※約2時間の公演となります(休憩20分あり)。
※やむを得ない理由で出演者や曲目等が変更となる場合や、公演が中止となる場合がございます。公演中止の場合をのぞき、チケット代金の払い戻しはいたしません。
ABOUT THIS CONCERT特徴
2025年9月Cプログラム 聴きどころ
「マーラーとR. シュトラウス」という組み合わせはよく見られるが、「マーラーとシベリウス」も当然あってしかるべきだ。偉大な交響曲伝統のフィナーレを飾るこの二大巨人は、各々『こどもの不思議な角笛』と『カレワラ』という民族詩(集)から交響曲へ向かった点も共通していた。彼らはヘルシンキで一度だけ会っている。ただし厳格と論理が交響曲の生命だというシベリウスに対し、マーラーは「交響曲は宇宙」だと主張して会話は平行線だったという。
(岡田暁生)
PROGRAM曲目
マーラー/こどもの不思議な角笛─「ラインの伝説」* 「トランペットが美しく鳴り響くところ」*「浮世の生活」* 「天上の生活」* 「原光」*
1887年ごろから『こどもの不思議な角笛』所収の詩による歌曲を作曲し始めたグスタフ・マーラー(1860~1911)は、《交響曲第4番》(1900年に完成)あたりまで、この詩集に取り憑(つ)かれていた。1892年にピアノ伴奏の9曲、1899年にはオーケストラ伴奏の12曲が出版される。最終的に《交響曲第4番》の終楽章に転用された〈天上の生活〉を除き、本日演奏される作品はこの1899年出版のものである(〈原光〉ものちに《交響曲第2番》の第4楽章に転用された)。
アルニムとブレンターノが民衆の間で伝承されている詩を集めて『こどもの不思議な角笛』を出版したのは1805~1808年。これはグリム兄弟による有名な民話収集に先立つ。編者たちの手がかなり加わっているともいわれるが、ここで描かれるのは恐ろしく生々しい民衆世界だ。胸が痛くなるほど純朴な乙女(〈ラインの伝説〉)。恋人のもとへ夜更(ふ)けにやってくる死んだ兵士の亡霊(〈トランペットが美しく鳴り響くところ〉)。餓死しそうなこどもをかかえた母(〈浮世の生活〉)。そして民間信仰の中の天国では、聖者が家畜を殺したり(〈天上の生活〉)、天使が物乞いを追い払ったりする(〈原光〉)。
19世紀において「コンサートライフ」とは、都会の裕福なブルジョワの嗜(たしな)みであった。対するに『角笛』歌曲でマーラーが描いたのは、コンサートに足を踏み入れられようはずもなかった下層階級の人々である。彼らがホールの玄関にやってきたとしても、〈原光〉の主人公よろしく守衛に野良犬のように追い払われたであろう。かつてのドイツやオーストリアは、今では東欧と呼ばれる地域へと向けて、国境も定かでないままに茫漠と広がっていた。そしてマーラーが生きた世紀転換期には、ここから無数の移民が仕事を求めてウィーンやベルリンに押し寄せてきた。ユダヤ人の運搬業者の息子としてボヘミアの寒村に生まれたマーラーにとって、こうした名もなき人々はまさに同胞であった。彼自身もウィーンに出てきた東欧移民のひとりといえなくもなかったのだ。
ぼろを着て愚者と蔑まれ、追い立てられ、野垂(のた)れ死にしていく人々。マーラーはそれを美化しない。その意味でマーラーの音楽はロマン派というより、むしろ社会派のリアリズム小説やルポルタージュに近い。あまりに素朴な〈ラインの伝説〉のレントラーは、言われたことをなんでも信じてしまう少女の痛々しい無垢(むく)の表現。〈トランペットが美しく鳴り響くところ〉で死んだ兵士が吹くラッパは、ボヘミアの片田舎で育ったマーラーの幼少期の日常だっただろう。〈浮世の生活〉の哀れなわななきは、空腹で今にも死にそうになっているこどもを本当に目にした経験がなければとても不可能な生々しさだ。こんな人々にとっての〈天上の生活〉は、飲めや歌えの野卑なブリューゲル的世界である。しかし〈原光〉で天国の門から追われる物乞いの姿は、いつの間にか名もなき聖者に変わっている。マーラーの音楽が最も感動的になるのは、こうした野卑から神聖への変容の瞬間である。
(岡田暁生)
演奏時間:〈ラインの伝説〉:約3分 〈トランペットが美しく鳴り響くところ〉:約7分 〈浮世の生活〉:約3分 〈天上の生活〉:約9分 〈原光〉:約5分
