ニュース
- ホーム
- NHK交響楽団からのニュース
- 2025年1月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
2025年1月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
公演情報2024年10月11日
人気と実力を兼ね備えた世界的指揮者トゥガン・ソヒエフが、恒例となった1月の定期公演に今年も出演する。変化に富んだ3種類のプログラムによって、“未来の巨匠”の進行形を確かめることができるだろう。
「今だからこそ演奏すべきだ」という声に背中を押され ― ソヒエフの《レニングラード交響曲》
[Aプログラム]は、ショスタコーヴィチ《交響曲第7番「レニングラード」》。祖国ロシアのウクライナ侵攻に胸を痛めたソヒエフは2022年、長く務めたモスクワ・ボリショイ劇場と、トゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団の音楽監督を辞任した。先々のスケジュールが白紙になる中、悩み抜いたソヒエフは、その年のザルツブルク復活祭音楽祭への出演を決断する。ドレスデン国立管弦楽団とともに、ショスタコーヴィチ《第7番》を演奏するという企画だった。音楽祭の監督であるティーレマンの「今だからこそ、この曲を取り上げるべきだ」という声に、背中を押されたという。
曲が書かれたのは、ドイツとソ連の戦争が始まった1941年。当時はナチズムに抵抗するための、国威発揚の音楽と受け止められ、今日でもその文脈で語られることが多いが、ショスタコーヴィチ自身は「ナチズム」ではなく、「ファシズム」への戦いに捧げると言明している。
つまり本来は、特定のイデオロギーに対してではなく、自由への干渉や、少数派への弾圧などを含めた、あらゆる全体主義的な抑圧へのアンチテーゼとしてとらえるべき音楽なのだろう。
そのように理解することで、21世紀の今、この曲を演奏することの意味がより明らかになるのではなかろうか。新年最初のプログラムにこの曲をおいたソヒエフのメッセージを汲み取って頂ければ幸いである。

Aプログラム(NHKホール)
2025年1月18日(土)6:00pm
2025年1月19日(日)2:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
― ショスタコーヴィチ没後50年 ―
ショスタコーヴィチ/交響曲 第7番 ハ長調 作品60「レニングラード」
トロンボーンとコントラバスがユーモラスな掛け合いを演じる第7曲〈ヴィーヴォ〉に典型的に見られる通り、ストラヴィンスキーは内声部を中心とした和声や、リズム・音色の配合を巧みに変えることで、原曲とは全く違った味わいを生み出した。
その斬新な手法はしばしば、バレエの初演で舞台・衣装を担当したピカソのキュービズムにも準えられるが、依頼主のディアギレフは「モナ・リザに口ひげをつけろと頼んだ覚えはない」と愚痴をこぼしたとも伝えられる。
だがストラヴィンスキーは、原曲に忠実な編曲ではなく、そこに新たな生命を吹き込むことが、過去の作品に敬意を示す唯一の正しい方法であるという信念を持っていた。
後半のブラームス《交響曲第1番》は、言うまでもなくオーケストラの定番レパートリーである。2023年秋、ソヒエフはフランツ・ウェルザー・メストの代役として、ウィーン・フィルの来日公演でもこの曲を指揮した。
聴き慣れたはずの名曲なのに、フレーズの一つ一つ、さらに言えば一音一音に込められた情報量に驚き、新鮮な感動を味わった聴き手も多かったのではないかと思う。
その一例として、曲を締めくくる最終小節の全音符が挙げられる。ソヒエフは、舞台下手のティンパニを見据えてトリルを強調した後、上手のコントラバスの方向に向き直って低音を膨らませ、ふくよかな余韻を残しながら総奏を締めくくった。まるで、書道の達人の入魂の一筆を見るようだった。
N響との共演でも、決して通り一遍にはならない演奏を聴かせてくれることだろう。
ストラヴィンスキーとブラームスは一見、ミスマッチのようにも思えるが、18世紀以前と20世紀のミクスチュアに、19世紀の名曲を組み合わせることで、3世紀にまたがるヨーロッパの音楽史を鳥瞰できる内容になっている。
また、バロック時代の音楽を現代的な感覚で蘇らせることと、おなじみの名曲に別の角度から光を当てることは、物事への新しい見方を提示してくれるという意味で、共通項を持つようにも感じられるのだ。

