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- 第2025回 定期公演 Aプログラム
※約2時間の公演となります(休憩20分あり)。
※やむを得ない理由で出演者や曲目等が変更となる場合や、公演が中止となる場合がございます。公演中止の場合をのぞき、チケット代金の払い戻しはいたしません。
ABOUT THIS CONCERT特徴
2024年12月Aプログラム 聴きどころ
後期ロマン派の爛熟(らんじゅく)プロセスを辿(たど)るプログラム。ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》は、半音階と管弦楽法による深層心理表現とエロスの解放の点で、20世紀音楽の偉大な起点であった。それはR. シュトラウスに継がれ、やがてシェーンベルクの無調に至る。《ペレアスとメリザンド》はシェーンベルクがぎりぎりで調性に踏みとどまっていた最後の作品のひとつ。その意味で後期ロマン派音楽の終点である。
(岡田暁生)
PROGRAM曲目
― シェーンベルク生誕150年 ―
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」─「前奏曲と愛の死」
チューリヒで亡命生活を送りながら《指環》に専念していたリヒャルト・ワーグナー(1813~1883)は、行き詰まりをかんじて《ジークフリート》を2幕途中で中断、気晴らしとして「小さな」「イタリア・オペラ」を構想した。これがのちに《トリスタンとイゾルデ》となる。ワーグナーがルートヴィヒ2世の召喚に応じてミュンヘンへ赴くのは1864年5月。《トリスタン》はハンス・フォン・ビューローにより翌1865年6月に初演。このときすでにワーグナーはビューローの妻コジマと深い仲になっていた。あまりに有名な前奏曲冒頭の「トリスタン和音」は、この世では永久に安息を見出せない男女の音楽的比喩である。後期ロマン派音楽ばかりか象徴主義やユーゲントシュティールなど、世紀末芸術のすべてはここから生まれてきた。なおミュンヘンにおける初演には、名ホルン奏者だったリヒャルト・シュトラウスの父フランツが参加しており、リヒャルトはちょうど1歳になるところであった。
(岡田暁生)
演奏時間:約17分
作曲年代:1857~1859年
初演:[前奏曲初演]1860年1月25日、パリ、イタリア座 [全曲初演]1865年6月10日、ミュンヘン宮廷歌劇場
R. シュトラウス/「ばらの花輪」作品36-1*、「なつかしいおもかげ」作品48-1*、「森の喜び」作品49-1*、「心安らかに」作品39-4*、「あすの朝」作品27-4*
本来リートは家庭音楽であった。アマチュアが家で歌って楽しむのである。しかし世紀転換期になると、コンサートホールで披露するための管弦楽伴奏のリートが人気となる。マーラーもレーガーもプフィッツナーもこのジャンルを多く作曲した。しかし意外にもリヒャルト・シュトラウス(1864~1949)に、最初からオーケストラ伴奏で構想された作品は多くない。シュトラウスは「内輪で歌って楽しむ」というリート伝統に忠実であり、《4つの最後の歌》を除くと、シュトラウスのオーケストラ歌曲のほとんどはピアノ伴奏リートをのちに編曲したものである。またそのやり方は、オーケストラで華々しく飾りたてるというより、原曲の綾(あや)をより繊細に描くためにオーケストラを使うという方向だ。
19世紀において「詩を読む」ことは、市民必須の教養のひとつであった。シュトラウスも夕食後は必ずゲーテなどの詩集をひもといていた。こうした常識的な家庭人としてのシュトラウスの一面は、詩の選択にもあらわれている。クロプシュトゥック(《ばらの花輪》)はいわば当時の学校教科書的な古典詩人であり、その作品を題材にとるあたりにギムナジウムの優等生としてのシュトラウスの顔がのぞく。だが彼は同時代潮流への目配りも怠らない。ビアバウム(《なつかしいおもかげ》)やデーメル(《森の喜び》《心安らかに》)やマッケイ(《あすの朝》)は、いずれも世紀転換期の詩人たちである。ビアバウムはユーゲントシュティール系の雑誌で風刺的な詩を発表し、キャバレー詩人たちと懇意だった。デーメルはシェーンベルク《清められた夜》にインスピレーションを与えたことでも知られ、あられもない官能と背徳で絶大な人気を博していた。レーガーやシマノフスキもデーメルの詩に歌曲を残している。マッケイはスコットランド生まれの無政府主義者で、シェーンベルクも作品6の歌曲で彼の詩をとりあげた。いずれも世紀末的な反市民道徳が売りの詩人である。ただし面白いことに、シュトラウスがリートのために選ぶ詩は、長年連れ添った夫婦ないし恋が芽生え始めた男女の心情を歌う穏やかな内容が多い。本日のプログラムで選ばれた歌曲も例外ではない。
