※約2時間の公演となります(休憩20分あり)。
※やむを得ない理由で出演者や曲目等が変更となる場合や、公演が中止となる場合がございます。公演中止の場合をのぞき、チケット代金の払い戻しはいたしません。
ABOUT THIS CONCERT特徴
2025年11月Bプログラム 聴きどころ
18世紀後半において、あらゆるジャンルに強みを発揮したモーツァルト。そのモーツァルトを崇拝していたリヒャルト・シュトラウスもまた、専門化・分業化が進む19世紀末から20世紀にかけての世相に逆らうように、さまざまなジャンルで傑作を遺(のこ)している。こうしてみると、シューマンもまた、モーツァルトやシュトラウスと同じタイプの音楽家たらんとし、それを目指して活動していた、と言えなくはないだろう。文学作品に精通していたシューマンとシュトラウスの共通点にも思いを馳(は)せることができるプログラムでもある。
(広瀬大介)
PROGRAM曲目
シューマン/「マンフレッド」 序曲
ピアノ曲、交響曲、歌曲、室内楽曲にさまざまな傑作を遺(のこ)してきたローベルト・シューマン(1810〜1856)が、満を持してオペラ《ゲノヴェーヴァ》に取り組みはじめたのは、1847年のこと。文学に深い理解を持つシューマンは、ローベルト・ライニックの台本のできばえに不満を示し、自身で書き改めている。《ゲノヴェーヴァ》制作に並行し、1848年には文学を音楽と結びつける試みが続いている。それが大規模な合唱曲《ファウストからの情景》、そして、19世紀における偽善的な世相を暴こうと試みたジョージ・ゴードン・バイロンの手になる劇詩『マンフレッド』(1817)への付随音楽であった。シューマンはフランツ・リストに対し、「これからの劇作品はオペラやジングシュピール(歌芝居)、あるいはメロドラマ(シナリオが朗読される音楽劇)のようなものではなく、『音楽付きの劇的な詩』で表現されるべきである」と書き送っており、これからの舞台作品では「語り」が重要な要素になると考えていた節がある。
中世のアルプスを舞台に、厭世(えんせい)的で夢見がちなマンフレッドがかつての恋人アスタルテと黄泉(よみ)の国で再会し、救済されるという筋書きには、『ファウスト』との類似性も多く感じられよう。全曲の半分近くを占める序曲は、序奏とコーダを伴う大規模なソナタ形式で構成される。第1ヴァイオリンが活躍する主題の陰で、さまざまな副次的旋律が現れては消えるところなど、管弦楽の扱いに熟達したシューマンの対位法的手法が興味深い。
(広瀬大介)
演奏時間:約13分
作曲年代:1848年8月〜1849年(序曲は1848年に完成)
初演:[序曲]1852年3月14日、ライプツィヒ、作曲者自身の指揮 [劇全体]1852年6月13日、ワイマール、フランツ・リスト指揮
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調 K. 503
ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756〜1791)が試みた、オペラの休演期間中である四旬節(復活祭の46日前水曜日[灰の水曜日]から復活祭の前日[聖土曜日])に、定期会員を募って自身のピアノ協奏曲を演奏しようという企画は、演奏会の歴史にとって画期的なできごとであった(今日のオーケストラにおける定期会員制度の先駆けでもある)。1782~1786年に作曲された多くのピアノ協奏曲は、いずれも練習なしのぶっつけ本番で(練習があったとしても1回だけで)上演されたと言われている。父レオポルトが遺した手紙をひもとくと、演奏の質に対する絶賛と同時に、息子が真夜中まで演奏に駆り出され、多くの収入を得ていたことが窺(うかが)われる。ケッヘル番号503番が与えられたピアノ協奏曲は、モーツァルトが協奏曲の成功に甘んじることなく、徐々に新たな作品への歩みを始めようとする時期、1786年12月に予定されていた待降節予約演奏会シリーズのために作曲・演奏されたと考えられている。
