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- 第1962回 定期公演 Aプログラム
※本公演は休憩がございません。開演後はお席にお着きいただけませんのでどうぞご了承ください。
※やむを得ない理由で出演者や曲目等が変更となる場合や、公演が中止となる場合がございます。公演中止の場合をのぞき、チケット代金の払い戻しはいたしません。
※ご来場の際には感染症予防対策についてのご案内を必ずお読みください。
ABOUT THIS CONCERT特徴
2022年9月Aプログラム 聴きどころ
ジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901)の《レクイエム》は、イタリア人にとって特別な作品である。イタリアの国民的作曲家であるヴェルディが、イタリアの国民的作家であるアレッサンドロ・マンゾーニ(1785~1873)を偲(しの)んで作曲した作品だからだ。いわば、イタリアのふたつの魂がひとつになった作品なのである。
今回、イタリアの名匠ファビオ・ルイージがNHK交響楽団の首席指揮者に就任して最初の演奏会にこの曲を取り上げるのは、まったくもってふさわしいことに思える。ソリストは、世界を股にかけて活躍する実力派ばかり。N響が迎える新しい時代の輝かしい幕開けになることは間違いない。(加藤浩子)
PROGRAM曲目
ヴェルディ/レクイエム
ミラノのサン・マルコ教会は、大聖堂(ドゥオモ)に次いでミラノ第2の大きさを誇る教会である。
1874年5月22日、マルコ教会の縦長の空間はおびただしい数の人によって埋め尽くされていた。教会前の広場には、中に入れなかった人々があふれた。堂内の祭壇の前にはイタリア中からかき集められた100人のオーケストラと120人の合唱、有名な歌手たち、イタリアで最も有名な作曲家であるヴェルディ、そして神父が陣取り、ベンチには市長以下ミラノ各界の有名人と、これからここで行われるヴェルディの新作の初演に立ち会う興奮に包まれた人々でひしめいていた。
しかしそれは「演奏会」ではなかった。1年前に亡くなった作家、アレッサンドロ・マンゾーニを偲(しの)ぶ「ミサ典礼」なのだ。演奏者一同は喪服をつけ、本来教会で歌ってはいけない女性たち(合唱団の女性パート)は、観客から見えないところに配された(ただしソリストは別)。それは作曲者のヴェルディが望んだことだった。オペラとの境目が曖昧だといわれる本作だが、ヴェルディはもちろん典礼で使う「死者のためのミサ曲(レクイエム)」を作曲したのである。
ヴェルディが死者を偲ぶレクイエムの作曲を考えたのは、マンゾーニの死が初めてではない。1868年、彼が「イタリアの栄光」だと表現した大作曲家ロッシーニが亡くなったときも、彼はレクイエムの作曲を考えた。ユニークだったのはその構想で、作曲はイタリアを代表する作曲家たちによる合作、初演はロッシーニと縁の深いボローニャのサン・ペトロニオ教会で、彼の命日に行うというものだった。提案当初は内外から賛同を受けて実行委員会も結成され、作曲を担当する13名も決まるが、大勢の人間が関わり、上演など実際的な問題も山積するプロジェクトのため、理想通りにいくわけもなく、アイデアは空中分解してしまう。13人の作曲家による《ロッシーニのためのレクイエム》が長い眠りから覚めて初演されたのは、なんと1988年のことだった。
それから5年後。ロッシーニよりはるかに尊敬していたマンゾーニの訃報に接したヴェルディは、単独でレクイエムを作曲し、マンゾーニの1周忌のミサで初演する計画を立てる。終曲〈われを許したまえ(リベラ・メ)〉は、《ロッシーニのためのレクイエム》のために書いたものに手を加えて転用したが、あとは新作だった。彼は「神の栄光のために」「大いなる喜びをもって」作曲に没頭し、1年足らずでこの大作を書き上げた。
ヴェルディの《レクイエム》は、極めて個性的な作品である。宗教作品には欠かせないフーガや対位法が駆使されている一方で、有名な〈怒りの日(ディエス・イレ)〉に象徴されるように、音楽はダイナミックで劇的であり、ソリストたちの声の聴かせどころも多く、オペラティックな側面も強い。第2曲〈怒りの日〉は、レクイエムというジャンル特有の複数の曲からなる長大な部分で、「最後の審判」の情景が描かれるが、ここでは審判の地獄絵の絵画的な描写に加えて、裁きを前に恐れおののき、神に許しを乞う人間の苦悩がストレートに表現されている。ただしピアニッシモが頻繁に用いられるなど繊細な表現も多いことは付け加えておきたい。このようなコントラストもヴェルディの得意とするところ。第6曲〈永遠の光を〉に聴かれる光を思わせるピッコロなど、色彩豊かなオーケストレーションも聴きものだ。
第2曲中最後の〈涙の日よ(ラクリモーザ)〉の主題は、1867年に初演されたオペラ《ドン・カルロス》のために書かれて初演直前にカットされた二重唱からの転用であり、オペラそのもの。このような世俗的な特徴はカトリック教会の批判の対象となり、20世紀の初めには典礼から締め出されてしまった。
