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2025年9月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
公演情報2025年6月 2日
ファビオ・ルイージは、首席指揮者の契約をさらに3年、2028年8月まで延長した。第2000回定期やヨーロッパ公演など、記憶に残る時間を共有した私たちは、創立100年の特別企画を含む、次のステージへと飛翔する。マーラーやブルックナー、R.シュトラウスはもちろん、よりディープな後期ロマン派のレパートリー、合唱つきの大曲にも挑むつもりだ。ご期待頂ければ幸いである。
宿願のフランツ・シュミット作品でルイージ首席指揮者2期目を始動

第2期を迎えて最初の[Aプログラム]では、ルイージの宿願だったフランツ・シュミットの作品を演奏する。
1874年、オーストリア=ハンガリー帝国のプレスブルク(現スロバキアの首都、ブラチスラヴァ)に生まれたシュミットは、首都ウィーンに出てチェロや作曲を学び、やがて宮廷歌劇場オーケストラ(ウィーン・フィルの前身)のチェロ奏者として、15年間にわたり活躍した。芸術監督のマーラーは、ソロ・パートを首席奏者にではなく、いつもシュミットに演奏させたという。
作曲家としても着実にキャリアを築いていったシュミットは、生涯に4つの交響曲を書いている。十二音技法が花開いた20世紀前半にあって、後期ロマン派の様式を保ち続けた彼は、長く時代遅れの作曲家とみなされてきたが、21世紀に入るあたりから、再評価の機運が高まってきたように思われる。ルイージの他に名誉指揮者のパーヴォ・ヤルヴィも、シュミットに強い関心を抱いている。
「何となく難しそう」という先入観さえ取り払えば、伝統的な語法で書かれた彼の交響曲は、内容豊かでボリューム十分だが、決して長すぎず、オーケストラの標準的なレパートリーとして、これから徐々に定着していくのではなかろうか。19世紀に時代遅れと言われたブラームスが、今では欠かせない作曲家になったように。
最高傑作と言われる《交響曲第4番》は、痛切なトランペット・ソロの主題で始まる。作曲者が「レクイエム」と呼んだ通り、これは直前に亡くなった娘への哀歌なのだろう。“シュミットの楽器”であるチェロのモノローグや葬送行進曲、「死の舞踏」を思わせるスケルツォを経て、音楽は破滅的な結末へと導かれる。最後に再び現れるのは、トランペットが奏でるあの主題。だが不思議なことに、弦のアンサンブルを伴って虚空へと消えていくこの主題は、最初とはまるで違ったものに聴こえる。それは慰めなのか、魂の浄化なのか、あるいは諦念なのか。いずれにしても聴き手は“人生の旅路”と重ね合わせて考えないではいられない。
《ピアノ協奏曲第5番「皇帝」》は、ベートーヴェンの創作の絶頂期に作曲された。彼の確立した古典の様式美が、120年後のシュミットに受け継がれたことは、2曲を続けて聴くことで得心できるだろう。ウィーンの伝統のつながりを意識した前後半の組み合わせである。
ソロのイェフィム・ブロンフマンは、重量級の迫力でロシア音楽を弾きこなすイメージが強いが、実はベートーヴェンなどの古典も得意にしている。2024年秋のウィーン・フィル来日公演では、《第3番》の堅固な構成力と、研ぎ澄まされた弱音が印象に残った。今回も、シーズンの幕開けにふさわしい、密度の濃い演奏が聴けるだろう。

Aプログラム(NHKホール)
2025年9月13日(土)6:00pm
2025年9月14日(日)2:00pm
指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:イェフィム・ブロンフマン
ベートーヴェン/ ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
フランツ・シュミット/交響曲 第4番 ハ長調
しかし《スコットランド》や《夏の夜の夢》で示されたように、カラフルで情熱的、歌心にも富んだルイージの音楽作りは、メンデルスゾーンによく合っている。これらの曲で手応えをつかみ、マエストロの気持ちも変わってきたのだと思う。生き生きとした主題で始まる第1楽章から、民俗舞踊サルタレロの狂騒で終わる第4楽章まで、息もつかせずに駆け抜ける、スリリングな展開が期待できそうだ。

ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》を弾くマリア・ドゥエニャスはスペイン出身。まだ20代前半だが、既にメジャーレーベルと契約し、欧米の音楽市場で引く手あまたの存在である。2024年末には、ドイツ・カンマーフィルの来日公演で急な代役を務め、この曲に挑んだ。指揮のパーヴォ・ヤルヴィは、彼女の落ち着きぶりと、みずみずしい解釈を絶賛していた。総じて気品を保ちながら、ここぞという時にテンポを揺らして畳みかける演奏は、不朽の名曲の新しい魅力に気づかせてくれるものだった。ルイージが指揮するN響との共演では、また一味違う面を見せてくれることだろう。

武満徹《3つの映画音楽》は、今年5月のヨーロッパ公演でも披露した。いくつか示した候補曲の中で、ルイージがためらいなくオープニングに選んだ曲である。無調からワルツまで変化に富んだ曲想とともに、弦楽合奏の様々な表現の可能性が味わえる。プラハ、ドレスデン、インスブルックの3か所で演奏したが、どの会場でもたちまち聴衆の心をつかみ、日本が誇るタケミツの普遍的な人気ぶりを再認識させられた。
2025年9月13日(土)6:00pm
2025年9月14日(日)2:00pm
指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:イェフィム・ブロンフマン
ベートーヴェン/ ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
フランツ・シュミット/交響曲 第4番 ハ長調
カラフルで歌心に富んだルイージの音楽作りが生きる《イタリア》
[Bプログラム]のメンデルスゾーン《交響曲第4番「イタリア」》は、イタリア出身のルイージにとって“お手の物”と思われがちだが、実際に指揮した回数は少なく、当初はN響とも、あまり積極的に演奏したい様子ではなかった。彼の大好きなR. シュトラウス《イタリアから》が、情景と心理の描写を巧みに融合させた複雑さを持つのに比べ、いささか絵葉書的に明快過ぎるということかも知れない。しかし《スコットランド》や《夏の夜の夢》で示されたように、カラフルで情熱的、歌心にも富んだルイージの音楽作りは、メンデルスゾーンによく合っている。これらの曲で手応えをつかみ、マエストロの気持ちも変わってきたのだと思う。生き生きとした主題で始まる第1楽章から、民俗舞踊サルタレロの狂騒で終わる第4楽章まで、息もつかせずに駆け抜ける、スリリングな展開が期待できそうだ。

ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》を弾くマリア・ドゥエニャスはスペイン出身。まだ20代前半だが、既にメジャーレーベルと契約し、欧米の音楽市場で引く手あまたの存在である。2024年末には、ドイツ・カンマーフィルの来日公演で急な代役を務め、この曲に挑んだ。指揮のパーヴォ・ヤルヴィは、彼女の落ち着きぶりと、みずみずしい解釈を絶賛していた。総じて気品を保ちながら、ここぞという時にテンポを揺らして畳みかける演奏は、不朽の名曲の新しい魅力に気づかせてくれるものだった。ルイージが指揮するN響との共演では、また一味違う面を見せてくれることだろう。

武満徹《3つの映画音楽》は、今年5月のヨーロッパ公演でも披露した。いくつか示した候補曲の中で、ルイージがためらいなくオープニングに選んだ曲である。無調からワルツまで変化に富んだ曲想とともに、弦楽合奏の様々な表現の可能性が味わえる。プラハ、ドレスデン、インスブルックの3か所で演奏したが、どの会場でもたちまち聴衆の心をつかみ、日本が誇るタケミツの普遍的な人気ぶりを再認識させられた。
Bプログラム(サントリーホール)
2025年9月18日(木)7:00pm
2025年9月19日(金)7:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン : マリア・ドゥエニャス
武満 徹/3つの映画音楽
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
メンデルスゾーン/交響曲 第4番 イ長調 作品90 「イタリア」
シベリウス《交響詩「4つの伝説」》は、最近彼がフィルハーモニア管と演奏した、自信のレパートリーである。フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』に基づくこの曲は、物語の主人公の名を取って、《レンミンカイネン組曲》とも呼ばれるが、好奇心と冒険の意欲に富んだ若者レンミンカイネンさながらに、バンクロフトの生命力みなぎる指揮ぶりが見られるだろう。
最も有名な第2曲〈トゥオネラの白鳥〉がそうであるように、この曲は太古の記憶、あの世への想念と密接に結びついている。生と死は表裏一体、一続きの概念であることを否応なしに突きつけられて、時には戦慄を覚えるほどだ。若きマエストロが、音楽の深淵にどこまで迫れるのか、とても興味深い。

