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2026年4月定期公演のプログラムについて ~公演企画担当者から

公演情報2026年1月29日

ブルックナーとマーラーの交響曲は、今日のオーケストラにとって欠かせないレパートリーである。多くの指揮者から振りたいとリクエストが入るのは、それだけ挑戦し甲斐があるということだろう。最近では、チケットの売れ行きがいつも以上によく、会場には若いファンの姿も目につく。長いとか難しいと言って敬遠されたのは、遠い昔の話になった。
だからこそ、ブルックナーとマーラーをどのタイミングで入れるかが、年間プログラムを組み立てる際の勘所になると言っても過言ではない。
首席指揮者ファビオ・ルイージの4シーズン目も終わりに近づいた。オーケストラとの関係がますます充実している今、満を持してお届けしたいのが、今回の2つの交響曲である。

ブルックナー《第9番》が導く超越的な世界



[Aプログラム]ブルックナー《交響曲第9番》。着手から足かけ9年、この曲に取り組んだブルックナーだが、体調の悪化などもあり、ついに終楽章を仕上げることができなかった。だがたとえ未完でも、この曲は間違いなく“究極のオーケストラ音楽”と呼ぶべきものだろう。聴き手は、滔々たる音の流れに包まれながら、超越的な世界へと導かれる。敬虔なカトリック信仰を持つ作曲家は、生涯をかけて、ついにこのような高みに到達した。
指揮者としては、ダイナミクスや和声の変化に細心の注意を払いながら、巨大な構造物を築き上げていくのが定石のやり方であろう。ルイージはおそらくそれに加えて、《第8番》の解釈で示したように、カトリックの典礼で大切な役目を果たしてきた“歌”の要素をこの曲に見出し、美しく紡いでいくことにも、同じように神経を張りめぐらせるのではないだろうか。
第3楽章の金管コラールをはじめとする曲の要所要所で、ルイージが一貫してこだわってきた美しいピアニッシモや、自然なフレーズの流れを感じ取ることができるはずだ。

ハイドン《チェロ協奏曲第1番》は、2025年のヨーロッパ公演でも演奏した。ソリストは、その時と同じヤン・フォーグラー。彼はわずか20歳でドレスデン国立歌劇場管弦楽団の首席奏者に就任、2009年から、地元の由緒あるドレスデン音楽祭で、芸術監督のポストを務めている。この音楽祭にN響が出演できたのは、ルイージの友人であるフォーグラーの、熱心な働きかけによるものである。






指揮 : ファビオ・ルイージ
チェロ : ヤン・フォーグラー

ハイドン/チェロ協奏曲 第1番 ハ長調 Hob. VIIb–1
ブルックナー/交響曲 第9番 ニ短調


名作映画ファンになじみ深いマーラーとモーツァルトの2作品

永遠を感じさせるブルックナーに対して、[Bプログラム]マーラー《交響曲第5番》には、揺れ動く人間のストレートな感情がこもっている。2つの交響曲は対極のようでありながら、どちらも根源的な問いに迫る音楽だからこそ、私たちの心をここまで強くとらえるのだろう。
《第5番》の第1楽章は葬送行進曲で始まり、死への恐れに向き合うかのようだ。続く第2楽章では、絶望の中に一筋の光明が差す。混沌の中にユーモアを漂わせる第3楽章、そして最も有名な、安らぎに満ちた第4楽章〈アダージェット〉。第5楽章が描くのは、苦悩を乗り越えた末の喜びか。このように、一聴してわかりやすい構成を持つところに、この曲の人気の秘密があるのかも知れない。
だがルイージは、聴き手が作品から連想するこのようなストーリー性について、多くの言葉を費やすことは好まない。「音楽によって、演奏によって表現されるものが全て」というのが、彼の信条なのだ。