だが「聖なる」音楽が世俗的な面を持つのはなにもヴェルディに始まったことではない。ヨハン・セバスティアン・バッハの《マタイ受難曲》も、苦悩するイエスの姿が鮮やかに描かれた極めて人間的な音楽であり、当時はやはり「劇場的」だと評された。だが現在まで続く《マタイ》の人気の一因がそこにあることは否定できない。ヴェルディの《レクイエム》もまた、イタリア人に限らず、危機のときの勝負曲として世界中で愛されており、それは彼ならではの世俗的な表現も大きな理由だろう(ミラノのスカラ座も、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場も、パンデミック後の再開第一弾のプログラムは本作だった)。
心を揺さぶるやり方は作曲家によって異なる。ヴェルディの《レクイエム》は、やはり彼にしか書けない「レクイエム」なのである。
(加藤浩子)
演奏時間:約84分
作曲年代:1873年6月~1874年4月
初演:1874年5月22日、サン・マルコ教会にて
ARTISTS出演者
指揮ファビオ・ルイージ
1959年、イタリア・ジェノヴァ生まれ。デンマーク国立交響楽団首席指揮者、ダラス交響楽団音楽監督を務める。
これまでにメトロポリタン歌劇場首席指揮者、チューリヒ歌劇場音楽総監督、ウィーン交響楽団首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団および同歌劇場音楽総監督、MDR(中部ドイツ放送)交響楽団芸術監督、スイス・ロマンド管弦楽団音楽監督などを歴任。このほか、イタリアのマルティナ・フランカで行われるヴァッレ・ディートリア音楽祭音楽監督も務めている。
また、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラに定期的に客演し、世界の主要オペラハウスにも登場している。
録音には、ヴェルディ、ベッリーニ、シューマン、ベルリオーズ、ラフマニノフ、リムスキー・コルサコフ、マルタン、そしてオーストリア人作曲家フランツ・シュミットなどがある。また、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団とは数々のR. シュトラウスの交響詩を収録しているほか、ブルックナー《交響曲第9番》の解釈は高く評価されている。メトロポリタン歌劇場とのワーグナー《ジークフリート》《神々のたそがれ》の録音ではグラミー賞を受賞した。
N響とは2001年の初登場以来、9度にわたって共演している。2022年9月、N響首席指揮者就任。
ソプラノヒブラ・ゲルズマーワ
豊かで明るい響き、何よりも優れた表現力を持つヒブラ・ゲルズマーワは黒海東岸を臨むアブハジアの出身。アブハジアの言葉でヒブラは「黄金の目」を意味し、その名の通り多くの聴衆の心をつかんで離さない「黄金の声」の持ち主である。1994年モスクワ音楽院を卒業。同年、チャイコフスキー国際コンクールで史上初、唯一の女性歌手による最優秀賞を受賞。これまでにマリインスキー劇場、英国ロイヤル・オペラ・ハウス、メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座をはじめとする世界の主要な歌劇場に出演。2017年にはミラノ・スカラ座、2018年にはドレスデン国立歌劇場にデビューするなど、その活躍はとどまるところを知らない。
2011年にはマリインスキー劇場来日公演に参加、NHKホールで《トゥーランドット》のリューを歌って絶賛を博した。ヴェルディの《レクイエム》は、2021年にヴェローナ野外劇場の舞台で演奏している。今回初共演のN響とはどんな《レクイエム》を聴かせてくれるのか、たいへん楽しみだ。
[室田尚子/音楽評論家]
メゾ・ソプラノオレシア・ペトロヴァ
2016年からミハイロフスキー劇場のソリストとして活躍するオレシア・ペトロヴァは、柔らかく、あたたかみのあるメゾ・ソプラノ。同劇場では、《仮面舞踏会》のウルリカ、《カヴァレリア・ルスティカーナ》のサントゥッツァ、《スペードの女王》の伯爵夫人などを演じている。2014年、《アンドレア・シェニエ》でメトロポリタン歌劇場デビュー。同歌劇場にはその後も出演を重ね、2018年、フェデリカ役で出演したエライジャ・モシンスキー演出の《ルイザ・ミラー》がライブ・ビューイングで上演されたのも記憶に新しい。これまでにチューリヒ歌劇場、ハンブルク国立歌劇場、マドリード・レアル劇場、リセウ大劇場などに出演。2018年には新制作の《スペードの女王》のポリーナでボリショイ劇場にデビューを飾っている。
ロシア国内でのコンサート出演も数多い。特にモーツァルトの《レクイエム》や《戴冠式ミサ》、ペルゴレージの《スターバト・マーテル》では好評を博してきており、今回ルイージとともに贈るヴェルディの《レクイエム》でもその実力が期待される。N響初登場。
[室田尚子/音楽評論家]
テノールルネ・バルベラ