作曲年代:〈ラインの伝説〉:1893年 〈トランペットが美しく鳴り響くところ〉:1898年 〈浮世の生活〉:1892年 〈天上の生活〉:1892年 〈原光〉:1893年
初演:〈ラインの伝説〉〈天上の生活〉:1893年、ハンブルクにてマーラー指揮による。〈原光〉:1895年、ベルリンにてマーラー指揮により、《交響曲第2番「復活」》の第4楽章として。〈トランペットが美しく鳴り響くところ〉〈浮世の生活〉:不詳
シベリウス/交響詩「4つの伝説」 作品22
フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』は、ジャン・シベリウス(1865~1957)にとって尽きぬ霊感の泉だった。その英雄がレンミンカイネンである。第1曲〈レンミンカイネンと乙女たち〉で主人公は、踊る美しい娘たちと戯れる。第2曲〈トゥオネラの白鳥〉は黄泉(よみ)の国トゥオネラの黒い川を泳ぐ白鳥。魔女に命じられてそれを殺そうとした主人公は、殺されてしまう。第3曲〈トゥオネラのレンミンカイネン〉は黄泉の国にいるレンミンカイネン。しかし彼の母はばらばらにされた遺体を蘇(よみがえ)らせる。第4曲〈レンミンカイネンの帰郷〉は馬を駆り故郷へと急ぐ主人公の姿だ。
《4つの伝説》は4つの交響詩を寄せ集めた組曲などではない。これは欲望と死と生をめぐる壮大な交響的叙事詩であり、しかも全曲が驚くべき構成力で統一されている。第1曲〈レンミンカイネンと乙女たち〉はソナタ形式による冒頭楽章。第2曲〈トゥオネラの白鳥〉は緩徐楽章。第3曲〈トゥオネラのレンミンカイネン〉は無窮動的性格の点でスケルツォ楽章であり、しかも闇から光へ向けた転換点になっているという点でも伝統的な第3楽章の役割を果たす。そして喜ばしい第4曲〈レンミンカイネンの帰郷〉が終楽章だ。いわゆる「シベリウス・サウンド」が完全に確立されていることも注目される。あちこちで後年の作品と見紛(みまご)うパッセージが聴きとれる。踊る乙女たちをあらわす第1曲の木管は《交響曲第5番》のフィナーレの白鳥の乱舞を、彼女たちをたぎる眼差しで見つめる主人公の低弦メロディの数々は、《交響曲第2番》の第1楽章を連想させるだろう。第3曲のトレモロによる開始とフィナーレへの高揚は《交響曲第2番》の第3楽章の原型とも聴こえる。
シベリウスには機能和声と明らかに違う独特の調性感があって、それは北欧民謡と深く結びついていたと想像されるのだが、しかし民族的なものをあまりに全面に出すと、いわゆる国際的な成功が難しくなってしまう。民族色をほどよく万国共通のアカデミック様式に合わせなければいけない。小国作曲家のつらいところだ。《フィンランディア》や《交響曲第2番》のシベリウスは、自分本来の音感をカッコに入れ、ヨーロッパ標準音楽言語で話そうとしたともいえる。民族的なものを機能和声に合わせようとしたのだ。だがもっと以前の初期作品である《4つの伝説》では、民族言語の荒々しさがよりストレートに出ている。〈トゥオネラの白鳥〉の宙を漂うような旋律とラディカルとすらいえる和声は好例である。
《4つの伝説》はシベリウスの実人生の危機の中から生まれた。彼はオペラを計画していたのだがうまくいかず、1894年にアルコール依存症になる。この年にバイロイトに行って圧倒され、自分に楽劇は書けないとオペラを断念。このような背景のなか、1893~1896年に構想されたのが《4つの伝説》である。ここでシベリウスは、オペラでも単なる交響詩でもなく、ドラマを内包しつつドラマを超越する峻厳な絶対音楽の探求へ向かうきっかけをつかんだ。交響曲に自分の天命を見出したのだ。その意味で《4つの伝説》はシベリウスの「交響曲第0番」というべき記念碑的作品である。
(岡田暁生)
演奏時間:約51分
作曲年代:1896年。1897年、1900年、1939年に改訂
初演:1896年、ヘルシンキでシベリウス指揮による
ARTISTS出演者
指揮ライアン・バンクロフト
1989年アメリカ・ロサンゼルス生まれ。カリフォルニア芸術大学でトランペットを学んだあと、スコットランド王立音楽院で指揮を学ぶ。2018年、コペンハーゲンで開かれたニコライ・マルコ国際指揮者コンクールで優勝。2020/2021シーズンから英国カーディフを拠点とするBBCウェールズ・ナショナル管弦楽団の首席指揮者、2023/2024シーズンからスウェーデンのロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を務めている。