前半は、モーツァルト《クラリネット協奏曲》
N響首席奏者の松本健司がこの曲を初めて耳にしたのは、クラリネットに興味を持った10歳の頃だという。LPで繰り返し聴いて小学生時代を過ごし、その後もコンクールやオーディションの課題曲として、人生の節目節目で向き合ってきた。思い出の詰まった名曲は、ごまかしの効かない難曲でもある。作曲者のモーツァルトに対してはもちろん、周囲への感謝の気持ちを込めて演奏したいと語る。
この曲の第2楽章は、映画『愛と哀しみの果て』で使われた。マーラー《第5番》の〈アダージェット〉は言うまでもなく、ヴィスコンティの『ベニスに死す』の主要モチーフとして使われている。そのような意味で、名作映画のファンにはなじみ深い2曲である。

Bプログラム(サントリーホール)
2026年4月16日(木)7:00pm
2026年4月17日(金)7:00pm


指揮 : ファビオ・ルイージ
クラリネット : 松本健司(N響首席クラリネット奏者)

モーツァルト/クラリネット協奏曲 イ長調 K. 622
マーラー/交響曲 第5番 嬰ハ短調


シンガポール公演連動プログラム―反田恭平のプロコフィエフ《ピアノ協奏曲第3番》



2026年4月、日本とシンガポールの外交関係樹立60周年を記念して、N響は24年ぶりにシンガポールで公演を行う。直前の[Cプログラム]は、シンガポールのプログラムと連動した内容になっている。
最初は、外山雄三《管弦楽のためのディヴェルティメント》。秋田民謡《ドンパン節》に始まり、《木曽節》《ひえつき節》《会津磐梯山》など、日本各地の民謡がメドレー形式で現れる。外山とともに長くN響正指揮者を務めた岩城宏之が、海外向けのレパートリーとして、外山に作曲を依頼した。
N響は1963年にこの曲を日本初演し、ちょうど60年前、1966年の南米ツアーでも、コンサートの冒頭で演奏している。シンガポールとの外交関係樹立は、まさにこの年だった。海外公演にふさわしい華やかなショーピースと言えよう。
同時にこれは、N響創立100年に寄せて、現在の正指揮者・下野竜也が、大先輩である外山雄三、岩城宏之に捧げるオマージュの意味合いも持っている。

続いては、プロコフィエフ《ピアノ協奏曲第3番》。2021年のショパン国際ピアノコンクールで第2位に輝いた反田恭平は、日本国内のみならず、欧米でも高い人気を誇っている。今後はアジアでの活動にも力を入れたいと語る反田が、シンガポール・デビューに先立って東京で行う、注目の演奏である。
第3楽章の主題は、プロコフィエフが日本滞在中に聴いた長唄《越後獅子》にヒントを得たと言われるので、前後の日本人作品の間に、違和感なく収まるのではないかと思う。



伊福部昭《交響譚詩》は1943年の作曲。交戦国の音楽が禁じられた戦時中、邦人作品は、新交響楽団(当時N響)の専任指揮者、ローゼンストックや尾高尚忠によってたびたび取り上げられた。伊福部昭もそのうちの一人で、この曲は1944年に、山田和男の指揮で演奏されている。その後、1982年に外山雄三が指揮して以来、N響では3度目となる。
《ゴジラ》の作曲家らしい野性的なリズムと、五音音階を主体とした抒情的なメロディが交錯する、密度の濃い音楽である。

最後は、《歌劇「ピーターグライムズ」から「4つの海の間奏曲」》。作曲者のブリテンは、2026年が没後50年にあたる。オペラの舞台となったのはイギリス東海岸の港町。静かな夜明けから吹きすさぶ嵐まで、変化に富んだ海の表情が描かれる。
地理的にはだいぶ離れているが、日本とシンガポールを結ぶ“海”を意識しての選曲である。コロナ禍の5年前、同じ作曲家の《シンフォニア・ダ・レクイエム》を熱演した下野のタクトに期待が集まる。

Cプログラム(NHKホール)
2026年4月24日(金)7:00pm
2026年4月25日(土)2:00pm


指揮 : 下野竜也
ピアノ : 反田恭平

― N響100年特別企画「邦人作曲家シリーズ」 ―
外山雄三/管弦楽のためのディヴェルティメント
プロコフィエフ/ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 作品26
伊福部 昭/交響譚詩
ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」―「4つの海の間奏曲」作品33a



[西川彰一/NHK交響楽団 芸術主幹]

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