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2025年11月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
公演情報2025年6月 2日
名誉音楽監督シャルル・デュトワが8年ぶりに定期公演に登場する。昨年のNHK音楽祭では、十八番の《春の祭典》を指揮し、以前と変わらない鮮やかなバトンテクニックで聴衆を魅了した。今年89歳。この先の共演は、1回1回が貴重なものになるだろう。
今回の2種類のプログラムは、デュトワが好んで取り上げてきた曲ばかりである。N響に一時代を築いた名匠の円熟ぶりを、じっくり味わって頂きたい。
得意のホルスト《惑星》全曲でデュトワが8年ぶりの定期登場
第2期を迎えて最初の[Aプログラム]の《組曲「惑星」》は、イギリスの作曲家ホルストが、占星術に着想を得て書いた作品。4分の5拍子のリズム・オスティナートが印象的な〈火星〉、有名なメロディを持つ〈木星〉は、しばしば単独でも演奏されるが、ホルストが自分の名前の頭文字を入れ込んだとされる〈天王星〉や、女声合唱のフェイドアウトで終わる〈海王星〉など、他の曲もそれぞれ創意工夫に富んでいて魅力的だ。中でも作曲家自身がいちばん気に入っていたと言われるのは〈土星〉で、この曲は「老いをもたらす者」の別名を持つだけあって、聴き手が人生経験を積むほどに、しみじみとした感慨をもって聴けるようになるのではないか。
ホルストは堅固な構成の作品を書くことを苦手にしていたというが、7曲からなる組曲は見事に緩急のバランスが取れている。惑星の絶妙な配列を見るかのようだ。生前のホルストが強く望んだように、全曲セットで演奏するのが本来の形であろう。

前半は《神の現存の3つの小典礼》。敬虔なカトリックであったメシアンにとって、音楽は神を讃えるための手段だった。だが彼が書いたのは、儀式のための音楽ではなく、あくまでも個人的な宗教観に基づく祈りの音楽である。
この曲も「典礼」というタイトルを持ちながら、伝統的な典礼の様式からは遠く、オンド・マルトノの官能的な響きも相まって、1945年の発表直後、神への冒涜ではないかと強い批判を浴びた。いわゆる「典礼論争」である。そうしたスキャンダルにもかかわらず、今日ではメシアンの代表作のひとつとして、不動の評価を得ている。
デュトワが前回、N響定期でこの曲を指揮したのは2004年のことである。プーランクやフォーレなど、同じカトリックの宗教曲を組み合わせた当時のプログラムも秀逸だったが、神の遍在を歌ったメシアンの音楽と、宇宙の神秘を結びつけた今回のアイデアも、それに劣らず素晴らしいと思う。2人の作曲家にとって、女声合唱を用いることは、不可欠のアイデアだった。
Aプログラム(NHKホール)
2025年11月8日(土)6:00pm
2025年11月9日(日)2:00pm
指揮 : シャルル・デュトワ
ピアノ : 小菅 優*
オンド・マルトノ : 大矢素子*
女声合唱 : 東京オペラシンガーズ
メシアン/神の現存の3つの小典礼*
ホルスト/組曲「惑星」作品32
緻密で洗練されたラヴェルの作風を、ストラヴィンスキーは「スイスの時計職人」と評したが、これはスイス生まれのデュトワの指揮ぶりにも共通するのではなかろうか。
リハーサルでは、正確な音程や微妙な音色をとことん追求する。「どんな音楽を目指すのか」といった類の質問に答えることを、彼はあまり好まない。最初に目指す音楽があるというよりも、細部のネジをギリギリまで調整し続けることで、結果として現れるものが「目指す音楽」なのである。“職人”であるデュトワにとって、精巧に作られたラヴェルの作品は、最も腕の振るい甲斐のある素材と言えるのかも知れない。
ラヴェルは西洋音楽の伝統、ギリシャ・ローマを源流とするヨーロッパ文明の伝統に、深い敬意を払っていた。今回の3曲には、そんなラヴェルの「古典への愛着」が詰まっている。
《亡き王女のためのパヴァーヌ》と《クープランの墓》は、どちらもピアノ曲として作曲され、のちにオーケストラ版が作られた。パヴァーヌは16世紀イタリアが起源と言われる優雅な宮廷舞曲で、ラヴェルの音楽では、柔らかなホルンのソロが深い余韻を残す。
後者は18世紀フランスの大作曲家クープランへのオマージュで、こちらも舞曲を中心とする、バロック時代の組曲のスタイルを取る。表向きのシンプルさとは裏腹に、かつてメシアンがパリ音楽院の講義で細かく分析したように、和声の構造は凝りに凝ったものだ。
《バレエ音楽「ダフニスとクロエ」》は、古代ギリシャを舞台に繰り広げられる恋愛劇。オーケストレーションが優れているだけでなく、コンサートで聴き映えのするこの曲は、指揮者たちの人気の的だが、ポピュラーな《第2組曲》と違って、合唱の入る全曲版を演奏できる機会は必ずしも多くない。ラヴェルの記念イヤーに、スペシャリストの指揮でお届けできるは嬉しいことである。
去年久しぶりに共演したデュトワは、音楽監督時代に伝えようと試みたフランス音楽特有のニュアンスを、N響がしっかり受け継いでくれている、と喜んでいた。その成果が今こそ生かされるだろう。

