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- 第1995回 定期公演 Cプログラム
※休憩のない、60分~80分程度の公演となります。
※やむを得ない理由で出演者や曲目等が変更となる場合や、公演が中止となる場合がございます。公演中止の場合をのぞき、チケット代金の払い戻しはいたしません。
ABOUT THIS CONCERT特徴
「ふるさとは遠きにありて思ふもの」。室生犀星(さいせい)のうたうように、故郷は、いつもどこか想像力によって補われ、色付けられている。本日取り上げる3人の作曲家はいずれもハンガリーの出身。どの曲も彼らの故郷にかかわるものだが、それらがたんなる異国情緒をこえて、「なつかしさ」の印象を与えるとすれば、それは作り手の「色付け」が、ある種の普遍性に到達していることの証(あかし)だろう。今日はどの曲の、どの部分に「なつかしさ」をおぼえるのか。さまざまな場所に思いをはせつつ、楽しみたいプログラムである。
(太田峰夫)
PROGRAM曲目
バルトーク/ハンガリーの風景
1930年代初頭、世界大恐慌はヨーロッパに波及し、人々の生活を圧迫しつつあった。民謡研究の著書を出版する計画が頓挫するなど、ベーラ・バルトーク(1881〜1945)もさまざまなかたちで、この不況の影響を受けることとなる。この時期の彼がピアノのために作曲した旧作をつぎつぎに管弦楽用に編曲していることの背景にも、おそらくこうした経済的な事情があったと考えられる。思うように民謡研究や創作活動を進めていくためにも、少しでも多くの金銭的余裕が、彼には必要だったのだ。
その点、《ハンガリーの風景》は「時宜を得た仕事」だった。収録された曲のなかにはピアニストとしてバルトークがたびたび演奏してきたものが多く、原曲の人気からも、最初から彼はある程度の成功を見込めただろう。もちろん、原曲を移調したり、新しい声部を付け足したりするなど、そこにはさまざまな工夫も見られる。民謡編曲とオリジナル曲とを区別せず、さまざまな曲集から素材を集め、ひとつながりの組曲にしたことも大きい。語法には多様性があり、楽器の扱いも職人芸的。結果的にこの作品は、親しみやすい、バルトークの音楽の入門編とも言ってよい内容に仕上がっている。
第1曲〈セーケイ人のところでの夕べ〉 原曲は《10のやさしい小品》(1908年)第5曲。レント部分(A)とアレグレット部分(B)の交代からなる(ABABA)。2つの主題は自作のものだが、いずれもハンガリー民謡の様式をふまえている。第2曲〈熊踊り〉 原曲は《10のやさしい小品》第10曲。熊使いの見せ物から着想を得た音楽である。第3曲〈旋律〉 原曲は《4つの挽歌》(1909〜1910年頃)第2曲。主題は自作のもの。終盤ではフランス近代音楽を連想させる、色彩的な響きを聴くことができる。第4曲〈ほろよい気分〉 原曲は《3つのブルレスク》(1908〜1911年頃)第2曲。ユーモラスかつグロテスクな響きはバレエ《木彫りの王子》を思い起こさせる。第5曲〈豚飼いの踊り〉 原曲は《子供のために》(1908〜1910年)第1部第40曲(初版第2巻第42曲)。彼自身が実際に採集した笛の旋律をもとにしている。
(太田峰夫)
演奏時間:約11分
作曲年代:1931年8月
初演:[第1〜3曲、および第5曲]1932年1月25日、ブダペスト、マッシモ・フレッチャ指揮、コンサート管弦楽団 [全曲]1934年11月26日、ブダペスト、ハインリヒ・ラーバー指揮、ブダペスト・フィルハーモニー協会管弦楽団
リスト/ハンガリー幻想曲*
フランツ・リスト(1811〜1886)は少年時代の1822年、ウィーンで音楽を学ぶためにハンガリーを離れた。ヴィルトゥオーソ(名人)として名をなした彼が故郷に凱旋(がいせん)したのは1839年12月のこと。このとき彼は2か月にわたる大演奏旅行を行い、ペスト(現在のブダペスト)やジェールなど、ハンガリーの諸都市で演奏した。当時の演奏会で即興演奏が好まれたことはよく知られる通り。旋律の素材としては、旅行先の民謡がよく使われたというが、リストもこの演奏旅行をきっかけに、自国の旋律を演奏会でよく取り上げるようになったようだ。「ジプシー音楽」を研究し始めた彼は、その後も折にふれてロマの楽師達の演奏を聴き、その演奏スタイルを注意深く学んだ。研究の成果はやがてピアノ曲集《ハンガリー狂詩曲集》(S244、1851~1886年)において実を結ぶこととなるだろう。