2025年1月18日(土)6:00pm
2025年1月19日(日)2:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
― ショスタコーヴィチ没後50年 ―
ショスタコーヴィチ/交響曲 第7番 ハ長調 作品60「レニングラード」
ストラヴィンスキーとブラームスを通じて、3世紀にわたるヨーロッパ音楽史を俯瞰するプログラム
[Cプログラム]の前半は、《組曲「プルチネッラ」》。よく知られているように、ロシア・バレエ団のプロデューサー、ディアギレフの委嘱を受けたストラヴィンスキーが、ペルゴレージをはじめとする18世紀、あるいはそれ以前のイタリア音楽を換骨奪胎して作った作品である。トロンボーンとコントラバスがユーモラスな掛け合いを演じる第7曲〈ヴィーヴォ〉に典型的に見られる通り、ストラヴィンスキーは内声部を中心とした和声や、リズム・音色の配合を巧みに変えることで、原曲とは全く違った味わいを生み出した。
その斬新な手法はしばしば、バレエの初演で舞台・衣装を担当したピカソのキュービズムにも準えられるが、依頼主のディアギレフは「モナ・リザに口ひげをつけろと頼んだ覚えはない」と愚痴をこぼしたとも伝えられる。
だがストラヴィンスキーは、原曲に忠実な編曲ではなく、そこに新たな生命を吹き込むことが、過去の作品に敬意を示す唯一の正しい方法であるという信念を持っていた。
後半のブラームス《交響曲第1番》は、言うまでもなくオーケストラの定番レパートリーである。2023年秋、ソヒエフはフランツ・ウェルザー・メストの代役として、ウィーン・フィルの来日公演でもこの曲を指揮した。
聴き慣れたはずの名曲なのに、フレーズの一つ一つ、さらに言えば一音一音に込められた情報量に驚き、新鮮な感動を味わった聴き手も多かったのではないかと思う。
その一例として、曲を締めくくる最終小節の全音符が挙げられる。ソヒエフは、舞台下手のティンパニを見据えてトリルを強調した後、上手のコントラバスの方向に向き直って低音を膨らませ、ふくよかな余韻を残しながら総奏を締めくくった。まるで、書道の達人の入魂の一筆を見るようだった。
N響との共演でも、決して通り一遍にはならない演奏を聴かせてくれることだろう。
ストラヴィンスキーとブラームスは一見、ミスマッチのようにも思えるが、18世紀以前と20世紀のミクスチュアに、19世紀の名曲を組み合わせることで、3世紀にまたがるヨーロッパの音楽史を鳥瞰できる内容になっている。
また、バロック時代の音楽を現代的な感覚で蘇らせることと、おなじみの名曲に別の角度から光を当てることは、物事への新しい見方を提示してくれるという意味で、共通項を持つようにも感じられるのだ。

Cプログラム(NHKホール)
2025年1月24日(金)7:00pm
2025年1月25日(土)2:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ストラヴィンスキー/組曲「プルチネッラ」
ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68
ブラームスといいドヴォルザークといい、ソヒエフが1年少し前に、日本で同じ曲を演奏することになるとは想定外だった。だが今回のN響のプログラムは既に2年前に決めていたので、敢えてそのままお送りすることにした。ウィーン・フィルを聴いた方には、同じ指揮者でも、オーケストラの違いによって生まれる別の趣を味わって頂きたい。
ソヒエフは、数年前にN響と演奏した《新世界交響曲》のリハーサルで、「Take Time」という指示を繰り返していた。奏者にしっかり呼吸する時間を与えることで、個々のフレーズに命を宿らせるのだ。この曲においても、ドヴォルザーク特有のノスタルジックで哀愁に満ちたメロディーを、表情豊かにたっぷりと歌わせるだろう。
バルトーク《ヴァイオリン協奏曲第2番》は1938年の作曲。最先端の十二音技法とメロディーの魅力を共存させた第1楽章、特殊なボウイングのテクニックを変奏曲形式に取り入れた第2楽章、そして、大戦前の不穏な雰囲気をまとった第3楽章。全ての楽章に、時代の特徴が刻印されており、それがそのまま曲の魅力に結びついている。
ソリストは、第1コンサートマスターの郷古廉。2022年、急な代役ソロを務めた細川俊夫《ヴァイオリン協奏曲「ゲネシス」》でも示されたように、硬質な音色と強靭なテクニックで、20世紀を代表する名曲に迫るだろう。
コンサートの冒頭は、ムソルグスキーの《歌劇「ソロチンツィの市」》から〈序曲とゴパック〉。ゴパックとは、ウクライナのコサックの踊りのことである。
バルトークの第1楽章に使われたハンガリーの募兵の踊り“ヴェルブンコシュ”や、ボヘミアの色調をたたえたドヴォルザークの交響曲とあわせて、今回のプログラムは、ヨーロッパ東域の豊かな民族色を存分に楽しめる趣向となっている。


