定期公演 2024-2025シーズンCプログラム
第2021回 定期公演 Cプログラム

この作品は1822年10月30日に作曲が開始され、第1楽章と第2楽章の2つの楽章は完成されたものの、第3楽章はスケッチのまま完成することなく残された。本作品は多くの謎を含んでいる。シューベルトは、1823年になって完成した2つの楽章をグラーツのシュタイアーマルク協会のアンゼルム・ヒュッテンブレンナーに送る。ヒュッテンブレンナーはこの未完成の楽譜を保管したものの、そのまま忘れ去られ、約40年後の1865年にヨーハン・ヘルベックによって発見された。もちろんヒュッテンブレンナーはこの2楽章は未完成のものであるという認識をもっており、その後の楽章が作曲されるものと思っていたであろう。しかし、未完成の作品をシューベルトは何故にヒュッテンブレンナーに送ったのであろうか。そして、スケッチの形であれ、ほとんど書き上げられていた第3楽章を彼はなぜ完成しなかったのだろうか。シューベルトにはこの時期に何作もの未完成の交響曲が残されているが、本作品は彼の全く新しい世界を示している点でまさしく傑作で、今日に至るまで世界中で演奏されている。
第1楽章（アレグロ・モデラート、ロ短調、3/4拍子）。幽玄で劇的なこの第1楽章はこれまでのシューベルトの交響曲には見られない、きわめて独創的で感動的な表現である。低弦楽器が奏する序奏動機は、この作品の重要なモットーの役割を担う。この動機は、最初の3音の上行進行の動機とそれに続く下行動機、そして嬰へ音の保続音からなる。最初の3音の動機は第1楽章の主題の基礎動機であるが、第2楽章の主題にも用いられる。低弦楽器による冒頭の動機を受けて、ヴァイオリンがさざなみのように表現する。この16分音符の動機は《弦楽四重奏曲ハ短調》の冒頭の序奏動機との結びつきを感じさせる。
第2楽章（アンダンテ・コン・モート、ホ長調、3/8拍子）も注目すべき楽章である。第1楽章の動機をたくみに用いて、さまざまに揺れ動く感情を絶妙な転調によって表現している。ファゴットとホルンの奏する3小節の動機に導かれて第1ヴァイオリンによって主題が提示され、冒頭の3小節の動機をコントラバスがピチカートで奏する下行音階で支える。

（西原 稔）

演奏時間：約25分
作曲年代：1822年
初演：1865年12月17日、ウィーン楽友協会演奏会、ヨーハン・ヘルベックの指揮

1824年、友人のクペルヴァイザー宛の書簡でシューベルトは新作の交響曲の意欲を述べ、翌年にグムンデンやバード・ガシュタインで作曲を進める。友人のオッテンヴァルトは「（シューベルトは）グムンデンで交響曲を一曲作曲し、これは冬にウィーンで演奏されるはずです」と述べている。そのことからこの交響曲は一時、「グムンデン・ガシュタイン交響曲」と命名された。しかし、この作品はシューベルトのウィーン楽友協会準理事就任と関連した作品であることがわかり、「第8番交響曲」であるとみなされるに至った。事実、彼は1826年にハ長調の交響曲を楽友協会に提出しており、それがこの《交響曲第8番》にあたる。研究者のオットー・ビーバはウィーン楽友協会においてこの交響曲のパート譜の筆写人の領収書を発見したことから、準理事就任の折に何らかの形で演奏された可能性も考えられている。作品は1839年にウィーンを訪れたシューマンが見出し、同年メンデルスゾーンの指揮で初演された。
第1楽章は壮大な序奏（アンダンテ、ハ長調。2/2拍子）を伴い、その後に主部（アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ハ長調）に入る。序奏は朗々としたホルンによって開始する。主部の第1主題は弦楽器による弾むような付点リズムで始まり、管楽器による同音反復がそれに応える。続くホ短調の第2主題はややメランコリックな楽想で、オーボエとファゴットで提示される。トロンボーンの奏する第1主題の表現は印象的である。楽章はソナタ形式で構成され、展開部は変イ長調で第1主題に基づく動機で始まる。
第2楽章（アンダンテ・コン・モート、イ短調、2/4拍子）。低弦楽器による前奏に続いてオーボエが美しい主要主題を提示する。その後オーボエによる優美な新しい旋律が第2ヴァイオリンの旋律を伴って奏される。フォルティッシモで奏されるトゥッティは優美な冒頭主題とは対照的な雰囲気で、楽章構成で大きな役割をもつ。
第3楽章（スケルツォ、アレグロ・ヴィヴァーチェ、ハ長調、3/4拍子）。躍動感溢（あふ）れる楽章で、弦楽器群がトリルの動機で始まる主題動機を奏するとオーボエとフルートがそれに応える。中間部分のトリオはイ長調で、弱音で奏される同音反復で始まり、クレッシェンドして管楽器群が力強く中間主題を提示する。
第4楽章（終曲：アレグロ・ヴィヴァーチェ、ハ長調、2/4拍子）。壮大なスケールの楽章で、その規模は第1楽章を凌駕（りょうが）する。第1主題はトゥッティの付点リズムで開始する。このリズムはこのフィナーレにおいて重要な役割を持ち、第1主題は晴れやかな楽想である。その後オーボエとファゴットで主題の後楽節ともいうべき新主題が示され、第2主題は保続音を背景に管楽器によって提示される。

（西原 稔）

演奏時間：約60分
作曲年代：1825年？〜1826年？
初演：確認できる限りでは、1839年3月21日、ライプツィヒ、フェーリクス・メンデルスゾーンの指揮、ゲヴァントハウス管弦楽団