ページの本文へ

ニュース
  1. ホーム
  2. NHK交響楽団からのニュース
  3. 2023年12月定期公演プログラムについて

2023年12月定期公演プログラムについて

公演情報2023年10月24日

ファビオ・ルイージが首席指揮者に就任して1年あまりが経過した。リハーサルを見ていると、マエストロがN響メンバーを信頼し、一緒に音楽を作ろうという姿勢が以前よりも強まっているように感じる。楽員からも「締め付けるのではなく、任せるべきところを任せてくれるようになった」という声が聞かれる。上昇気流に乗りつつある中で迎える第2000回定期。大きな節目として、末永く記憶に残る熱演を期待したい。

圧倒的音響空間に身を浸し《一千人の交響曲》の真価を知る

Aプログラム]のマーラー交響曲第8番「一千人の交響曲」》は、ファン投票により、3つの候補曲から選ばれた。名前通りの大編成を必要とするため、100年近い歴史を持つN響が演奏するのも、今回でようやく5回目である。戦後間もない山田和男(一雄)指揮の日本初演に続き、若杉弘、デュトワ、パーヴォ・ヤルヴィといった歴代のタイトル指揮者が、ここぞという時に取り上げてきた。マーラーへの思い入れの強さでは、ルイージも負けていない。彼の推薦する欧米のトップ歌手たち、そして大人数の合唱団がNHKホールに集結する。

実演でしか真価が伝わらない曲がいくつかあると思うが、この作品など、その最たるものだろう。マーラー自身は「これまでの交響曲は、すべてこの曲の序奏に過ぎない」と豪語し、初演も大成功を収めたが、ドイツの音楽美学者アドルノなどは「題材が崇高だからと言って、作品も崇高とは限らない」といった意味のことを述べているし、他にもこの曲に対する否定的見解は少なくない。確かに「聖なるもの」一辺倒で、猥雑な要素がない点は、マーラーの作品としてはかなり異色である。中世の讃歌(第1部)とゲーテの『ファウスト』(第2部)を無理につなぎ合わせたような構成も、一見不自然に感じられる。

しかし、圧倒的な音響空間に身を浸すことで、作品の全体像や、「宇宙の響き」を具現化しようとしたマーラーの意図に、多少なりとも迫れるのではないか。めったにない機会、生で聴くことを特に強くお勧めしたい。

ファビオ・ルイージ、マーラー

Aプログラム(NHKホール)
2023年12月16日(土)6:00pm
2023年12月17日(日)2:00pm


指揮 : ファビオ・ルイージ
ソプラノ : ジャクリン・ワーグナー※
ソプラノ : ヴァレンティーナ・ファルカシュ
ソプラノ : 三宅理恵
アルト : オレシア・ペトロヴァ
アルト : カトリオーナ・モリソン
テノール : ミヒャエル・シャーデ
バリトン : ルーク・ストリフ
バス : ダーヴィッド・シュテフェンス
合唱 : 新国立劇場合唱団
児童合唱 : NHK東京児童合唱団

マーラー/交響曲 第8番 変ホ長調 「一千人の交響曲」(ファン投票選出曲)


レーガーの傑作に“失われし古きヨーロッパ”への慨嘆を聴く

Bプログラム]のレーガーは、今年生誕150年を迎えるドイツ後期ロマン派の作曲家。マーラーと親しく付き合い、《千人の交響曲》の初演にも立ち会ったという。
モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ》は、有名な《ピアノ・ソナタ第11番》の第1楽章を主題に用いたもので、ブラームスの衣鉢を継ぎ、変奏曲を得意としたレーガーの真骨頂ともいえる作品である。おなじみの優美な主題とともに始まるが、それが途中で原形を留めないほどミニマムな単位に分解され、ついには耽美的な最後の変奏曲と、壮麗なフーガに行き着く。初演は第一次世界大戦の最中。“古きよきヨーロッパ”が失われることへの慨嘆と、旧世界へのノスタルジーが詰まっているかのようだ。記念イヤーにちなんで、ルイージはこの曲に初挑戦することを決意した。

レーガーが引用したモーツァルトの《ピアノ・ソナタ第11番》は、第3楽章のリズムから「トルコ行進曲つき」と呼ばれるが、前半の2曲では、トルコ軍楽隊ゆかりの打楽器が活躍する。
首都ウィーンがオスマン・トルコに包囲されたこともあるハプスブルク帝国。ハイドンが長く暮らしたハンガリーは、その領土の一部だった。トルコから伝わった大太鼓やシンバルは、常に身近に感じられる楽器だったに違いない。これらを使った《交響曲第100番「軍隊」》は、初演地ロンドンをはじめ、異国の文化を歓迎するヨーロッパの聴衆に大いに喜ばれた。
シンプルでごまかしの効かないハイドンの交響曲は、オーケストラにとっての試金石。昨シーズンは《第82番「くま」》を演奏したが、ルイージの在任中は、これからもコンスタントに取り上げるつもりである。

ハンガリー生まれのリストは、トルコ軍楽隊の楽器の模倣として使われ始めたトライアングルを、《ピアノ協奏曲第1番》で準主役に引き立てた。主題が巧みに変奏され、クライマックスに行き着く構造は、レーガー作品にも共通する。リストの《超絶技巧練習曲集》で華々しくデビューした人気ソリスト、アリス・紗良・オットが、久しぶりにこの曲に挑む。

ファビオ・ルイージ、ハイドン、レーガー、リスト、アリス・紗良・オット

Bプログラム(サントリーホール)
2023年12月6日(水)7:00pm
2023年12月7日(木)7:00pm


指揮 : ファビオ・ルイージ
ピアノ : アリス・紗良・オット

―レーガー生誕150年―
ハイドン/交響曲 第100番 ト長調 Hob.I-100 「軍隊」
リスト/ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
レーガー/モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ 作品132


ルイージの巧みな指揮が「芸術家の夢想」を描く

リストの《ピアノ協奏曲第1番》を初演した指揮者は意外なことに、彼と並ぶロマン派の寵児、ベルリオーズであった。[Cプログラム]では、その代表作《幻想交響曲》を送る。鐘やオフィクレイド(今回はチューバで代用)のような特殊楽器、弦を弓の背で打つコル・レーニョのような特殊奏法を駆使し、『芸術家の夢想』が描かれる。美しい恋人からグロテスクな魔女へと変貌する“固定楽想”のアイデアは、フランクの“循環形式”などにも影響を与えた。
ルイージは今年5月に、フランクの《交響曲》を取り上げたが、これは名演の誉れ高いものだった。テーマの変化を浮き彫りにしながら、全体をまとめ上げる巧みな指揮ぶりは、今回の演奏にも十分に生かされることだろう。

クリスマス・シーズンと言えば、グリム童話を原作とするフンパーディンクの《ヘンゼルとグレーテル》。ヨーロッパではこのオペラと、バレエ《くるみ割り人形》が、季節定番の出し物になっている。魔女が出てくるところが、《幻想交響曲》との共通点である。ただし《前奏曲》に魔女の主題は現れない。ホルンの敬虔な祈りで始まり、魔女から解放された喜びの歌が高らかに歌われる。

ベルリオーズ、ファビオ・ルイージ、フンパーディング

Cプログラム(NHKホール)
2023年12月1日(金)7:30pm
2023年12月2日(土)2:00pm


指揮 : ファビオ・ルイージ

フンパーディンク/歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲
ベルリオーズ/幻想交響曲 作品14



[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

閉じる
公演カレンダーを閉じる