直前に作曲された、穏やかな気品を湛(たた)える《第23番》(K. 488)、数少ない短調作品でありロマン派的相貌を呈する《第24番》(K. 491)に比べれば、《第25番》(K. 503)には、むしろ次の時代を見据えた工夫が各所に見られよう。第1楽章における、ハ長調の主和音、そしてその属7和音を高らかに鳴らす冒頭部分は後の《コシ・ファン・トゥッテ》(K. 588、1790年)のそれを予感させ(調も同じ)、明朗快活な、それでいて堂々たる音楽の世界へと聴き手を一瞬で引きずり込む。ところが、同じハ長調で提示されるはずの第2主題は、聴き手の予想を裏切るハ短調。とはいえ最初の一節だけで、すぐにハ長調へと戻る。前作の「ハ短調」《第24番》(K. 491)で迸(ほとばし)らせた、どこか心によぎる暗い陰を表現しようとしたのだろうか。提示部と再現部のみで簡潔にまとめられた第2楽章を差し挟み、同じ主題が何度も回帰するロンド形式の第3楽章が続く。ここでも主題に挟まれたエピソードは短調のせつない旋律に彩られている。
(広瀬大介)
演奏時間:約30分
作曲年代:1786年12月
初演:不明(1787年、プラハでの演奏旅行時か)
R. シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」 作品40
「自画像」的作品として、そして純粋な交響詩として構想されたかに見えるリヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)の《英雄の生涯》ではあるが、作曲家はもともと本作を交響曲として構想していた。そもそも、《英雄の生涯》という題名が決まるまでには、さまざまな紆余(うよ)曲折があった。はじめの構想にあった「英雄と世界(世間) Helden und Welt」という題名は、コジマ・ワーグナーから1891年に贈られた、哲学者ハインリヒ・フォン・シュタインの同名の書に影響を受けたとおぼしい。
シュトラウスが交響曲の作曲に取りかかっている、という噂は、1898年8月の『一般音楽新聞』に「英雄的な性格を有した4楽章の交響曲」と紹介されたことで広まった。作曲家の周囲は、もしかするとシュトラウスが交響的な交響詩ではなく、本当の交響曲を書くのではないか、ベートーヴェンやブラームス、ブルックナーのような交響曲を作るようになるのではないか、と思っていた節が窺(うかが)える。「いまやベートーヴェンの《「エロイカ」交響曲》は人気がなく、めったに演奏されなくなったので、それに代わる曲を書いている。《英雄の生涯》という題名で、葬送行進曲こそないが、変ホ長調で、多くのホルンを用いる」という当人の(交響詩とも交響曲とも断定しない曖昧な)発言は、このような世論を受けてなされたものでもあった。
前作《ドン・キホーテ》で主人公に仮託したみずからの姿は、本作において、ベートーヴェン以来「英雄」を描く際に用いられる変ホ長調の勇壮なテーマで始まる「あるひとりの英雄」へと形を変える。続けて演奏される6つの部分から成り、I〈英雄〉、II〈英雄の敵〉、III〈英雄の伴侶〉が、それぞれソナタ形式における第1主題、スケルツォ的な移行部、第2主題を提示する箇所と位置づけられるだろう。英雄とその敵が戦う様子を描いたIV〈英雄の戦い〉が展開部、V〈英雄の業績〉、VI〈英雄の引退と死〉が、それぞれ再現部、結尾(コーダ)を成す、と解釈することは可能ではある。単一楽章の曲でありながら、いくつかの楽章によって構成される交響曲とも解釈しうる構成は、リストが提唱した交響詩の理想にも添うものであり、異なる構成原理によって本作が作られたことを窺わせる。
初稿の終結部ではホルン独奏(英雄)とヴァイオリン独奏(英雄の伴侶)が互いを慰め合うように終わっていたが、後に管楽器のファンファーレへと改訂された。かなり形の崩れたソナタ形式、そして(派手に改訂されたとはいえ)落ち着いた雰囲気で終わっていく終結部など、ベートーヴェン的な意味における「交響曲」の理念からは遠い部分もある。とはいえ、それ以降のふたつのオーケストラ作品、《家庭交響曲》と《アルプス交響曲》には堂々と「交響曲」と名付けるに至ったシュトラウスの心理的変化のきっかけが、この《英雄の生涯》にあったことは疑いない。
(広瀬大介)
演奏時間:約45分
作曲年代:1897~1898年12月27日
