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2026年10月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
公演情報2026年7月31日
ロンドン、ルツェルン、札幌を魅了したバーメルトが描くブルックナー《第5番》の構造美
[Aプログラム]には、桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットを迎える予定だった。今年99歳のマエストロは、5月のアメリカツアー中に体調を崩し、ヨーロッパに戻って療養中である。幸いにも回復の途上にあるようだが、長距離の移動は避けるべきという医師の勧めにより、来日が叶わなくなった。2023年のキャンセルに続き、彼の指揮するブルックナー《交響曲第5番》が聴けなくなったのは残念だが、今はただ、少しでも長くお元気でいてほしいと願うのみである。代役を務めるのは、もともとカバーをお願いしていたマティアス・バーメルト。代役と言っても、今年84歳の大ベテランである。オーボエ奏者から指揮者に転向、バーゼル放送交響楽団や、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの音楽監督として活躍した。最近まで札幌交響楽団の首席指揮者だったので、日本でもおなじみの存在と言ってよい。
彼のキャリアにおいて特筆すべきは、90年代に務めたルツェルン音楽祭の監督としての活動だろう。全体を貫くテーマを徹底させたり、コンポーザー・イン・レジデンスの制度を設けたりといった工夫は、その後の音楽祭のあり方に大きな影響を与えることになった。
実はバーメルトは2000年代、N響にもたびたび客演している。ブーレーズやシュトックハウゼンに師事したという経歴からもわかる通り、現代音楽を得意とし、「N響ミュージック・トゥモロー」で、西村朗や湯浅譲二の作品を、的確な棒さばきで描いていた様子が思い出される。
その後しばらくご一緒する機会がなかったが、マエストロ自身、19年ぶりとなる今回の共演をとても楽しみにされているようだ。
古今のあらゆる作品に精通するバーメルトだが、特に古典から後期ロマン派にかけてのドイツ音楽は、最も得意な領域と言ってよい。いちばん好きなブルックナーの交響曲は、かつてN響や札響とも演奏した《第6番》だという。後期の巨大建造物のような作品ではなく、均整の取れた美しさを持つ曲を好むところに、彼の特質が表れているように思われる。
今回の《交響曲第5番》は、ブルックナー自身が「対位法のマスターピース」と呼び、彼にしては珍しいことに、自らの作品に対する自信を示した曲である。
真骨頂と呼べるのは第4楽章で、3種類のフーガを巧みに組み合わせながら、壮大なクライマックスが築かれていく。ブロムシュテットは、この部分を「板の上でバランスを取る3つの卵」に例えていた。複雑なのに、あくまでも自然でシンプルに聴こえるところが、この曲の傑作たる所以なのだという。
とはいえ、聴き手にそう思わせるためには、通り一遍ではない指揮の技量が求められるだろう。現代音楽で培われたバーメルトのタクトによって、入り組んだ声部が解きほぐされ、音楽の構造が浮き彫りになるのではないかと予想する。
ブロムシュテットから届いたメッセージにある通り、たとえ解釈が違っても、「ブルックナーのすばらしい音楽は、私たちにとって、いつも大いなる喜びであり続ける」。
「私の心は常に皆さんと共にある」という、ブロムシュテットの言葉を時折り思い出しながら、バーメルトにしかできない表現の世界を味わい尽くしたい。

指揮 : マティアス・バーメルト※
ブルックナー/交響曲 第5番 変ロ長調
※当初出演予定のヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)から変更いたします。
原体験を越えて今に届く、エッシェンバッハのベートーヴェン《第5番「運命」》《第8番》
[Cプログラム]は、2年半ぶりの登場となるクリストフ・エッシェンバッハ。今年86歳、現役最高齢の世代に属するマエストロである。1951年、当時11歳のエッシェンバッハ少年はドイツ北部の街キールで、フルトヴェングラーが指揮するベルリン・フィルの演奏を聴いた。プログラムはオール・ベートーヴェンで、その中の1曲が《交響曲第5番「運命」》だった。この時の体験はエッシェンバッハにとって、まさに天の啓示だったという。
「どうしてたった1人の人間が、大勢の音楽家たちを、まるで天使や悪魔のように変えていくことができるのか。どうしてこれほど多くの聴衆に、ありとあらゆる感情を伝えることができるのか。」
早くからピアノの神童として名を馳せていた彼が、指揮への関心を深めたのは、その答えを知りたいと思ったからだった。
繊細なエッシェンバッハと、テンポを自由に伸縮させながら音楽を盛り上げていくフルトヴェングラーの芸風とは、直接的に結びつかない感じもするが、伝説的な巨匠に触れた少年の胸のときめきが、75年の時を隔てて私たちに届けられることに、不思議な感慨を覚えずにはいられない。
その後、エッシェンバッハは、2人の師匠の下で修業を積む。ヘルベルト・フォン・カラヤンとジョージ・セルである。カラヤンから色彩感覚を、セルから明晰さを学んだという。これらの要素は、どちらも指揮者としてのエッシェンバッハを特徴づけているが、彼にとっての音楽は、それ以前にもっと根源的なものだ。
両親を早くに亡くし、難民キャンプで生死をさまよう体験をした結果、一時は失語症に陥った彼が、自分を取り戻していくのは、養母の奏でるピアノによってであった。
やがて自らも弾き始めることで、閉ざされていた心を解放していく。何かを表現したいという本能的な欲求が、エッシェンバッハを突き動かしたのだった。
心の奥底から湧き上がる何かに、形を与えようとしている。今でもエッシェンバッハの指揮を見ていて、そんな風に感じることがある。リハーサルでは、最小限のジェスチャーと、ささやくようなわずかの言葉だけで、目指すべき方向が示される。大切な宝物を愛でるように、メロディーを歌わせ、時には自分でも歌ってみせる。個々の奏者のインスピレーションを尊重し、そちらに寄り添っていくことも少なくない。
一時、体力の衰えも心配されたが、6月にはソフィア・フィルハーモニー管弦楽団の公演を成功に導き、9月にはパリ管弦楽団との共演も予定されている。
ベートーヴェンのようにオーケストラが熟知した音楽では、彼の最良のエッセンスが引き出されるのではなかろうか。
本プログラムは、創立100年を記念したベートーヴェン・シリーズの第2弾である。マエストロ・エッシェンバッハには、指揮者人生を歩むきっかけとなった《運命》の他に、軽やかで機知に富んだ《交響曲第8番》をお願いした。《運命》の5年後に書かれた《第8番》では、第1楽章の展開部に、《運命》の有名なモチーフと同じ型のリズムが繰り返し現れる。繋がりを意識して聴くのも一興かもしれない。
オープニングはドラマティックな《「エグモント」序曲》。こちらもコンサートでたびたび演奏される、ベートーヴェンの定番の1曲である。

Cプログラム(NHKホール)
2026年10月23日(金)7:00pm
2026年10月24日(土)2:00pm
指揮 : クリストフ・エッシェンバッハ
― N響100年特別企画 ベートーヴェン交響曲全曲演奏2 ―
ベートーヴェン/「エグモント」序曲
ベートーヴェン/交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
ベートーヴェン/交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2026年10月23日(金)7:00pm
2026年10月24日(土)2:00pm
指揮 : クリストフ・エッシェンバッハ
― N響100年特別企画 ベートーヴェン交響曲全曲演奏2 ―
ベートーヴェン/「エグモント」序曲
ベートーヴェン/交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
ベートーヴェン/交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