シュトラウスの妻パウリーネはもともと大歌手で、彼のリートの原曲のほとんどは、歌い手としてパウリーネを想定していたと思われる(《あすの朝》は結婚記念に彼女に贈られた)。夫のピアノで家庭で歌うこともあっただろうし、コンサートでの共演でもとりあげられたはずだ。パウリーネは結婚してしばらくは夫と頻繁にリサイタルをしていたのである。そして管弦楽編曲についていえば、《ばらの花輪》と《あすの朝》はパウリーネも同行した1897年のブリュッセル/パリへの演奏ツアーのためのものである。他方《なつかしいおもかげ》と《森の喜び》の編曲目的ははっきりしていない。1918年といえば第1次世界大戦が終わった年であり、シュトラウスはイギリスの銀行に預けていた貯金を大戦中に没収されてしまったから、なんらかの経済目的があったのかもしれない。《心安らかに》は大指揮者クレメンス・クラウスの妻であり、シュトラウス・オペラのヒロインとして比類がなかった名ソプラノ、ヴィオリカ・ウルズレアクのために編曲されている。
(岡田暁生)
演奏時間:[ばらの花輪]約3分 [なつかしいおもかげ]約4分 [森の喜び]約4分 [心安らかに]約5分 [あすの朝]約4分
作曲年代:[ばらの花輪]1897年作曲・編曲 [なつかしいおもかげ]1900年作曲、1918年編曲 [森の喜び]1901年作曲、1918年編曲 [心安らかに]1898年作曲、1933年編曲 [あすの朝]1894年作曲、1897年編曲
初演:[ばらの花輪]編曲版初演 1897年11月 [なつかしいおもかげ]不明 [森の喜び]不明 [心安らかに]編曲版初演 1933年 [あすの朝]編曲版初演 1897年11月
シェーンベルク/交響詩「ペレアスとメリザンド」作品5
アルノルト・シェーンベルク(1874~1951)が正規の作曲レッスンを受け始めたのは20歳を超えてから。24歳で素晴らしい完成度の歌曲、作品1を作曲。ワーグナーの半音階とブラームスの室内楽を統合したような弦楽六重奏《清められた夜》(作品4)を作曲したのが25歳のとき。そして27歳で巨大規模の《交響詩「ペレアスとメリザンド」》(作品5)の作曲を開始。晩学の遅れを一気に取り戻すかのように、彼はすさまじい勢いで作品構想を拡張させていった。《ペレアス》は若きシェーンベルクの尋常ならざる膨張意志の偉大な記念碑である。
1893年に初演されたメーテルリンクの戯曲『ペレアスとメリザンド』を、オペラ化してはどうかと作曲者に示唆したのは、リヒャルト・シュトラウスである。結局《ペレアス》は上演時間50分近く、管弦楽も当時としては空前の規模の交響詩として完成されたが、ここでシェーンベルクは、ブラームスの精緻な動機変奏とワーグナーの半音階とマーラーの長大さとR. シュトラウスの管弦楽法の華麗さとを、弁証法的に統合しようとした。初演を打診されたツェムリンスキーは、作品を高く評価しつつ、あまりの複雑さに依頼を断ったという。作曲者自身が指揮した初演は大スキャンダルになり、シェーンベルクを狂人呼ばわりする新聞評すらあったという。
この作品はリスト/シュトラウスの交響詩をモデルとする、ソナタ形式と4楽章ソナタを合体させた形式となっている。また当初オペラ化を予定していただけあって、かなり具体的なプログラムがあったと思われる。アルバン・ベルクは本作品の標題について詳細な解題を残しており、それによると序奏はゴローとメリザンドの出会い。第1ヴァイオリンの陶酔的な第1主題が2人の結婚。不吉な運命を予告するような経過部のあとの潑剌(はつらつ)としたトランペット・ソロは、ペレアスをあらわす第2主題。メリザンドとの間に愛が目覚める。総休止のあとのおどけたフルートのワルツとともに、曲は展開部=スケルツォ楽章に入る。泉のほとり、塔、洞窟で2人の恋人は戯れるが、しばしば不吉なゴローの不協和音で断ち切られる。ハープのグリッサンドから総休止のあと、弦楽器のコラール風の楽想でアダージョ楽章が始まる。恋人の情熱的な抱擁を示唆するように音楽は高揚していくが、突然大太鼓が連打され、不吉な不協和音となってペレアスの死が描かれる。やがて第1主題が戻ってきて、メリザンドの死を描くフルートの弱音の下降モティーフ(ハープ伴奏)をはさみつつ、さまざまな既出の楽想が再現部として回想される。
この作品ですでにシェーンベルクは、とりわけ不吉な運命を連想させる箇所において、ほとんど無調に近づいている。調性に回収できないこうした響きにおいて重要な役割を果たすのが対位法だ。何気ない伴奏声部までびっしり対旋律として彫り込む執念は、ほとんど常軌を逸しているとすらいえる。巨大オーケストラのすべてのパートが動機なのだ。だから聴き手には尋常ならざる集中力が要求される。ただ快適に耳を傾けることが許されない。初演スキャンダルの一因は、この過剰なまでの聴き手への芸術的要求だったのかもしれない。
(岡田暁生)
演奏時間:約46分
作曲年代:1902〜1903年
初演:1905年1月25日、ウィーン楽友協会
ARTISTS出演者
指揮ファビオ・ルイージ
1959年、イタリア・ジェノヴァ出身。デンマーク国立交響楽団首席指揮者、ダラス交響楽団音楽監督を務める。N響とは2001年に初共演し、2022年9月首席指揮者に就任。就任記念公演でヴェルディ《レクイエム》を、2023年12月のN響第2000回定期公演ではマーラー《一千人の交響曲》を指揮し、この2つの記念碑的公演で共に大きな成功を収めた。またベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー、R. シュトラウスなどのドイツ・オーストリアの作品や、フランクやサン・サーンスといったフランス語圏の作品に取り組み、その歌心と情熱に溢(あふ)れた指揮は、多くの聴衆の心を摑(つか)んでいる。2024年8月にはN響台湾ツアーを率い、2025年5月には「マーラー・フェスティバル」(アムステルダム・コンセルトヘボウ)への招待に合わせて行われるヨーロッパツアーで指揮を務める。
