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NHK交響楽団 第70回「尾高賞」について

お知らせ2023年2月16日

NHK交響楽団「尾高賞」は、故・尾高尚忠氏の生前の音楽界に遺した功績を讃えて1952年(昭和27年)に制定され、本年で第70回を迎えることになりました。今回は、国内57の音楽団体、音楽大学等に推薦を依頼し、11団体から23曲の推薦をいただいた後、選考委員による慎重審議の結果、下記のとおり授賞作品が決定いたしました。

なお、第70回「尾高賞」の贈呈式と受賞作品の演奏は、6月27日(火)東京オペラシティ コンサートホールで開催される「Music Tomorrow 2023」(指揮:ライアン・ウィグルスワース)で行われます。


第70回「尾高賞」授賞作品


授賞作品
尺八協奏曲(2021)(国立ブルターニュ管弦楽団委嘱作品) [26分]
作曲者
藤倉 大
作曲年
2021年
世界初演
2022年4月28日 クーヴァン・デ・ジャコバン(フランス・レンヌ)
レミ・デュリュ(指揮)
藤原道山(尺八)
国立ブルターニュ管弦楽団(管弦楽)

授賞作品
ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲(2021)[18分]
作曲者
一柳 慧
作曲年
2021年
世界初演
2022年10月25日 サントリーホール
シルヴァン・カンブルラン(指揮)
成田達輝(ヴァイオリン)
本條秀慈郎(三味線)
読売日本交響楽団(管弦楽)





『第70回尾高賞 受賞によせて』
藤倉 大

藤倉 大

この度の受賞を大変嬉しく思います。今回の受賞は以前にも増して色々な意味で特別です。
この《尺八協奏曲》は、あらゆる場面に長い道のりがありました。世界初演も本番1週間前まで危ぶまれていました。
尺八奏者、藤原道山さんの依頼で書いた独奏尺八のための《ころころ》。いつかこのソロ作品を尺八協奏曲に発展させられたら良いね、とヨーロッパの音楽祭と話をしてから、すでに4年ほど経っていました。
ある日SNS上で、ブリュターニュのオーケストラの事務局の方が「尺八協奏曲書かない?」とメッセージをくれました。
本当に?
「ブリュターニュの海洋写真家ニコラ・フロックの写真をどう思う?ダイならインスピレーション受けそうだけど。」と紹介され、ニコラと仲良くなりました。ニコラは日本の下田にある拠点でも研究をしている方で、作曲前に彼と一緒に海に潜る予定でした。
そんな中、感染症の世界的パンデミックが始まってしまった。僕の住む英国は、長きに渡ってロックダウンが続きました。僕は家族と一緒に住む狭いアパートで、黙々と作曲を続けていました。パンデミック中、唯一の救いが作曲という行為であったんだな、と思います。
ニコラと海に潜ることもできなくなりましたが、作品は予定通り完成しました。2022年4月、僕の誕生日の次の日の世界初演。そんな中、ヨーロッパでは戦争が始まってしまった。ソリストの藤原道山さんは、日本から世界初演の地フランスのブリュターニュへ行く事になりますが、通常の経路では飛行機が飛ばなくなっていました。道山さんは、3つの飛行機とTGVを乗り継ぎ、なんとか海辺の西フランスまで駆けつけてくださいました。
僕にとっての最大の賞、というのは、自分の作品が演奏されることです。こうして尾高賞をいただいたことによって、NHK交響楽団にこの作品を演奏していただくということが、最大の喜びです。本当にありがとうございました。


『一柳慧さんの尾高賞受賞作に寄せて』
NHK交響楽団 芸術主幹
西川彰一

一柳 慧

第70回尾高賞を受賞した一柳慧さんの《ヴァイオリンと三味線のための二重協奏曲》は、藤倉大さんの作品とともに、選考メンバーの全員から押し並べて高い評価を獲得しました。ヴァイオリンと三味線というユニークなソロ楽器の組み合わせ、平明なスタイルで書かれながら、不確定性やミニマル・ミュージックの要素を取り入れた、いかにも一柳さんらしい作風であること、終結部に見られる和洋楽器の一体化と高揚、そして悠久の世界に溶け込んでいくかのような三味線の余韻・・・。お元気であれば一柳さんは、これからも様々な実験を続けられたことでしょう。「集大成」という言葉でまとめてしまうのは安易すぎるかも知れませんが、最後の完成作となったこの曲に、先生の足跡が色濃く凝縮されていることは疑い得ません。まさに「演奏者および聴衆の共感が期待できる独創的内容」を対象とする尾高賞にふさわしい内容だと思います。
思い起こせば一柳さんは、電子音楽スタジオでの作品制作や「現代の音楽」をはじめとするFM番組への出演を通じて、NHKとは半世紀以上にわたる付き合いがありました。放送センターのすぐ近くにお住まいだったので、好きな時に楽譜や資料の受け渡しができる気安さもあり、番組に関わったスタッフは皆、ひとかたならぬお世話になったものです。
N響としても、一柳さんの作品に尾高賞を差し上げるのはこれで6回目。三善晃さん、西村朗さんと並んで、最多の受賞作数となりました。《空間の記憶》《冬の肖像》と題された2つのピアノ協奏曲や、《ヴァイオリン協奏曲「循環する風景」》、そして代表作である《交響曲「ベルリン連詩」》など、特に80年代に書かれたオーケストラ作品の充実ぶりには特筆すべきものがあります。繰り返し演奏するに足る、そして日本から世界に発信できる、優れたレパートリーを残して下さったことに深い感謝を捧げるとともに、一柳さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

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