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2025年2月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から

公演情報2024年10月11日

プラハ放送交響楽団の首席指揮者・芸術監督に加え、2024-25シーズンからウィーン交響楽団の首席指揮者を務めている注目の指揮者、ペトル・ポペルカが初めてN響に登場する。きっかけは2022年夏、東京交響楽団への客演だった。期待をはるかに上回る名演に接した筆者は、急な代役に彼を抜擢した同団に敬意を表しつつ、いつかはN響にも呼びたいと考えた。2年半を経て、ようやくそのチャンスが到来する。

初共演のプログラム選びはかなり難航した。チェコのローカルな指揮者と見られることを警戒したポペルカが、ありきたりの曲を選ぶことに慎重だったためである。幾度となくやりとりを繰り返してできあがった2種類のプログラムは、母国のアイデンティティを生かしながら、ドイツ音楽を得意とするポペルカの本領が発揮できる内容となっている。


ポペルカがこだわり抜いた、2つの“シンフォニエッタ”をめぐるプログラム

Aプログラム]の最初と最後は、どちらも《シンフォニエッタ》である。“小さな交響曲”といった意味だが、ツェムリンスキーとヤナーチェクでは、曲の性格がまるで異なっている。
ツェムリンスキーはウィーンに生まれたユダヤ人だが、長年にわたりプラハ国立歌劇場の前身である新ドイツ劇場の指揮者を務めていたので、チェコとの関わりが深い。オーストリアやチェコ、ユダヤなど、様々な要素が複雑にミックスされているところに、ツェムリンスキーの最大の魅力があるとポペルカは言う。
《シンフォニエッタ》は、1935年にプラハで初演された。マーラーやヒンデミットの影響を感じさせるこの曲では、生の喜びと死の影が合わせ鏡のようになっている。いかにもオペラ指揮者が書いた音楽らしく、ドラマティックな構成が印象的である。

一方のヤナーチェク《シンフォニエッタ》は、村上春樹の『1Q84』で一躍有名になった。ステージ奥に並んだ13本の金管楽器とティンパニが奏でる冒頭と終曲のファンファーレは、音響的にもヴィジュアル的にもインパクト絶大だ。聴き手はNHKホールの広い空間で、圧倒的な迫力に包まれることだろう。

指揮者としても活躍したヤナーチェクは1898年、本拠地のチェコ・ブルノで、ドヴォルザーク《交響詩「のばと」》を初演している。チェコの国民的詩人エルベンのバラードに基づくこの作品は、夫を毒殺して若い男との再婚を企てた女が、良心の呵責から自殺するというストーリーに拠っている。
美しいワルツが流れる華やかな結婚シーンはやがて、亡き夫の墓に巣を作った、のばとの悲しげな鳴き声に取って代わられる。光と闇が交錯する曲の展開は、ツェムリンスキーの《シンフォニエッタ》にも通じるように思われる。




R. シュトラウス《ホルン協奏曲第1番》でソリストを務めるのは、チェコ出身の世界的な名手ラデク・バボラーク。指揮者としてもたびたび来日しており、日本のファンにはすっかりおなじみの存在である。この曲をN響と演奏するのはちょうど10年ぶりで、同国人のポペルカと、息の合った演奏を聴かせてくれるはずだ。


Aプログラム(NHKホール)
2025年2月8日(土)6:00pm
2025年2月9日(日)2:00pm


指揮 : ペトル・ポペルカ
ホルン : ラデク・バボラーク

ツェムリンスキー/シンフォニエッタ 作品23
R. シュトラウス/ホルン協奏曲 第1番 変ホ長調 作品11
ドヴォルザーク/交響詩「のばと」作品110
ヤナーチェク/シンフォニエッタ


本領のドイツ・オーストリア音楽で際立つ、ポペルカの繊細な音楽性

Bプログラム]は趣向を変えて、比較的コンパクトな楽器編成でお送りする。オール・モーツァルトの前半で3曲のコンサート・アリアを歌うのは、メゾ・ソプラノのエマ・ニコロフスカ。デビュー以来、彼女の活動に注目してきたというポペルカが共演を希望した。
モーツァルトにふさわしい美声と、テキストを深く読み込み、そこに様々な感情を込めることができるエマの長所を、ポペルカは高く買っている。



当時の人気歌手のために書かれた3曲のアリアには、高度な歌唱テクニックが要求され、短いながらも聴きごたえ十分である。半面、オーケストラのコンサートではあまり取り上げないので、今回は貴重な機会となるだろう。
3曲のうちの1つ、《レチタティーヴォとアリア「私のうるわしい恋人よ、さようなら ─とどまって下さい、ああいとしい人よ」K. 528 》は、チェコと密接な繋がりがある。モーツァルトが、プラハ滞在中に住まいとした館の持ち主、ドゥーシェク夫妻のために作曲したからだ。妻のヨゼーファは優れた歌手で、モーツァルトの大ファンだった。曲が書けるまで彼を軟禁したという興味深いエピソードも伝わっている。