2025年11月8日(土)6:00pm
2025年11月9日(日)2:00pm
指揮 : シャルル・デュトワ
ピアノ : 小菅 優*
オンド・マルトノ : 大矢素子*
女声合唱 : 東京オペラシンガーズ
メシアン/神の現存の3つの小典礼*
ホルスト/組曲「惑星」作品32
ラヴェルの記念イヤーに、スペシャリストの指揮で聴く大曲《ダフニスとクロエ》
[Cプログラム]のラヴェルは、2025年が生誕150年。フランス音楽を得意とするデュトワだが、中でもラヴェルは最重要の作曲家と言ってよく、N響ともほとんど全てのオーケストラ作品を、繰り返し演奏してきた。緻密で洗練されたラヴェルの作風を、ストラヴィンスキーは「スイスの時計職人」と評したが、これはスイス生まれのデュトワの指揮ぶりにも共通するのではなかろうか。
リハーサルでは、正確な音程や微妙な音色をとことん追求する。「どんな音楽を目指すのか」といった類の質問に答えることを、彼はあまり好まない。最初に目指す音楽があるというよりも、細部のネジをギリギリまで調整し続けることで、結果として現れるものが「目指す音楽」なのである。“職人”であるデュトワにとって、精巧に作られたラヴェルの作品は、最も腕の振るい甲斐のある素材と言えるのかも知れない。
ラヴェルは西洋音楽の伝統、ギリシャ・ローマを源流とするヨーロッパ文明の伝統に、深い敬意を払っていた。今回の3曲には、そんなラヴェルの「古典への愛着」が詰まっている。
《亡き王女のためのパヴァーヌ》と《クープランの墓》は、どちらもピアノ曲として作曲され、のちにオーケストラ版が作られた。パヴァーヌは16世紀イタリアが起源と言われる優雅な宮廷舞曲で、ラヴェルの音楽では、柔らかなホルンのソロが深い余韻を残す。
後者は18世紀フランスの大作曲家クープランへのオマージュで、こちらも舞曲を中心とする、バロック時代の組曲のスタイルを取る。表向きのシンプルさとは裏腹に、かつてメシアンがパリ音楽院の講義で細かく分析したように、和声の構造は凝りに凝ったものだ。
《バレエ音楽「ダフニスとクロエ」》は、古代ギリシャを舞台に繰り広げられる恋愛劇。オーケストレーションが優れているだけでなく、コンサートで聴き映えのするこの曲は、指揮者たちの人気の的だが、ポピュラーな《第2組曲》と違って、合唱の入る全曲版を演奏できる機会は必ずしも多くない。ラヴェルの記念イヤーに、スペシャリストの指揮でお届けできるは嬉しいことである。
去年久しぶりに共演したデュトワは、音楽監督時代に伝えようと試みたフランス音楽特有のニュアンスを、N響がしっかり受け継いでくれている、と喜んでいた。その成果が今こそ生かされるだろう。

Cプログラム(NHKホール)
2025年11月14日(金)7:00pm
2025年11月15日(土)2:00pm
指揮 : シャルル・デュトワ
合唱 : 二期会合唱団*
― ラヴェル生誕150年 ―
ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル/組曲「クープランの墓」
ラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」 (全曲)*