2020年2月、新国立劇場で上演されたロッシーニ《セビリアの理髪師》にアルマヴィーヴァ伯爵として出演したルネ・バルベラ。伸びやかな高音と素晴らしい装飾技巧が大絶賛されたアメリカ出身のテノールである。2008年メトロポリタン歌劇場ナショナル・カウンシル・オーディションで優勝。2011年にはプラシド・ドミンゴが創設したコンクール「オペラリア」で史上初めて、3つの優秀賞を単独で獲得するという快挙を成し遂げた。ロッシーニやドニゼッティのベルカント・オペラを得意としているが、2019年にはパレルモ・マッシモ劇場でモーツァルトの《イドメネオ》のタイトルロールを初めて歌い大好評を博している。このほかにミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場などに次々に出演している、今注目のテノールだ。
ヴェルディの《レクイエム》は、テオドール・クルレンツィス率いるムジカ・エテルナとともにパリ、ブリュッセル、ケルン、ハンブルク、ウィーンをツアーでめぐり演奏。その《レクイエム》のソリストとしてN響に初登場するバルベラの世界が認めた歌声を堪能(たんのう)したい。
[室田尚子/音楽評論家]
バスヨン・グァンチョル
ヨン・グァンチョルは韓国出身のバス歌手。1993年から2004年までベルリン国立歌劇場のアンサンブル・メンバーとして幅広いレパートリーを身につけ、2018年にはベルリンで「宮廷歌手」の称号を与えられる。主要なレパートリーはワーグナーとヴェルディで、2015年にはセバスティアン・ヴァイグレが指揮するN響定期公演に登場し、《トリスタンとイゾルデ》《ニュルンベルクのマイスタージンガー》からの曲を披露した。2021–22シーズンはベルリン国立歌劇場で《フィデリオ》のロッコを歌ったほか、ウィーン国立歌劇場では《ワルキューレ》のフンディング、パリ・オペラ座《パルシファル》のグルネマンツを歌うなど世界の主要歌劇場で活躍している。
コンサートへの出演も多く、これまでにベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ローマ聖チェチーリア国立アカデミー管弦楽団、ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団、ケルン放送交響楽団(現ケルンWDR交響楽団)などと共演。今回のN響公演は、アジアが生んだ卓越したバス歌手の名演に再び接することのできる貴重な機会といえる。
[室田尚子/音楽評論家]
合唱新国立劇場合唱団
1997年10月に開場した新国立劇場専属の合唱団として、1998年4月より活動をスタート。厳正なオーディションによる審査を経て合格したメンバーは、現在、男女合わせて100名を超える。メンバー個人の歌唱力や表現力の高さはもとより、アンサンブルの美しさと迫力は折り紙付きで、新国立劇場で上演される多彩なオペラ作品によって磨き上げられた実力は、多くの出演者、指揮者、演出家から高い評価を受けている。またオペラ公演だけでなく、オーケストラの演奏会への出演も多い。これまでに読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団など日本国内のオーケストラ、マリス・ヤンソンス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、フランツ・ウェルザー・メスト指揮クリーヴランド管弦楽団など海外オーケストラとも共演。N響とはこれまでに20回を超える演奏会で共演してきており、相性の良さも抜群である。
[室田尚子/音楽評論家]
フィルハーモニー9月号(PDF)
出演者プロフィール、曲目解説等をご覧いただけます。
MOVIEムービー
2022年9月からNHK交響楽団首席指揮者に就任し、9月定期公演[首席指揮者就任記念公演]に臨む、ファビオ・ルイージからのメッセージをお贈りします。
料金
S席 | A席 | B席 | C席 | D席 | E席 | |
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一般 | 12,000円 | 10,000円 | 8,000円 | 6,500円 | 5,000円 | 3,300円 |
ユースチケット | 6,000円 | 5,000円 | 4,000円 | 3,200円 | 2,500円 | 1,600円 |
※価格は税込です。
※ユースチケットのご案内(要登録/取り扱いはN響ガイドのみ)
※定期会員の方は一般料金の10%割引となります。また、先行発売をご利用いただけます(取り扱いはWEBチケットN響・N響ガイドのみ)。
※車いす席についてはN響ガイドへお問い合わせください。
※券種により1回券のご用意ができない場合があります。
※当日券販売についてはこちらをご覧ください。
※未就学児のご入場はお断りしています。
※開場前に屋内でお待ちいただくスペースはございません。ご了承ください。
定期会員券
発売開始日
年間会員券/シーズン会員券 7月18日(月・祝)11:00am
[定期会員先行発売日: 7月14日(木)11:00am]
ユースチケット
25歳以下の方へのお得なチケットです。
(要登録)
主催:NHK / NHK交響楽団
※AプログラムはNHKホール改修工事の終了にともない、今シーズンより会場をNHKホールに戻して開催します
※A-2の開演時刻は2:00pmとさせていただきます