これまでにチューリヒ歌劇場音楽総監督、メトロポリタン歌劇場首席指揮者、ウィーン交響楽団首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団および同歌劇場音楽総監督、MDR(中部ドイツ放送)交響楽団芸術監督、スイス・ロマンド管弦楽団音楽監督、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団首席指揮者などを歴任。このほか、イタリアのマルティナ・フランカで行われるヴァッレ・ディートリア音楽祭音楽監督も務めている。また、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラに定期的に客演し、世界の主要オペラハウスにも登場している。録音には、ヴェルディ、ベッリーニ、シューマン、ベルリオーズ、ラフマニノフ、リムスキー・コルサコフ、マルタン、そしてオーストリア人作曲家フランツ・シュミットなどがある。また、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とは数々のR. シュトラウスの交響詩を収録しているほか、ブルックナー《交響曲第9番》の解釈は高く評価されている。メトロポリタン歌劇場とのワーグナー《ジークフリート》《神々のたそがれ》のレコーディングではグラミー賞を受賞した。
ソプラノクリスティアーネ・カルク*
クリスティアーネ・カルクはドイツのバイエルン州フォイヒトヴァンゲン生まれ。ザルツブルク・モーツァルテウム大学でハイナー・ホプフナーとウォルフガング・ホルツマイアーの元で学ぶ。在学中の2006年にはザルツブルク音楽祭にデビュー。現在までにロイヤル・オペラ、パリ・オペラ座、シカゴ・リリック・オペラ、メトロポリタン歌劇場、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場など世界の名だたる歌劇場に出演し、特にモーツァルト作品では高い評価を得てきた。今年の2月にはベルリン国立歌劇場でのドヴォルザーク《ルサルカ》タイトルロールを初めて演じ、大きな評判となった。
歌曲のジャンルでの活躍も目覚ましく、ロンドンのウィグモア・ホールには定期的に登場するほか、ウィーン楽友協会大ホール、ザルツブルク音楽祭、シュヴァルツェンベルクでのシューベルティアーデ音楽祭などに出演。今回N響と共演するR. シュトラウスは、2014年にCDをリリースしており得意のプログラム。リリックな響きと豊かな表現力でR. シュトラウス独特の歌曲の世界を描き出す。
[室田尚子/音楽評論家]
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料金
S席 | A席 | B席 | C席 | D席 | E席 | |
---|---|---|---|---|---|---|
一般 | 11,000円 | 9,500円 | 7,600円 | 6,000円 | 5,000円 | 3,000円 |
ユースチケット | 5,500円 | 4,500円 | 3,500円 | 2,800円 | 1,800円 | 1,400円 |
※価格は税込です。
※定期会員の方は一般料金の10%割引となります。また、先行発売をご利用いただけます(取り扱いはWEBチケットN響・N響ガイドのみ)。
※車いす席についてはN響ガイドへお問い合わせください。
※N響ガイドでのお申し込みは、公演日の1営業日前までとなります。
※券種により1回券のご用意ができない場合があります。
※当日券販売についてはこちらをご覧ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
※開場前に屋内でお待ちいただくスペースはございません。ご了承ください。
ユースチケット
29歳以下の方へのお得なチケットです。
(要登録)
定期会員券
発売開始日
年間会員券
2024年7月15日(月・祝)10:00am
[定期会員先行発売日: 2024年7月7日(日)10:00am]
シーズン会員券(WINTER)
2024年10月15日(火)10:00am
[定期会員先行発売日: 2024年10月10日(木)10:00am]
BROADCAST放送予定
NHK-FMベスト オブ クラシック
「第2025回 定期公演 Aプログラム」
2024年12月19日(木) 7:30PM~ 9:10PM
曲目:
― シェーンベルク生誕150年 ―
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」─「前奏曲と愛の死」
R. シュトラウス/「ばらの花輪」作品36-1*、「なつかしいおもかげ」作品48-1*、「森の喜び」作品49-1*、「心安らかに」作品39-4*、「あすの朝」作品27-4*
シェーンベルク/交響詩「ペレアスとメリザンド」作品5
指揮:ファビオ・ルイージ
ソプラノ:クリスティアーネ・カルク*
収録:2024年11月30日 NHKホール