ピアノ独奏と管弦楽のための《ハンガリー幻想曲》はピアノ曲《ハンガリー狂詩曲第14番》(S244/14、1853年)の姉妹作である。両者はともにピアノ曲《ハンガリーの歌、ハンガリー狂詩曲第21番》(S242/21、1839~1847年)を下敷きにしているが、ジャンルの違いを反映して、互いに異なる方向性を示している。端的に言えば、ピアノの長いカデンツァ(即興的な独奏)があちこちに挿入される《ハンガリー幻想曲》の方が構成が込み入っており、その分だけ、より華やかで祝祭的な音楽になっている。
曲は大きく緩・急の2部からなる。冒頭は当時の流行歌《クロヅルは高く翔(と)ぶ》からの自由な引用。葬送行進曲風にはじまり、ピアノが華麗な独奏を披露したのち、同じ主題が本来の長調であらためて提示される。ピアノの独奏をはさみつつモデラートで第2主題、アレグレットで第3主題が続き、やがて冒頭主題が戻ってくる。独奏ピアノの長いカデンツァをはさんで後半はヴィヴァーチェ・アッサイの舞曲風の音楽。管弦楽とピアノでもう一度《クロヅルは高く翔ぶ》の主題を歌い上げたあと、曲は華やかに閉じられる。
(太田峰夫)
演奏時間:約15分
作曲年代:1849年(初稿)、1853年(第2稿)
初演:1853年6月1日、ペスト(現在のブダペスト)の国民劇場、ハンス・フォン・ビューローのピアノ独奏、フェレンツ・エルケル指揮、国民劇場管弦楽団
コダーイ/組曲「ハーリ・ヤーノシュ」
「民族の独自性を消し去った上での相互理解か、保った上での相互理解か。《ハーリ組曲》はどこでも理解してもらえる、純粋にハンガリー的なのにもかかわらず」。
ゾルターン・コダーイ(1882~1967)の晩年の言葉だ。民族の文化アイデンティティを守り通すことで、はじめて国際的に通用する普遍性を獲得できる。まさにそのような確信があったからこそ、彼は一生をかけて音楽のハンガリー性を追い求めたのだろう。
そんな彼にとっての会心作が《組曲「ハーリ・ヤーノシュ」》である。原曲の歌芝居(1926年初演)は、主人公ハーリがナポレオン率いるフランス軍を打ち破り、オーストリアのマリー・ルイーズ王女に求愛されるものの、最後は恋人エルジェとともにハンガリーの故郷に帰る……という内容。いわば、民衆のさまざまな願望をよせ集めた「ありえない」夢物語、法螺(ほら)話である。音楽の素材は古い様式の民謡から、ロマの楽師の奏でる「ヴェルブンコシュ」まで、ハンガリーの民衆音楽のさまざまな種類から取られている。伝統的な打弦楽器ツィンバロンも効果的に用いられており、ハンガリー育ちであれば、階層を問わず、どこかになじみのある旋律やリズムを見つけられる内容だ。その一方でラヴェルやバルトークを連想させるモダンな和声も盛り込まれているのだから、原曲が初演後、たちまち高い評価を得たのもうなずけよう。組曲は原曲の聴きどころをコンパクトにまとめた内容で、ハンガリー国外ではむしろこちらのバージョンが広く演奏される。
第1曲〈前奏曲:おとぎ話は始まる〉は歌芝居冒頭の音楽。短い序奏の後、民謡風の主題がさまざまな調で、多声的に絡みあいながら展開していく。第2曲〈ウィーンの音楽時計〉は華やかな帝都の情景を描いた音楽。第3曲〈歌〉はハーリとエルジェが歌う民謡《ティサ川の向こう、ドナウ川を越えて》をもとにしている。ツィンバロンの響きとともに、大平原の暮らしが描かれる。第4曲〈戦争とナポレオンの敗北〉はハーリの活躍を描いたもの。冒頭にトロンボーンが奏でる勇壮な主題が後半では、アルト・サクソフォーンによってグロテスクに、すすり泣くように変奏される。ナポレオンの敗北を描いているのだろう。第5曲〈間奏曲〉は付点リズムを多用した、ヴェルブンコシュ風の音楽である。第6曲〈皇帝と廷臣たちの入場〉では戦勝に沸くオーストリア宮廷の様子が描かれる。
(太田峰夫)
演奏時間:約25分
作曲年代:1927年1~3月
初演:1927年3月24日、バルセロナ・リセウ劇場にて、アンタル・フライシャー指揮、バルセロナ・パブロ・カザルス管弦楽団
ARTISTS出演者
指揮ゲルゲイ・マダラシュ
ゲルゲイ・マダラシュは1984年、ブダペスト出身の指揮者。2019年9月よりベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督を務めている。これまでにフランスのディジョン・ブルゴーニュ管弦楽団音楽監督、ハンガリーのサヴァリア交響楽団首席指揮者を歴任。また、BBC交響楽団、BBCフィルハーモニック、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、リヨン国立管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団他の著名オーケストラに客演している。