Bプログラム(サントリーホール)
2025年1月30日(木)7:00pm
2025年1月31日(金)7:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン : 郷古 廉(N響第1コンサートマスター)
ムソルグスキー(リャードフ編)/歌劇「ソロチンツィの市」─「序曲」「ゴパック」
バルトーク/ヴァイオリン協奏曲 第2番
ドヴォルザーク/交響曲 第8番 ト長調 作品88
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2025年1月24日(金)7:00pm
2025年1月25日(土)2:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ストラヴィンスキー/組曲「プルチネッラ」
ブラームス/交響曲 第1番 ハ短調 作品68
民族色豊かな東欧・ロシアの名作を、ソヒエフの自在なタクトで楽しむ
[Bプログラム]は、同じく2023年秋のウィーン・フィル来日ツアーでソヒエフが指揮したドヴォルザーク《交響曲第8番》をメインとする。ブラームスといいドヴォルザークといい、ソヒエフが1年少し前に、日本で同じ曲を演奏することになるとは想定外だった。だが今回のN響のプログラムは既に2年前に決めていたので、敢えてそのままお送りすることにした。ウィーン・フィルを聴いた方には、同じ指揮者でも、オーケストラの違いによって生まれる別の趣を味わって頂きたい。
ソヒエフは、数年前にN響と演奏した《新世界交響曲》のリハーサルで、「Take Time」という指示を繰り返していた。奏者にしっかり呼吸する時間を与えることで、個々のフレーズに命を宿らせるのだ。この曲においても、ドヴォルザーク特有のノスタルジックで哀愁に満ちたメロディーを、表情豊かにたっぷりと歌わせるだろう。
バルトーク《ヴァイオリン協奏曲第2番》は1938年の作曲。最先端の十二音技法とメロディーの魅力を共存させた第1楽章、特殊なボウイングのテクニックを変奏曲形式に取り入れた第2楽章、そして、大戦前の不穏な雰囲気をまとった第3楽章。全ての楽章に、時代の特徴が刻印されており、それがそのまま曲の魅力に結びついている。
ソリストは、第1コンサートマスターの郷古廉。2022年、急な代役ソロを務めた細川俊夫《ヴァイオリン協奏曲「ゲネシス」》でも示されたように、硬質な音色と強靭なテクニックで、20世紀を代表する名曲に迫るだろう。
コンサートの冒頭は、ムソルグスキーの《歌劇「ソロチンツィの市」》から〈序曲とゴパック〉。ゴパックとは、ウクライナのコサックの踊りのことである。
バルトークの第1楽章に使われたハンガリーの募兵の踊り“ヴェルブンコシュ”や、ボヘミアの色調をたたえたドヴォルザークの交響曲とあわせて、今回のプログラムは、ヨーロッパ東域の豊かな民族色を存分に楽しめる趣向となっている。


Bプログラム(サントリーホール)
2025年1月30日(木)7:00pm
2025年1月31日(金)7:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン : 郷古 廉(N響第1コンサートマスター)
ムソルグスキー(リャードフ編)/歌劇「ソロチンツィの市」─「序曲」「ゴパック」
バルトーク/ヴァイオリン協奏曲 第2番
ドヴォルザーク/交響曲 第8番 ト長調 作品88
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]