[Bプログラム]の指揮は、2020年2月定期公演以来の登場となるラファエル・パヤーレ。前回の共演から間もなく、モントリオール交響楽団の音楽監督に抜擢された。デュトワが長年このポストを務めた、カナダの名門オーケストラである。それ以外にも、客演のオファーが世界中から殺到しており、今や5年前とは比較にならない忙しさだという。
パヤーレの音楽との出会いは、ベネズエラの教育プログラム「エル・システマ」でホルンを学んだことだった。その後、シモン・ボリバル交響楽団の首席ホルン奏者を10年あまり務め、指揮者に転向した。
N響と演奏したショスタコーヴィチもそうだが、マーラーやR. シュトラウスなど、大編成のオーケストラ曲に、小細工を弄せず直球勝負で挑むのが、この指揮者の持ち味であろう。
《英雄の生涯》は最近、モントリオール交響楽団と録音したばかりで、最も自信のあるレパートリーのひとつである。ホルンが活躍する曲を選んだところにも、彼らしさが表れている。この春、第1コンサートマスターに就任したばかりの長原幸太が、難易度の高いヴァイオリン・ソロを務める。
R.シュトラウスがニーチェに魅了され、交響詩《ツァラトゥストラはこう語った》を書いたのは、広く知られている通りだが、バイロンの詩劇『マンフレッド』は、ニーチェの超人思想に大きな影響を与えた。そのような関連もあって、シューマンがこの詩劇のために書いた《「マンフレッド」序曲》を、オープニングに置いた。劇的起伏に富んだこの作品も、パヤーレが得意とする1曲である。

《ピアノ協奏曲第25番》のソリスト、エマニュエル・アックスは、パヤーレと度々共演する間柄だという。今年76歳の大御所は近年、アメリカ国内での活動が大半なので、日本で生演奏が聴けるチャンスは滅多にない。奥様が日本人という縁もあり、今回の来日と23年ぶりのN響定期出演を、とても楽しみにされている様子だ。N響とのモーツァルトは、1982年の《第20番》以来、実に43年ぶりである。
2025年11月14日(金)7:00pm
2025年11月15日(土)2:00pm
指揮 : シャルル・デュトワ
合唱 : 二期会合唱団*
― ラヴェル生誕150年 ―
ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル/組曲「クープランの墓」
ラヴェル/バレエ音楽「ダフニスとクロエ」 (全曲)*
名門モントリオール響 音楽監督のパヤーレが《英雄の生涯》で直球勝負

[Bプログラム]の指揮は、2020年2月定期公演以来の登場となるラファエル・パヤーレ。前回の共演から間もなく、モントリオール交響楽団の音楽監督に抜擢された。デュトワが長年このポストを務めた、カナダの名門オーケストラである。それ以外にも、客演のオファーが世界中から殺到しており、今や5年前とは比較にならない忙しさだという。
パヤーレの音楽との出会いは、ベネズエラの教育プログラム「エル・システマ」でホルンを学んだことだった。その後、シモン・ボリバル交響楽団の首席ホルン奏者を10年あまり務め、指揮者に転向した。
N響と演奏したショスタコーヴィチもそうだが、マーラーやR. シュトラウスなど、大編成のオーケストラ曲に、小細工を弄せず直球勝負で挑むのが、この指揮者の持ち味であろう。
《英雄の生涯》は最近、モントリオール交響楽団と録音したばかりで、最も自信のあるレパートリーのひとつである。ホルンが活躍する曲を選んだところにも、彼らしさが表れている。この春、第1コンサートマスターに就任したばかりの長原幸太が、難易度の高いヴァイオリン・ソロを務める。
R.シュトラウスがニーチェに魅了され、交響詩《ツァラトゥストラはこう語った》を書いたのは、広く知られている通りだが、バイロンの詩劇『マンフレッド』は、ニーチェの超人思想に大きな影響を与えた。そのような関連もあって、シューマンがこの詩劇のために書いた《「マンフレッド」序曲》を、オープニングに置いた。劇的起伏に富んだこの作品も、パヤーレが得意とする1曲である。

《ピアノ協奏曲第25番》のソリスト、エマニュエル・アックスは、パヤーレと度々共演する間柄だという。今年76歳の大御所は近年、アメリカ国内での活動が大半なので、日本で生演奏が聴けるチャンスは滅多にない。奥様が日本人という縁もあり、今回の来日と23年ぶりのN響定期出演を、とても楽しみにされている様子だ。N響とのモーツァルトは、1982年の《第20番》以来、実に43年ぶりである。
Bプログラム(サントリーホール)
2025年11月20日(木)7:00pm
2025年11月21日(金)7:00pm
指揮 : ラファエル・パヤーレ
ピアノ : エマニュエル・アックス
シューマン/「マンフレッド」 序曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調 K. 503
R. シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」 作品40
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2025年11月20日(木)7:00pm
2025年11月21日(金)7:00pm
指揮 : ラファエル・パヤーレ
ピアノ : エマニュエル・アックス
シューマン/「マンフレッド」 序曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調 K. 503
R. シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」 作品40
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]