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2025年5月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
公演情報2025年2月 6日
2025年5月、N響は5年ぶりとなるヨーロッパ公演に出発する。ツアーのハイライトは、アムステルダムで行われるマーラー・フェスティバルへの出演である。
この上なく名誉な「マーラー・フェスティバル」への参加
フェスティバルの起源は1920年に遡る。この年、マーラーと親しかったコンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者ウィレム・メンゲルベルクが、自身の活動25周年を記念して、マーラーのすべてのオーケストラ曲を、2週間にわたって取り上げた。マーラーの死から9年、まだ決してメジャーではなかった彼の音楽に光を当てる、先駆的な出来事だった。第2回のフェスティバルは、75年後の1995年に行われる。ホストであるロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の他に、ウィーン・フィルとベルリン・フィルが出演。最高峰のオーケストラによる豪華なイベントは、世紀末を迎えてますます高まるマーラーの人気ぶりを象徴するかのようだった。
それからさらに30年を経た今回のフェスティバルには、世界各地から5つのオーケストラ(ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ブダペスト祝祭管弦楽団、N響、シカゴ交響楽団、ベルリン・フィル)が参加する。アジアから史上初めて、そして唯一N響が選ばれたのは、この上なく名誉なことと言ってよい。
フェスティバルでは、マーラーの全11曲の交響曲が年代順に演奏されるが、N響には《第3番》と《第4番》が割り当てられた。《歌曲集「こどもの不思議な角笛」》から素材を取った、いわゆる「角笛交響曲」のうちの2曲である。
合唱・独唱を伴う長大な《第3番》と、どちらかと言えばコンパクトな《第4番》は、対極と言ってもよい組み合わせだが、それだけに、上昇気流にある今のN響の特性を多面的に伝えることができる、またとない機会になるだろう。
フェスティバルを前に《第3番》と《第4番》をA・Bプログラムで披露
これら2曲の交響曲を、ツアーに先立つ定期公演でも演奏する。首席指揮者ファビオ・ルイージは、2025年8月で第1期の契約期間を満了し、次の3年間に向けて歩みを進める。今回の2つのプログラムが、最初の3年間の一区切りとなる。[Aプログラム]は《交響曲第3番》。ハンブルク歌劇場の指揮者として多忙を極めていたマーラーは、わずか2シーズンの夏の休暇を利用して、全6楽章からなる100分の大曲を仕上げた。美しい自然に囲まれたザルツブルク近郊の湖畔で書かれたが、マーラーは作曲小屋を訪れた弟子に「周囲の景色を見るには及ばない。全ては作品に含まれている」と語ったらしい。
事実、カッコウの鳴き声や、遠くから響くポストホルンなど、風光明媚なイメージも広がるが、それだけでなく、軍楽隊の行進曲や民謡から、形而上的な世界の暗示にいたるまで、この曲には森羅万象が描かれている。「交響曲は、全てを包み込む世界のようでなければならない」と語ったマーラーの独創性は、この曲で初めて全開になった。
この言葉に共感を抱くルイージにとって、《第3番》は《一千人の交響曲》に続き、もっとも腕のふるい甲斐がある曲の1つ。時間的・空間的な広がりを、圧倒的なスケールで描いてくれるだろう。
オレシア・ペトロヴァは、ルイージが高く評価するメゾ・ソプラノで、《一千人》に続いての登場となる。

[Bプログラム]は《交響曲第4番》。もともと《第3番》に入る予定だった「こどもが私に語ること」という標題の楽章が、結果的に《第4番》の終楽章となったので、2曲の繋がりは深い。
この終楽章でソプラノが歌う「天上の暮らし」は、民謡詩集『こどもの不思議な角笛』から引用されたもので、純真無垢なようでいてグロテスクでもあるテキストは、聖と俗が混然一体となったマーラーの世界そのものである。
ルイージの選考により、日本を代表するソプラノ、森 麻季(ヨーロッパ公演ではイン・ファン)がソリストを務める。
ちなみに《第3番》と《第4番》は、どちらも作曲からまもなく、マーラー自身がコンセルトヘボウ管弦楽団を指揮して、アムステルダムで演奏している。それから120年あまり、N響が同じ舞台で同じ曲を奏でるのは、非常に感慨深いことだ。
《第4番》を1930年に世界で初めて録音したのは、N響の前身である新交響楽団。創立初期から続くマーラー演奏の伝統も、フェスティバルに招かれた理由かも知れない。
前半のベルク《ヴァイオリン協奏曲》も、マーラーと浅からぬ因縁がある。マーラーの没後、妻アルマは建築家のグロピウスと再婚したが、2人の間に生まれた娘マノンを、ベルクはことのほか可愛がっていた。彼女が18歳という若さで亡くなった時、「ある天使の思い出に」という副題をつけて捧げられたのが、この曲だからだ。
ソリストは、20世紀の音楽を得意とする諏訪内晶子。最近では、武満徹やデュティユーでN響と共演し、好評を博している。
夭逝した少女を悼んで、「天上の暮らし」に思いを馳せる、そんな展開のプログラムである。