初演:1899年3月3日、フランクフルト博物館演奏会、作曲家自身の指揮
ARTISTS出演者
指揮ラファエル・パヤーレ
ラファエル・パヤーレは1980年、ベネズエラ生まれ。同国の音楽教育システム「エル・システマ」を通じてホルンと出会い、シモン・ボリバル交響楽団の首席ホルン奏者を11年間にわたって務めたあと、ロリン・マゼールやクシシュトフ・ペンデレツキの薫陶を受けて指揮者への道を歩む。2015年にはマゼールの代役としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮している。北アイルランドのアルスター管弦楽団の首席指揮者・音楽監督(現・桂冠指揮者)を経て、現在、サンディエゴ交響楽団音楽監督。さらに2022/2023シーズンからは名門モントリオール交響楽団の音楽監督にも就任。長期にわたって楽団を率いたシャルル・デュトワ、ケント・ナガノのあとを継いで重責を担っている。
これまでにボストン交響楽団、シカゴ交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、バイエルン放送交響楽団、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、ロンドン交響楽団など、世界の名だたるオーケストラに客演している。
N響定期には2020年2月Cプログラムで初登場。ショスタコーヴィチの《交響曲第5番》で鮮烈な演奏を披露してくれた。今回はR. シュトラウスの《交響詩「英雄の生涯」》を中心としたプログラム。近年、パヤーレは同曲をモントリオール交響楽団と録音したばかり。得意のレパートリーなのだろう。N響にとっても数々の名演を重ねてきた曲だけに期待が高まる。
[飯尾洋一/音楽ジャーナリスト]
ピアノエマニュエル・アックス
現代アメリカを代表するピアニストのひとり、エマニュアル・アックスのN響定期公演登場はじつに2002年6月以来となる。ウィーン古典派、ドイツ・ロマン派やショパンなど王道のレパートリーを得意とするいっぽう、ジョン・アダムズやペンデレツキの新作など同時代音楽にも積極的に取り組む。このたびN響のモーツァルトのハ長調でも、人間味に溢(あふ)れる円熟のピアノが聴けるだろう。
1961年以来ニューヨークを拠点に国際的に活躍するアックスは1949年、ユダヤ系ポーランド人の両親のもと、ソヴィエト連邦下、現ウクライナのリヴィウに生まれた。ワルシャワ、カナダのウィニペグを経て、一家でニューヨークに定住。ジュリアード音楽院でミェチスワフ・ムンツに師事。1974年の第1回アルトゥール・ルビンシュタイン国際ピアノコンクールに優勝して大きく注目を集めた。ヨーヨー・マ、スターン、ラレード、カヴァコスをはじめ弦の名手からの信望も篤く、室内楽の名ピアニストとしても長らく愛されてきた。9月Aプログラム登場のブロンフマンとはラフマニノフ、ブラームスのデュオの名盤もある。
[青澤隆明/音楽評論家]
料金
| S席 | A席 | B席 | C席 | D席 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般 | 12,000円 | 10,000円 | 8,000円 | 6,500円 | 5,500円 |
| ユースチケット | 6,000円 | 5,000円 | 4,000円 | 3,250円 | 2,750円 |
※価格は税込です。
※定期会員の方は一般料金の10%割引となります。また、先行発売をご利用いただけます(取り扱いはWEBチケットN響・N響ガイドのみ)。
※この公演のお取り扱いは、WEBチケットN響およびN響ガイドのみです。
※車いす席についてはN響ガイドへお問い合わせください。
※券種により1回券のご用意ができない場合があります。
※当日券販売についてはこちらをご覧ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
ユースチケット
29歳以下の方へのお得なチケットです。
(要登録)
定期会員券
発売開始日
年間会員券
2025年7月13日(日)10:00am
[定期会員先行発売日: 2025年7月6日(日)10:00am]



