえ、人間なんてなんの進歩もなく似たような愚行を繰り返すものなのさ! ──ティルが悲鳴を上げて処刑にされたあと、また冒頭の「むかしむかし」のテーマが戻ってくる。そしてしんみりしている聴衆を嘲(あざわら)うように、爆笑で曲は閉じられる。

(岡田暁生)


演奏時間:約15分
作曲年代:1894年秋〜1895年5月6日
初演:1895年11月5日、フランツ・ヴュルナーの指揮、ケルン

R. シュトラウス/ブルレスケ ニ短調*

ブルレスケとはお下品な笑劇のことである。のちの《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》や《ばらの騎士》のオックス男爵など、ブルレスケ表現はシュトラウスの十八番(おはこ)だった。若書きのシュトラウスらしからぬ重い曲ではあるが、本作品冒頭の4台のティンパニによるソロは当時としては型破りであり、彼らしい挑発的な笑いの萌芽(ほうが)を見て取ることができる。作曲はシュトラウスがマイニンゲン宮廷管弦楽団でハンス・フォン・ビューローの助手をしていた1885〜1886年ごろ。マイニンゲンはシュトラウスの最初の職場であり、ビューローはとても彼をひいきにしてくれた。当時のシュトラウスはブラームス信奉者で、分厚いオーケストラにはブラームスのピアノ協奏曲の影響が濃厚である。調性もブラームスの《ピアノ協奏曲第1番》と同じニ短調。ただし1楽章形式をとっている点では、のちの交響詩を連想させもする。演奏至難の技巧はシュトラウスの師といっていいビューローの名人芸を想定したものだろうが、初演を打診されたビューローは、ピアノ向きではないし、手が小さい自分には指の間隔が大きすぎる、そもそも「毎小節違う手のポジションが要るややこしい作品を、4週間も練習しろというのですか?」と断りを入れた。初演は剛腕ピアニストとして鳴らしたオイゲン・ダルベール。作曲から5年近くも経った1890年のことだった。同年の出版の話に対してシュトラウスは、お金がほしいのはやまやまだが、とうに卒業した作品を今になって出版するのは気が引けると、友人への手紙で書いている。ビューローはのちに伴奏指揮は務めたが、ブラームスへの手紙で「天才的なところもあるがぞっとする曲だ」と書いている。シュトラウスは同じくマイニンゲン時代に「嬰ハ短調のラプソディー」というピアノ協奏曲も構想したが未完に終わった。かくしてシュトラウスはピアノ・ヴィルトゥオーソ的ジャンルは早々断念し、オーケストラ・ヴィルトゥオーソに自分の領分を探すことになる。

(岡田暁生)


演奏時間:約19分
作曲年代:1885〜1886年
初演:1890年6月21日、作曲者自身の指揮、オイゲン・ダルベールの独奏

R. シュトラウス/交響的幻想曲「イタリアから」作品16

シュトラウスは「良家のお坊ちゃん」であった。上述のように父フランツはミュンヘン宮廷歌劇場の名ホルン奏者(《トリスタンとイゾルデ》《ニュルンベルクのマイスタージンガー》初演時の第1ホルン奏者!)であり、母はミュンヘンの大ビール会社のお嬢さんだった。当時のヨーロッパの上流家庭には、20歳くらいになると息子に見聞を広めるためのイタリア長期旅行をさせる習慣があり(グランドツアー)、シュトラウスも1886年4月から5月にかけてイタリアに行かせてもらった。ローマとナポリを中心に名所旧跡を見て回り、鮮烈な印象を受けた彼が、帰国後すぐ完成させたのが本作品である。初演には父もホルン奏者として参加、師ビューローも大変気に入ってベルリン・フィルハーモニー管弦楽団での上演に尽力、1899年にはマーラーもウィーン・フィルハーモニー管弦楽団で演奏している。
 本作品でシュトラウスは初めて、「自分のトーン」を見つけた。まだブラームス的な4楽章形式ではある。しかし彼ははっきり標題音楽へ舵(かじ)を切った。そして燃え立つ南方的蠱惑(こわく)を見つけた。第1楽章は全体の序奏であり、シュトラウスの言葉によれば「エステ荘から眺めた灼熱の太陽に燃えるローマのカンパーニャ」を描いたもの。冒頭の長三和音と短三和音の明滅はもう印象派。またハープ伴奏による吟遊詩人の語りのような弦楽器の燃えるカンタービレは、ベルリオーズの《イタリアのハロルド》を連想させる。ドイツ的なものへの訣別(けつべつ)、そしてラテン的なものへのクレド。第2楽章はソナタ形式で書かれている。シュトラウスの父はウィーン古典派の熱烈な支持者で、息子もその薫陶を受けた。豪華なオーケストレーションをカッコに入れて聴けば、意外なほど古典主義的な音楽である。初期シュトラウスの室内楽作品がメンデルスゾーンのようであったことが思い出される。そして緩徐楽章である第3楽章は再び印象派的。シュトラウスいわく「風にそよぐ葉、鳥の歌、自然のひそやかな声、海の遠い波、岸辺に届く寂しい歌」を描いたという。木管の半音階的な虹色の輝きは、《ばらの騎士》の銀のバラ献呈の場面などを先取りするシュトラウスの十八番(おはこ)。タランテラの乱舞である第4楽章は、ヴェスヴィオ登山鉄道のテーマ歌《フニクリ・フニクラ》を自在にパラフレーズしたことで有名である。シュトラウスはこれをナポリ民謡だと思い込んでいたが、作曲者のルイジ・デンツァがそれを知って訴訟沙汰になった。交響曲のフィナーレでこうした俗謡を引用すること自体、ロマン派の真面目くさった交響曲伝統への嘲笑と考えることもできよう。

