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2022年11月定期公演プログラムについて

公演情報2022年10月 6日

指揮者にはそれぞれ十八番と呼ばれるレパートリーがあるが、井上道義とショスタコーヴィチ、スラットキンとコープランドの組み合わせには、好きとか得意といったレヴェルを超えた、宿命的な結びつきを感じる。スペシャリストのタクトが、20世紀の超大国・米ソで生まれた傑作に光を当てる。

井上道義がショスタコーヴィチ《交響曲第10番》で作曲家の真意を問う


予定調和を望まず、聴き手に新鮮な驚きを与えることが井上道義の信条だ。コロナ禍に蔓延する同調圧力にも抗い続けてきた。2020年12月の伊福部&ショスタコーヴィチは、定期公演休止中のN響が気を吐いた企画だが、今回の[Aプログラム]はその続編である。

スターリンの恐怖政治の下、本心を隠しながら主張を貫いたショスタコーヴィチの芸術に、井上は生涯をかけて挑んできた。《交響曲第10番》は狂暴な権力者の肖像か、それとも単に人間の感情・情熱を描いたものか。作曲家の意図は闇の中だが、真のメッセージを探る試みは、決して歴史の勉強ではない。理不尽な戦争が続く今、改めて問い直すべきかも知れない。

2022年11月12日(土)6:00pm
2022年11月13日(日)2:00pm
NHKホール



2022年11月Aプログラム

アカデミックな洋楽の受容とは一線を画し、アジアの風土に根差した音楽を追い求めた伊福部昭も、井上が共感を抱く作曲家である。アイヌ舞踊に着想を得た《シンフォニア・タプカーラ》では、独特の音階と原始的なリズムが躍動する。井上のパワーが、常識のリミッターを突き破る瞬間に立ち会いたい。


“アメリカ最高の作曲家”コープランドの2つのバレエ音楽


2022年11月Cプログラム

Cプログラム]は、レナード・スラットキンが尊敬し“アメリカ最高の作曲家”と位置づけるコープランドのバレエ音楽。大衆的な映画音楽から十二音技法を使った実験的な作品まで、幅広い分野で活躍したコープランドを、バーンスタインは“アメリカ音楽の大祭司”と呼んだ。精力的な仕事ぶりや、エンターテイナーとしての天性の資質は、指揮者スラットキンにも共通する。

《アパラチアの春》《ロデオ》は、どちらも素朴で親しみやすいメロディに富み、叙情性や生き生きしたダンス・シーンにも事欠かない。ワイルドでノスタルジックなアメリカを満喫できる2曲である。

2022年11月18日(金)7:30pm
2022年11月19日(土)2:00pm
NHKホール



ヴォーン・ウィリアムズ&メンデルスゾーン-天国的な美しさを堪能する


2022年11月Bプログラム

Bプログラム]では、今年生誕150年を迎えたヴォーン・ウィリアムズ(RVW)の作品を送る。《「富める人とラザロ」の5つのヴァリアント》は、聖書のエピソードに基づくバラードが原曲。RVWはイギリス各地に形を変えて伝わる旋律を集め、ハープと弦楽の響きが印象的な佳品を生み出した。初めて聴いたスラットキンは、天国に行くような喜びを感じたという。

ロ長調の主和音(シレ#ファ#)で曲が消え入るように終わると、メンデルスゾーン《ヴァイオリン協奏曲》のソロが、それを受けて静かにシの音で始まる。イギリスをこよなく愛した作曲家による、名曲中の名曲。天国的な美しさはここでも持続する。レイ・チェンは、昨年公開の映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』で演奏を受け持った俊英である。

最後は再びRVWの《交響曲第5番》同じ頃に手がけていた《歌劇「天路歴程」》と共通の素材でできている。オペラの原作は、クリスチャンが様々な試練を乗り越え、天国に到るまでの道のりを描く。戦時下に書かれた交響曲のテーマは“永遠の平和”であったという。天上の調べとともに、深まりゆく秋のひと時をお楽しみいただきたい。

2022年11月23日(水・祝)7:00pm
2022年11月24日(木)7:00pm
サントリーホール



[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

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