Aプログラム(NHKホール)
2025年4月26日(土)6:00pm
2024年4月27日(日)2:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
メゾ・ソプラノ : オレシア・ペトロヴァ
女声合唱 : 東京オペラシンガーズ
児童合唱 : NHK東京児童合唱団
― N響ヨーロッパ公演2025 プログラム ―
マーラー/交響曲 第3番 ニ短調
2025年4月26日(土)6:00pm
2024年4月27日(日)2:00pm
※5月定期公演Aプログラムは4月に開催いたします
指揮 : ファビオ・ルイージ
メゾ・ソプラノ : オレシア・ペトロヴァ
女声合唱 : 東京オペラシンガーズ
児童合唱 : NHK東京児童合唱団
― N響ヨーロッパ公演2025 プログラム ―
マーラー/交響曲 第3番 ニ短調
Bプログラム(サントリーホール)
2025年5月1日(木)7:00pm
2024年5月2日(金)7:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン : 諏訪内晶子
ソプラノ : 森 麻季*
― N響ヨーロッパ公演2025 プログラム ―
ベルク/ヴァイオリン協奏曲
マーラー/交響曲 第4番 ト長調*
カリーナ・カネラキス、ヨアナ・マルヴィッツ、沖澤のどかなど、1980年代生まれには有望な女性指揮者がひしめくが、彼女たちと同様に、注目株の一人である。
歌劇場での活躍が目覚ましいシュレキーテが、R.シュトラウスのオペラに基づくオーケストラ作品を中心にお送りする。
《「影のない女」による交響的幻想曲》と、《ばらの騎士》組曲は、どちらもオペラの聴きどころを20数分にまとめたもので、鮮やかなオーケストレーションと名旋律がたっぷり味わえる。
特に《影のない女》で貧しい夫婦がお互いの絆を確かめ合う二重唱、《ばらの騎士》の有名な三重唱は、R.シュトラウスが書いた屈指の名場面で、これらが今回の管弦楽版のクライマックスでもある。

ドホナーニはハンガリーの作曲家で、R.シュトラウスの同時代人。優れたピアニストでもあった。《ばらの騎士》の三重唱はR.シュトラウスの葬儀で演奏されたが、この時、指揮をしたゲオルク・ショルティは、ドホナーニの弟子である。
《童謡の主題による変奏曲》では、おなじみの《きらきら星》の主題に、ブラームスやラフマニノフ、デュカスなど、様々な作曲家のスタイルを思わせる11の変奏が続く。
色彩豊かでウィットに富んだ音楽は、藤田真央のキャラクターそのもので、彼がこの曲を希望したのも腑に落ちる。あまり演奏されない作品だが、シュレキーテも数年前にスウェーデンで指揮したことがあるようで、不思議な巡りあわせを感じる。

2025年5月1日(木)7:00pm
2024年5月2日(金)7:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン : 諏訪内晶子
ソプラノ : 森 麻季*
― N響ヨーロッパ公演2025 プログラム ―
ベルク/ヴァイオリン協奏曲
マーラー/交響曲 第4番 ト長調*
歌劇場で活躍するシュレキーテが贈る R. シュトラウスのオペラ・ハイライト
[Cプログラム]のギエドレ・シュレキーテは、リトアニアの若手指揮者でN響初登場。東京二期会の《魔笛》で2021年に日本デビューし、その後、読売日本交響楽団の定期公演にも出演した。普段は自然体で物腰の柔らかい女性なのだが、いざ指揮台に立つと、目指す方向にオーケストラをドライブしようという決然たる意志がみなぎる。カリーナ・カネラキス、ヨアナ・マルヴィッツ、沖澤のどかなど、1980年代生まれには有望な女性指揮者がひしめくが、彼女たちと同様に、注目株の一人である。
歌劇場での活躍が目覚ましいシュレキーテが、R.シュトラウスのオペラに基づくオーケストラ作品を中心にお送りする。
《「影のない女」による交響的幻想曲》と、《ばらの騎士》組曲は、どちらもオペラの聴きどころを20数分にまとめたもので、鮮やかなオーケストレーションと名旋律がたっぷり味わえる。
特に《影のない女》で貧しい夫婦がお互いの絆を確かめ合う二重唱、《ばらの騎士》の有名な三重唱は、R.シュトラウスが書いた屈指の名場面で、これらが今回の管弦楽版のクライマックスでもある。

ドホナーニはハンガリーの作曲家で、R.シュトラウスの同時代人。優れたピアニストでもあった。《ばらの騎士》の三重唱はR.シュトラウスの葬儀で演奏されたが、この時、指揮をしたゲオルク・ショルティは、ドホナーニの弟子である。
《童謡の主題による変奏曲》では、おなじみの《きらきら星》の主題に、ブラームスやラフマニノフ、デュカスなど、様々な作曲家のスタイルを思わせる11の変奏が続く。
色彩豊かでウィットに富んだ音楽は、藤田真央のキャラクターそのもので、彼がこの曲を希望したのも腑に落ちる。あまり演奏されない作品だが、シュレキーテも数年前にスウェーデンで指揮したことがあるようで、不思議な巡りあわせを感じる。

Cプログラム(NHKホール)
2025年5月30日(金)7:00pm
2025年5月31日(土)2:00pm
指揮 : ギエドレ・シュレキーテ
ピアノ : 藤田真央*
シューベルト/「ロザムンデ」序曲
ドホナーニ/童謡(きらきら星)の主題による変奏曲 作品25*
R. シュトラウス/歌劇「影のない女」による交響的幻想曲
R. シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2025年5月30日(金)7:00pm
2025年5月31日(土)2:00pm
指揮 : ギエドレ・シュレキーテ
ピアノ : 藤田真央*
シューベルト/「ロザムンデ」序曲
ドホナーニ/童謡(きらきら星)の主題による変奏曲 作品25*
R. シュトラウス/歌劇「影のない女」による交響的幻想曲
R. シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]