(岡田暁生)


演奏時間:約45分
作曲年代:1886年
初演:1887年3月2日、作曲者自身の指揮、ミュンヘン宮廷管弦楽団、オデオン劇場

[アンコール曲]
9/9:シューベルト/楽興の時 第3番 ヘ短調 作品94-3
9/10:シューマン/「森の情景」作品82 - 第7曲「予言の鳥」
(ピアノ:マルティン・ヘルムヒェン)



はじめてのクラシック
「交響曲と交響詩」

ARTISTS出演者

ファビオ・ルイージさんの画像 指揮ファビオ・ルイージ

1959年、イタリア・ジェノヴァ生まれ。デンマーク国立交響楽団首席指揮者、ダラス交響楽団音楽監督を務める。N響とは2001年に初共演し、2022年9月首席指揮者に就任。ハイドン、モーツァルトからマーラー、R. シュトラウスまでドイツ系を中心とする幅広いレパートリーで、丹念に磨き込んだ「歌」と、圧倒的な情熱で聴き手を虜にしている。
これまでにメトロポリタン歌劇場首席指揮者、チューリヒ歌劇場音楽総監督、ウィーン交響楽団首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団および同歌劇場音楽総監督、MDR(中部ドイツ放送)交響楽団芸術監督、スイス・ロマンド管弦楽団音楽監督などを歴任。このほか、イタリアのマルティナ・フランカで行われるヴァッレ・ディートリア音楽祭音楽監督も務めている。また、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラに定期的に客演し、世界の主要オペラハウスにも登場している。録音には、ヴェルディ、ベッリーニ、シューマン、ベルリオーズ、ラフマニノフ、リムスキー・コルサコフ、マルタン、そしてオーストリア人作曲家フランツ・シュミットなどがある。また、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とは数々のR. シュトラウスの交響詩を収録しているほか、ブルックナー《交響曲第9番》の解釈は高く評価されている。メトロポリタン歌劇場とのワーグナー《ジークフリート》《神々のたそがれ》のレコーディングではグラミー賞を受賞した。

マルティン・ヘルムヒェン*さんの画像 ピアノマルティン・ヘルムヒェン*

1982年6月21日にベルリンに生まれたドイツのピアニスト。同地のハンス・アイスラー音楽大学でガリーナ・イワンゾワに、ハノーファー音楽演劇大学ではアリエ・ヴァルディらに師事した。2001年にクララ・ハスキル国際コンクールで優勝。以後、ドイツを代表する若手ソリストとして国際的なキャリアを重ねている。チェリストのボリス・ペルガメンシコフの影響から室内楽への取り組みも熱心だ。グラモフォン・アワードを受賞したベルリン・ドイツ交響楽団とのベートーヴェンのピアノ協奏曲チクルスなど、レコーディングも多い。
N響との共演は11年ぶり。2005年にブラームスの《ピアノ協奏曲第2番》で初共演。以来、ベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第4番》と《第5番》、《三重協奏曲》を演奏し、柔らかで丸みを帯びたタッチから雄大な音楽を紡ぎ出した。
今回演奏するR. シュトラウスの《ブルレスケ》は、コンチェルト以上に独奏と管弦楽による密接なアンサンブルが要求される作品。室内楽の現場で培われた経験を生かしつつ、持ち前のテクニックが十二分に発揮される演奏となるだろう。

[鈴木淳史/音楽評論家]

DOWNLOADダウンロード

TICKETチケット

定期公演 2023-2024シーズン
Aプログラム

第1989回 定期公演
Aプログラム

NHKホール
Googleマップ
座席表

1回券発売開始日

定期会員先行発売日:2023年7月27日(木)10:00am
定期会員について

一般発売日:2023年7月30日(日)10:00am

チケット購入

料金

S席 A席 B席 C席 D席 E席
一般 9,800円 8,400円 6,700円 5,400円 4,400円 2,800円
ユースチケット 4,500円 4,000円 3,300円 2,500円 1,800円 1,400円

※価格は税込です。
※定期会員の方は一般料金の10%割引となります。また、先行発売をご利用いただけます(取り扱いはWEBチケットN響・N響ガイドのみ)。
※車いす席についてはN響ガイドへお問い合わせください。
N響ガイドでのお申し込みは、公演日の1営業日前までとなります。
※券種により1回券のご用意ができない場合があります。
※当日券販売についてはこちらをご覧ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
※開場前に屋内でお待ちいただくスペースはございません。ご了承ください。

ユースチケット

25歳以下の方へのお得なチケットです。
(要登録)

定期会員券
発売開始日

年間会員券/シーズン会員券(AUTUMN)
2023年7月17日(月・祝)10:00am
[定期会員先行発売日: 2023年7月9日(日)10:00am]

お問い合わせ・
お申し込み

BROADCAST放送予定

NHK-FMNHK-FMベスト オブ クラシック
「第1989回 定期公演 Aプログラム」

2023年9月14日(木) 7:30PM~ 9:10PM

曲目: R. シュトラウス/ 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
R. シュトラウス/ブルレスケ ニ短調*
R. シュトラウス/交響的幻想曲「イタリアから」作品16

指揮:ファビオ・ルイージ

ピアノ:マルティン・ヘルムヒェン*

収録:2023年9月9日 NHKホール

主催:NHK / NHK交響楽団

閉じる
公演カレンダーを閉じる