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2026年11月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から
公演情報2026年7月31日
今年1月に続き、トゥガン・ソヒエフが3つのプログラムを指揮する。2027年の元日には、一大注目イベントであるウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートの指揮を任され、名実ともに世界の音楽界をリードする存在として認められた。直前のN響定期には、国内外のファンから熱い視線が注がれるだろう。共演する2人のソリストは、いずれもチャイコフスキー・コンクールの優勝者である。
ショスタコーヴィチ《交響曲第8番》――戦時の作品にソヒエフが見出す根源的な希望
[Aプログラム]のショスタコーヴィチ《交響曲第8番》は、2025年1月に演奏した《第7番》と同じく、独ソ戦争の最中に作曲された“戦争交響曲”の1つである。サンクトペテルブルク音楽院で学んだソヒエフは、半世紀経っても消えることのない、苛烈なレニングラード攻防戦の記憶を、街の空気として感じながら、学生時代を過ごしたという。その経験を踏まえるなら、ショスタコーヴィチの音楽に含まれる暴力的な激しさを強調してもおかしくはないはずだが、ソヒエフの《第7番》は、迫りくる軍靴を連想させる第1楽章など、どちらかと言えば淡々と、時には諧謔味を交えた足取りで進んでいった。
逆にそれが底知れぬ恐怖を呼び起こすという面もあったかもしれないが、本人がインタビューで強調していた通り、いちばんのポイントは「絶望の先にある根源的な希望」を描くことにあったと思われる。聖歌風のメロディをテヌートでたっぷり歌わせるところなどに、その意図が十分感じ取れた。
《第8番》でも、方向性は大きく変わらないはずだ。悲痛さや激しさを前面に出すだけでなく、パッサカリアの第4楽章やパストラーレ風の終楽章など、デリケートで息の長いフレーズをいかに聴かせるか。そのあたりにソヒエフらしさがより明瞭に表れるような気がする。
ソヒエフは、昨今の国際情勢の中、政治的な見解を口にすることに慎重な姿勢を取り続けている。しかしながら、「あらゆる芸術は蛮行に屈しない」というのが、彼の一貫した信念である。人類への愛を伝えることが、1人の音楽家としての大切な使命なのだという。
前半はプロコフィエフの《ヴァイオリン協奏曲第1番》。革命前に書かれたせいもあるのか、全体のトーンはあくまで優美だが、モダニズム的要素とロシアの情感を合わせ持つ点で、後半のショスタコーヴィチとの共通項も大いに認められよう。
神尾真由子は、チャイコフスキー・コンクールで優勝した翌年の2008年にも、ソヒエフ指揮のN響と共演し、プロコフィエフの《第2番》を弾いている。文化的背景も含めた、ロシア音楽への深い理解には定評がある。

指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ヴァイオリン : 神尾真由子
プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲 第1番ニ長調 作品19
ショスタコーヴィチ/交響曲 第8番 ハ短調 作品65
100年の伝統とソヒエフの着想が響き合う――ベートーヴェン《第2番》《第6番「田園」》
ショスタコーヴィチの《第8番》は5つの楽章で構成されているが、そのルーツを遡れば、[Cプログラム]のベートーヴェン《交響曲第6番「田園」》に行き着くのかもしれない。正反対の性格を持つように見える両曲だが、嵐のあとの平穏というドラマ展開は、とてもよく似ている。ベートーヴェンは単なる風景描写ではなく、自然によってもたらされる人間の感情の移り変わりを描くことに主眼を置いたようだが、変化の諸相を見せるために、5楽章分のストーリーを必要としたということか。同じ5楽章形式の《幻想交響曲》を書いたベルリオーズも、《田園》を熱心に研究したという。また《田園》の後半の3つの楽章は続けて演奏されるが、これは交響詩というスタイルの原型になったとも言われる。
このように後続の時代に与えた影響も大きいが、言うまでもなく《田園》はそれ自体、非常にポピュラーな曲であり、N響には他のベートーヴェンの交響曲同様、100年の経験の蓄積がある。楽譜に書かれていないが、効果的に聴かせるための演奏習慣も多々あるだろう。
ソヒエフは、それらを取り入れることに、大変前向きである。自分のアイデアに、思いがけない視点が加わることで、音楽に広がりが生まれる。それが歴史あるオーケストラと共演する醍醐味であり、名曲を繰り返し演奏する喜びなのだという。
ベートーヴェンは《英雄》によって、交響曲の歴史を塗り替えたと言われる。一方で、前の年に書かれた《交響曲第2番》は、既存の様式に留まる曲と見られがちだが、果たしてそうだろうか。第1楽章の導入部や第4楽章のコーダは、大胆なまでに規模が拡張されているし、全体の統一感をより強く出そうという意志も明白だ。《英雄》は決して突然変異で生まれたわけではないのだ。
最近では、この曲の前衛性をアピールする演奏も増えてきたように感じる。おそらくソヒエフも、ありきたりではない何かを提示するだろう。ベートーヴェンの作品の中で、屈指の美しさと言われる第2楽章のメロディの歌わせ方や、対旋律のバランスのとり方にも興味を引かれる。
《コリオラン序曲》は、古代ローマの軍人を主役にした戯曲に、ベートーヴェンが創作意欲を刺激されて作曲した。1807年、《田園》に着手したのと同じ年である。
主人公コリオラヌスはローマから敵方に寝返りながらも、家族への愛によって祖国への進軍を思いとどまる。物語を暗示するように、緊張感のある音楽が続く。ドラマティックな性格は、同じハ短調の《運命》に似ていると評されることも多い。

