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2024年1月定期公演プログラムについて

公演情報2023年10月24日

ベルリン・フィルやウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウといった世界最高峰のオーケストラを定期的に指揮し、優れた実績を残しているトゥガン・ソヒエフ。未来の巨匠と目される彼が、N響をアジアにおける大切なパートナーと位置づけ、毎年共演できるようにスケジュールを空けてくれるのは、とても光栄なことだ。今回も昨年同様、ソヒエフと縁の深いロシア・ドイツ・フランスの名曲で、3つのプログラムを組み立てる。注目の指揮者の“旬”が味わえる1か月となるはずだ。

ソヒエフが“N響のラヴェル”に新しい地平を切り開く

2023年1月にソヒエフが披露したラヴェル《「ダフニスとクロエ」組曲》、ドビュッシー《交響詩「海」》は、シーズン屈指の優れた演奏だった。「フランスの作品、特にラヴェルは感覚的でフレキシブルな音楽と思われがちだが、実はまったく逆。ルバートの指示一つとっても、計算し尽くされ、構造的に書かれている。今日のN響のようにきっちり弾くことで、初めて曲の真価が伝わるのだ」と終演後に語っていた通り、ソヒエフ本人にとっても会心の出来栄えだったようだ。[Aプログラム]は再びそのラヴェルである。今回は《組曲「マ・メール・ロワ」》と《ラ・ヴァルス》を送る。

N響でラヴェルを振った指揮者と言えば、古くはエネルギッシュなマルティノン、近年では色彩的なデュトワが、真っ先に思い浮かぶ。緻密かつクリアでありながら、薫り高い音楽を引き出すソヒエフの芸風は、彼らと大きく異なるが、“N響のラヴェル”に新しい地平を切り開きつつあることは確かであろう。

前半はフランス・オペラの代表作を、20世紀ロシアのシチェドリンがバレエ用に編曲した《カルメン組曲》。弦と打楽器だけのユニークな編成、変形されたリズムに途切れがちなメロディー、盛り上がりの最中にいきなりトーンダウンする《闘牛士の歌》・・・。原曲の骨格をしっかり維持しながらも、意表を突く工夫があちこちに施され、誰もが知るオペラに新しい生命が吹き込まれる。打楽器セクションのチームワークが最大の注目ポイントである。

トゥガン・ソヒエフ、ラヴェル

Aプログラム(NHKホール)
2024年1月13日(土)6:00pm
2024年1月14日(日)2:00pm


指揮 : トゥガン・ソヒエフ

ビゼー(シチェドリン編)/バレエ音楽「カルメン組曲」
ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」
ラヴェル/バレエ音楽「ラ・ヴァルス」


並外れたソヒエフのテクニックが生きる《ロメオとジュリエット》

ソヒエフの並外れた指揮のテクニックは、サンクトペテルブルク音楽院時代の師であるムーシンの教えによるところが大きいようだ。「やりたいことがあるなら、顔と手で示せ」と、口を酸っぱくして言われたらしい。音量だけを取っても、ピアニッシモ、ピアノ、メゾ・ピアノといった微細な差を、手首の動きのわずかな違いで、ここまで巧みに描き分ける指揮者は、世界広しと言えども、それほど多くいないのではないか。

ダイナミクスや音色の変化に富んだ[Cプログラム]のプロコフィエフバレエ「ロメオとジュリエット」》は、そんなソヒエフの持ち味が十分に生かせる作品である。今回はソヒエフがトゥールーズ・キャピトル劇場管弦楽団と演奏した独自の組曲抜粋版に、一部の曲を加えたスペシャル版でお送りする。

最もポピュラーな第2組曲から5曲を順番にたどった後、「朝」をキーワードにした3曲が続く。活気あふれる街の様子を描いた〈朝の踊り〉と、意に添わぬ婚礼に向かうジュリエットの心境を反映した〈朝の歌〉〈百合の花を手にした娘たちの踊り〉では、同じ朝と言っても、聴き手は180度違う印象を受けることだろう。

終盤の3曲では、物語の中心テーマである「死」に焦点を当てる。恋人の亡骸を目にした主人公の慟哭〈ジュリエットの墓の前のロメオ〉と、激しい決闘の末の悲劇〈タイボルトの死〉。2曲の間に、若者の生命力みなぎる〈仮面〉を挟むことで、生と死のコントラストがいっそう際立つ仕掛けになっている。

トゥガン・ソヒエフ、プロコフィエフ

Cプログラム(NHKホール)
2024年1月19日(金)7:30pm
2024年1月20日(土)2:00pm


指揮 : トゥガン・ソヒエフ

リャードフ/交響詩「キキモラ」作品63
プロコフィエフ(ソヒエフ編)/バレエ組曲「ロメオとジュリエット」


ソヒエフがN響での指揮を熱望した《英雄》

ソヒエフのリハーサルを見て感じるのは、職人的な指揮の技術と並んで、奏者にイメージを喚起させる比喩の巧みさである。昨年のベートーヴェン《交響曲第4番》では、第1楽章の序奏部について「暗闇の中、一つ、また一つと手探りで別の部屋に進むような感じで」と伝えていた。転調が繰り返される曖昧模糊としたアダージョを演奏する上で、これ以上的確な言い回しはなかなか思いつけない。

Bプログラム」では、《第4番》の姉妹編とも言うべき《交響曲第3番「英雄」》を取り上げる。ソヒエフが常々、N響といちばん演奏したいベートーヴェンの交響曲として挙げていたのは、この《英雄》である。生き生きとした第1楽章に始まり、葬送行進曲を経て、壮大な変奏曲へとつながる、スケールの大きな構成。ドラマティックな音楽を描き切る上で、不足のないオーケストラと認めてくれてのことだろう。
《カルメン》《ロメオとジュリエット》に続き、エロス(愛)とタナトス(死)の対比を基軸とする、今月のプログラムの締めにふさわしい選曲である。

前半は、こちらもソヒエフがかねてより演奏を望んでいたモーツァルトの《協奏交響曲変ホ長調》。ゲスト・コンサートマスターの郷古廉と、ヴィオラ首席・村上淳一郎という、N響の誇るスター2人がソロを務める。かつてケルンWDR交響楽団に在籍していた村上はちょうど10年前、当時のコンサートマスター、ホセ・マリア・ブルーメンシャインとともにこの曲を演奏し、大いに話題を呼んだ(今でも動画を視聴することができる)N響に移籍して3年、信頼関係を深める仲間とともに、再び至福の時間をもたらしてくれるに違いない。

ベートーヴェン、トゥガン・ソヒエフ、郷古 廉、村上淳一郎、モーツァルト

Bプログラム(サントリーホール)
2024年1月24日(水)7:00pm
2024年1月25日(木)7:00pm


指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン : 郷古 廉(N響ゲスト・コンサートマスター)
ヴィオラ : 村上淳一郎(N響首席ヴィオラ奏者)

モーツァルト/ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K. 364
ベートーヴェン/交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」



[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

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