これまでに、フィルハーモニア管弦楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする英国各地の楽団や、ベルリン・ドイツ交響楽団、ケルンWDR交響楽団などの欧州著名楽団に客演。近年は、ロサンゼルス・フィルハーモニック、ボストン交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、サンフランシスコ交響楽団など、母国の一流楽団からも招かれている。日本では、2022年にサントリーホールで行われた「五嶋みどり デビュー40周年記念」公演の「協奏曲の夕べ」で、新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮している。
N響とは今回が初の共演。マーラーの歌曲とシベリウスの交響詩で、持ち前の生気と活力漲(みなぎ)る音楽を披露する。なかでも、キャリア的に関係の深い北欧の作曲家で、同様にゆかりのある英国の楽団も得意とするシベリウス作品の表現に大きな期待が集まる。
[柴田克彦/音楽評論家]
バリトントマス・ハンプソン*
当代を代表するバリトン歌手のひとり。半世紀近くにわたってオペラ、コンサート(リート)の双方で第一線で活躍、演じたオペラの役柄は80以上におよぶ。豊かな声量とノーブルで温かみのある美声、明瞭な発語を誇り、オペラにおいては役柄を深く掘り下げ、リートにあってはテクストの内容や背景を感じさせつつ伝える卓越した芸術家である。狂気と知性が同居した《ドン・ジョヴァンニ》のタイトルロールは一世を風靡(ふうび)した。近年は後進の指導や文化活動にも情熱を注ぐ。
1955年、アメリカ、インディアナ州エルクハート生まれ。イースタン・ワシントン大学で政治科学を専攻するかたわらフォートライト大学で声楽を学び、1979年にロッテ・レーマン賞を受賞。1980年にはサンフランシスコ歌劇場のオーディションに合格して同歌劇場のメローナ・オペラプログラムに参加、名ソプラノのエリーザベト・シュヴァルツコップフの薫陶を受ける。1984年よりチューリヒ歌劇場の専属歌手となり、1987年、同歌劇場の《ドン・ジョヴァンニ》のタイトルロールで注目を集めた。前年には《フィガロの結婚》の伯爵役でメトロポリタン歌劇場にもデビューしている。オペラと並行してコンサート活動も精力的にこなし、マーラーの歌曲でも高い評価を受ける。《こどもの不思議な角笛》はハンプソンがキャリアの初期から歌い続けている十八番。NHK交響楽団への登場はなんと四半世紀ぶり(1999年以来)である。名歌手の円熟の境地を味わいたい。
[加藤浩子/音楽評論家]
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料金
S席 | A席 | B席 | C席 | D席 | E席 | |
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一般 | 10,000円 | 8,500円 | 6,500円 | 5,400円 | 4,300円 | 2,200円 |
ユースチケット | 5,000円 | 4,000円 | 3,100円 | 2,550円 | 1,500円 | 1,000円 |
※価格は税込です。
※定期会員の方は一般料金の10%割引となります。また、先行発売をご利用いただけます(取り扱いはWEBチケットN響・N響ガイドのみ)。
※車いす席についてはN響ガイドへお問い合わせください。
※N響ガイドでのお申し込みは、公演日の1営業日前までとなります。
※券種により1回券のご用意ができない場合があります。
※当日券販売についてはこちらをご覧ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
※開場前に屋内でお待ちいただくスペースはございません。ご了承ください。
ユースチケット
29歳以下の方へのお得なチケットです。
(要登録)
定期会員券
発売開始日
年間会員券/シーズン会員券(AUTUMN)
2025年7月13日(日)10:00am
[定期会員先行発売日: 2025年7月6日(日)10:00am]