元コントラバス奏者という経歴が示す通り、ポペルカの音楽作りには、豊かなバスの上に響きを重ねていく安定感、和音が変わるたびに音色を細やかに変化させていく繊細さが感じ取れる。このような特徴は、2024年7月、プラハ放送交響楽団との来日ツアーで披露した《モルダウ》の月光の場面や、《新世界交響曲》の第2楽章などによく表れていた。
ポペルカの持ち味は、モーツァルト初期の傑作《交響曲第25番》や、シューマン《交響曲第1番「春」》といったドイツ音楽の中枢的なレパートリーにおいて、より明瞭に示されるだろう。とりわけ詩情あふれるシューマンは、ポペルカの最愛の作曲家である。N響が培った伝統との間に、幸せな相乗効果がもたらされることを期待したい。




Bプログラム(サントリーホール)
2025年2月13日(木)7:00pm
2025年2月14日(金)7:00pm


指揮 : ペトル・ポペルカ
メゾ・ソプラノ : エマ・ニコロフスカ*

モーツァルト/アリア「私は行く、だがどこへ」K. 583*
モーツァルト/アリア「大いなる魂と高貴な心は」K. 578*
モーツァルト/交響曲 第25番 ト短調 K. 183
モーツァルト/レチタティーヴォとアリア「私のうるわしい恋人よ、さようなら ─とどまって下さい、ああいとしい人よ」K. 528*
シューマン/交響曲 第1番 変ロ長調 作品38「春」


下野竜也が贈る、誰もが気軽に楽しめるオペレッタの名曲

2024-25シーズンの[Cプログラム]には、“劇場音楽とポピュラーな交響曲”という共通テーマがある。その一環として、今月は誰もが気軽に楽しめるオペレッタを中心に組み立てた。正指揮者・下野竜也の、いつもとはひと味違ったユーモラスな一面が垣間見えるだろう。

《パリの喜び》は1938年にモンテカルロ・バレエ団が初演したバレエのための音楽だが、その原曲は主に19世紀後半、第二帝政期のパリで盛んに上演されたオッフェンバックのオペレッタである。編曲したロザンタールは、《パリの生活》《ラ・ペリコール》といった人気作のナンバーを巧みに組み合わせ、一続きの作品として構成した。中でも有名なのは《地獄のオルフェ》の〈カンカン〉であろう。フランスのオペレッタと言えば誰もが、運動会などで聴きなじんだこの曲を思い浮かべるのではないだろうか。
今回は名指揮者カラヤンの抜粋版に基づいて演奏する。起伏に富んだラインナップは、オッフェンバックの代表作《ホフマン物語》の《舟歌》で、豊かな余韻とともに締めくくられる。
オッフェンバックと同じ1819年生まれのスッペは、ウィーンを舞台にオペレッタを量産した。今日ではその大半が忘れ去られてしまったが、《喜歌劇「軽騎兵」序曲》は、今も演奏の機会が少なくない。日本では、かつて小学校の音楽の教科書にも取り上げられていた。騎馬のギャロップを思わせる金管のメロディーを知らない人はいないだろう。
《詩人と農夫》はスッペのもう一つのヒット作で、もともとは喜劇のための付随音楽だった。序曲でチェロのソロが奏でる《線路は続くよ、どこまでも》によく似たメロディーは特に有名である。



サン・サーンスは、大規模なオペラやオーケストラ曲、室内楽など、オペレッタとは違う分野で、19世紀後半のフランス音楽界をリードした。オッフェンバックやスッペの同時代人でありながら、作風は対照的。それでいて、同時代ならではの共通の空気も感じられる。
《ヴァイオリン協奏曲第3番》は、人気ヴァイオリニスト三浦文彰が下野竜也との初共演でも弾いた、思い出の曲。8分の6拍子の優雅な第2楽章は、プログラム最後の《ホフマンの舟歌》に呼応している。



Cプログラム(NHKホール)
2025年2月21日(金)7:00pm
2025年2月22日(土)2:00pm


指揮 : 下野竜也
ヴァイオリン : 三浦文彰

スッペ/喜歌劇「軽騎兵」序曲
サン・サーンス/ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 作品61
スッペ/喜歌劇「詩人と農夫」序曲
オッフェンバック(ロザンタール編)/バレエ音楽「パリの喜び」(抜粋)



[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

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