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2022年6月10日

 

第2000回定期公演 曲目ファン投票候補曲 作品解説

第2000回定期公演の候補曲について、『フィルハーモニー』の曲目解説でもおなじみの音楽学者、広瀬大介さんから曲目解説をお寄せいただきました。投票の参考にぜひご覧ください。

 

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9月よりN響首席指揮者に就任するのは、交響的作品もオペラも得意中の得意とするファビオ・ルイージ。N響定期公演第2000回記念として候補に挙がった3曲は、いずれも壮大な物語を盛り上げる大規模なオーケストラ、独唱、合唱をともなう秘曲ばかり。どの曲が選ばれても、作品の受容史そのものにあらたなページを加えるはずです。

 

フランツ・シュミット/オラトリオ「7つの封印の書」

フランツ・シュミットといえば、2021年11月池袋Aプログラムで披露された《交響曲第2番》の記憶も新しいところ。自身の創作活動の集大成とすべく、死の前年、1938年に初演された本作。聖書に付曲した作品として有名なバッハ《マタイ受難曲》などの向こうを張り、シュミットが選んだのは『ヨハネの黙示録』でした。7つの封印が解かれ、殺戮、飢餓などのあらゆる災害がこの世に起こった末に、天の神を選んだひとたちによる国の栄光を讃える壮大な合唱が響きわたります。

 

フランツ・シュミット(1874-1939)

上:フランツ・シュミット(1874-1939)

右:アルフレッド・デューラー『『黙示録の四騎士』(木版画)-第1から第4の封印が解かれたときに現れる騎士。支配、戦争、飢饉、死がもたらされる

左:フランツ・シュミット(1874-1939)

右:アルフレッド・デューラー『『黙示録の四騎士』(木版画)-第1から第4の封印が解かれたときに現れる騎士。支配、戦争、飢饉、死がもたらされる

 

 

マーラー/交響曲 第8番 変ホ長調「一千人の交響曲」

グスタフ・マーラー(1860-1911)

グスタフ・マーラー(1860-1911)

1910年に開催された「ミュンヘン博覧会」の目玉企画として作曲された《交響曲第8番》。オーケストラ171人、声楽858人、まさに「一千人」を超える規模で初演され、「マーラーは名声の頂点に立った」と言わしめるほどの爆発的な成功を収めました。第1部・ラテン語の賛歌「来たれ、創造主である聖霊よ」(主に聖霊降臨祭の際に歌われる)、そして第2部・ゲーテ『ファウスト』の最終場面。「永遠に女性的なるもの」が世界を祝福するフィナーレは圧巻です。

左:グスタフ・マーラー(1860-1911)

下:1910年9月、初演に向けてのリハーサル風景
  (ミュンヘン、新音楽祝祭堂にて)

 

1910年9月、初演に向けてのリハーサル風景(ミュンヘン、新音楽祝祭堂にて)

1910年9月、初演に向けてのリハーサル風景(ミュンヘン、新音楽祝祭堂にて)

 

 

シューマン/楽園とペリ

グスタフ・マーラー(1860-1911)

ローベルト・シューマン(1810-1856)

罪を犯して楽園を追放されたペリ。「御心にかなう捧げものを贈れば罪は赦されよう」と説く天使の言葉に従い、ペリはインド、エジプト、シリアを旅して、ついにその罪を赦してもらえる捧げものをみつけ、楽園へと迎え入れられます。1843年に初演された《楽園とペリ》は大成功を収めたと言われ、シューマンの生涯の中でもっとも輝かしい瞬間であったかもしれません。各種合唱曲は決然と響きつつも優しさを内に抱え、この作曲家の美質をしみじみと伝えてくれます。

左:ローベルト・シューマン(1810-1856)

 

 

 

ルイージは「パンデミックの歳月で聴衆の大切さを痛感しました。投票を通じて聴衆に参加してもらうのはとてもよいアイデア」と語っています。ルイージとN響が作曲家の想い、そして音楽を愛する我々聴衆の想いを、いずれの大作においても、全身全霊で再現してくれることでしょう。

 

 

広瀬大介(ひろせ だいすけ)
音楽学者、音楽評論家。1973年生まれ。青山学院大学教授。日本リヒャルト・シュトラウス協会常務理事・事務局長。著書に『リヒャルト・シュトラウス 「自画像」としてのオペラ』(2009)、『帝国のオペラ』(2016)、『オペラ対訳×分析ハンドブック リヒャルト・シュトラウス/楽劇 サロメ』(2022)など。各種音楽媒体での評論活動のほか、NHKラジオへの出演、演奏会曲目解説・CDライナーノーツの執筆、オペラ公演・映像の字幕・対訳などを多数手がける。