マーラー《こどもの不思議な角笛》は、ドイツの民謡詩集に題材を取っている。一見、素朴な装いを持ちながら、死者との交感や、天上への憧れ、つまり現実を超えた世界に通じている点で、シベリウスの作品とも共通する。
バリトンのトマス・ハンプソンは、かつての桂冠名誉指揮者サヴァリッシュが重用し、90年代後半に何度か登場したので、懐かしく感じる方も多いだろう。70歳の記念に是非もう一度共演したいと、熱烈なオファーを頂いた。なめらかな美声は健在であると聞く。再会を楽しみに待ちたい。

2025年9月18日(木)7:00pm
2025年9月19日(金)7:00pm
指揮 : ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン : マリア・ドゥエニャス
武満 徹/3つの映画音楽
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
メンデルスゾーン/交響曲 第4番 イ長調 作品90 「イタリア」
活躍目覚ましいバンクロフトが初登場。そして名バリトン、ハンプソンとの再会
先々の世代交代を視野に入れて、このところ有望な若手指揮者の招聘に力を入れている。ポペルカやペルトコスキに続き、[Cプログラム]でN響デビューするのは、アメリカ出身のライアン・バンクロフト。2018年のニコライ・マルコ指揮者国際コンクールに優勝後、みるみる頭角を現し、ロイヤル・ストックホルム・フィルの首席指揮者として、また英米を中心とするトップ・オーケストラへの客演で、目覚ましい活躍を続けている。シベリウス《交響詩「4つの伝説」》は、最近彼がフィルハーモニア管と演奏した、自信のレパートリーである。フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』に基づくこの曲は、物語の主人公の名を取って、《レンミンカイネン組曲》とも呼ばれるが、好奇心と冒険の意欲に富んだ若者レンミンカイネンさながらに、バンクロフトの生命力みなぎる指揮ぶりが見られるだろう。
最も有名な第2曲〈トゥオネラの白鳥〉がそうであるように、この曲は太古の記憶、あの世への想念と密接に結びついている。生と死は表裏一体、一続きの概念であることを否応なしに突きつけられて、時には戦慄を覚えるほどだ。若きマエストロが、音楽の深淵にどこまで迫れるのか、とても興味深い。

マーラー《こどもの不思議な角笛》は、ドイツの民謡詩集に題材を取っている。一見、素朴な装いを持ちながら、死者との交感や、天上への憧れ、つまり現実を超えた世界に通じている点で、シベリウスの作品とも共通する。
バリトンのトマス・ハンプソンは、かつての桂冠名誉指揮者サヴァリッシュが重用し、90年代後半に何度か登場したので、懐かしく感じる方も多いだろう。70歳の記念に是非もう一度共演したいと、熱烈なオファーを頂いた。なめらかな美声は健在であると聞く。再会を楽しみに待ちたい。

Cプログラム(NHKホール)
2025年9月26日(金)7:00pm
2025年9月27日(土)2:00pm
指揮 : ライアン・バンクロフト
バリトン : トマス・ハンプソン*
マーラー/こどもの不思議な角笛─「ラインの伝説」* 「トランペットが美しく鳴り響くところ」*「浮世の生活」* 「天上の生活」* 「原光」*
シベリウス/交響詩「4つの伝説」 作品22
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2025年9月26日(金)7:00pm
2025年9月27日(土)2:00pm
指揮 : ライアン・バンクロフト
バリトン : トマス・ハンプソン*
マーラー/こどもの不思議な角笛─「ラインの伝説」* 「トランペットが美しく鳴り響くところ」*「浮世の生活」* 「天上の生活」* 「原光」*
シベリウス/交響詩「4つの伝説」 作品22
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]