5歳よりハンガリー・ロマ民族の正統的な楽師や農民音楽家に学び、その後、クラシックのフルート、ヴァイオリン、作曲を学んでいる。ブダペストのリスト音楽院フルート科およびウィーン国立音楽大学指揮科を卒業。11歳でゲオルク・ショルティが指揮するブダペスト祝祭管弦楽団のリハーサルに立ち会い、指揮の魔術に触れたことをきっかけに、将来は指揮者になると決心したという。
古典派からロマン派の作品をレパートリーの中心とする一方、ジョージ・ベンジャミンやペーテル・エトヴェシュらの現代の作曲家とも協働する。また、オランダ国立オペラやジュネーヴ大劇場でオペラ指揮者としても実績を積んでいる。
今回は母国ハンガリーの音楽をとりあげる。幼少時より土地に根差した音楽に触れてきたマダラシュの本領が発揮されることだろう。
N響とは今回が初共演。
[飯尾洋一/音楽ジャーナリスト]
ピアノ阪田知樹*
2016年フランツ・リスト国際ピアノ・コンクールで第1位、2021年エリーザベト王妃国際音楽コンクールで第4位を獲得するなど、輝かしいコンクール歴を誇るピアニスト。日本の若い世代を代表するひとりとして意欲的な活動を続けている。
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校および同大学を経て、ハノーファー音楽演劇大学にて学士、修士を首席で修了し、現在同大学院ソリスト課程に在籍。世界的ピアニストを輩出するコモ湖国際ピアノアカデミーの最年少生徒として認められて以来、イタリアでも研鑽を積んでいる。パウル・バドゥラ・スコダに10年にわたり師事。また、作曲を永冨正之、松本日之春に師事した。2017年横浜文化賞文化・芸術奨励賞、2023年第32回出光音楽賞を受賞。
リスト、ショパンらのロマン派のレパートリーを軸に置き、知られざる作品の発掘にも力を注ぐなど、知性派のヴィルトゥオーゾとして定評がある。得意のリストで鮮やかな技巧を披露してくれることだろう。
N響とは2021年4月公演で初共演し、今回が2度目の共演となる。
[飯尾洋一/音楽ジャーナリスト]
PRE-CONCERT CHAMBER MUSIC PERFORMANCE開演前の室内楽
開演前の室内楽
曲目:ヴェレシュ/ヴァイオリンとチェロのためのソナチネ — 第3楽章
コダーイ/ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 作品7 — 第1楽章
出演者
MOVIEムービー
11月N響定期公演Cプログラムについて
料金
S席 | A席 | B席 | C席 | D席 | E席 | |
---|---|---|---|---|---|---|
一般 | 7,600円 | 6,700円 | 5,300円 | 4,300円 | 3,300円 | 1,600円 |
ユースチケット | 3,500円 | 3,000円 | 2,400円 | 1,900円 | 1,400円 | 800円 |
※価格は税込です。
※定期会員の方は一般料金の10%割引となります。また、先行発売をご利用いただけます(取り扱いはWEBチケットN響・N響ガイドのみ)。
※車いす席についてはN響ガイドへお問い合わせください。
※N響ガイドでのお申し込みは、公演日の1営業日前までとなります。
※券種により1回券のご用意ができない場合があります。
※当日券販売についてはこちらをご覧ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
※開場前に屋内でお待ちいただくスペースはございません。ご了承ください。
ユースチケット
25歳以下の方へのお得なチケットです。
(要登録)
定期会員券
発売開始日
年間会員券/シーズン会員券(AUTUMN)
2023年7月17日(月・祝)10:00am
[定期会員先行発売日: 2023年7月9日(日)10:00am]
BROADCAST放送予定
NHK-FMベスト オブ クラシック
「第1995回 定期公演 Cプログラム」
2023年11月10日(金) 7:30PM~ 9:10PM
曲目:
バルトーク/ハンガリーの風景
リスト/ハンガリー幻想曲*
コダーイ/組曲「ハーリ・ヤーノシュ」
指揮:ゲルゲイ・マダラシュ
ピアノ:阪田知樹*
収録:2023年11月10日 NHKホール