Cプログラム(NHKホール)
2026年11月13日(金)7:00pm
2026年11月14日(土)2:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
― N響100年特別企画 ベートーヴェン交響曲全曲演奏3 ―
ベートーヴェン/序曲「コリオラン」
ベートーヴェン/交響曲 第2番 ニ長調 作品36
ベートーヴェン/交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」
N響では、これまでにもシモノフやスヴェトラーノフ、フェドセーエフといった、本場ロシアの名指揮者たちと、個性豊かな演奏をお届けしてきた。中でも思い出されるのは2018年のフェドセーエフだ。想定時間を大幅に上回る超スローテンポで、永遠に続くかと思われる至福の時にいざなってくれた。
かつてボリショイ劇場の音楽監督を務めたソヒエフにとっても、《くるみ割り人形》はすっかり手の内に入った曲であろう。ファンタジーの世界を生き生きと浮かび上がらせる手腕は、今年1月の《火の鳥》でも見事に証明されている。
今回、ソヒエフが選んだ抜粋版は、心浮き立たせる小序曲に続いて、第2幕をほぼ丸ごとなぞるシンプルな構成。魔法の城に着いたクララと王子の前で、お菓子の国の精たちが、華やかな踊りを繰り広げる。
前半のラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番》も、ロシアを代表する名曲である。アレクサンドル・カントロフは今、欧米でもっとも注目される若手ソリストの1人で、去年秋のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団・来日ツアーにも出演し、ブラームス《ピアノ協奏曲第1番》を披露した。
名人リストの生まれ変わりとも評されるテクニックを持ちながら、理知的・抑制的な語り口で、ロマンティシズム一辺倒にとどまらない解釈を聴かせてくれるだろう。

2026年11月13日(金)7:00pm
2026年11月14日(土)2:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
― N響100年特別企画 ベートーヴェン交響曲全曲演奏3 ―
ベートーヴェン/序曲「コリオラン」
ベートーヴェン/交響曲 第2番 ニ長調 作品36
ベートーヴェン/交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」
クリスマス・シーズン到来!ソヒエフが鮮やかに紡ぐ《くるみ割り人形》の夢の世界
11月後半に入ると、まもなくクリスマス・シーズン。ヨーロッパでは、各地の劇場で《くるみ割り人形》が盛んに上演される。[Bプログラム]は、チャイコフスキーが書いた不朽のバレエ音楽である。N響では、これまでにもシモノフやスヴェトラーノフ、フェドセーエフといった、本場ロシアの名指揮者たちと、個性豊かな演奏をお届けしてきた。中でも思い出されるのは2018年のフェドセーエフだ。想定時間を大幅に上回る超スローテンポで、永遠に続くかと思われる至福の時にいざなってくれた。
かつてボリショイ劇場の音楽監督を務めたソヒエフにとっても、《くるみ割り人形》はすっかり手の内に入った曲であろう。ファンタジーの世界を生き生きと浮かび上がらせる手腕は、今年1月の《火の鳥》でも見事に証明されている。
今回、ソヒエフが選んだ抜粋版は、心浮き立たせる小序曲に続いて、第2幕をほぼ丸ごとなぞるシンプルな構成。魔法の城に着いたクララと王子の前で、お菓子の国の精たちが、華やかな踊りを繰り広げる。
前半のラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番》も、ロシアを代表する名曲である。アレクサンドル・カントロフは今、欧米でもっとも注目される若手ソリストの1人で、去年秋のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団・来日ツアーにも出演し、ブラームス《ピアノ協奏曲第1番》を披露した。
名人リストの生まれ変わりとも評されるテクニックを持ちながら、理知的・抑制的な語り口で、ロマンティシズム一辺倒にとどまらない解釈を聴かせてくれるだろう。

Bプログラム(サントリーホール)
2026年11月19日(木)7:00pm
2026年11月20日(金)7:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ピアノ : アレクサンドル・カントロフ
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」作品71(ソヒエフ・セレクション)
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
2026年11月19日(木)7:00pm
2026年11月20日(金)7:00pm
指揮 : トゥガン・ソヒエフ
ピアノ : アレクサンドル・カントロフ
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
チャイコフスキー/バレエ音楽「くるみ割り人形」作品71(ソヒエフ・セレクション)
[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]
