ニュース

2022年2月22日

現代の名匠2人が奏でる古典の構成美と多彩な音色のパレット
―企画担当者による「2022年5月定期公演」の聴きどころ

文・西川彰一(NHK交響楽団 演奏制作部長)

 

「東京・春・音楽祭」でおなじみのマレク・ヤノフスキ、次期首席指揮者のファビオ・ルイージ。N響と結びつきの強い二人は、オーケストラを巧みに操り、思い通りの音楽を導き出すことに長けた“現代の名匠”である。ドイツ音楽を中心に、古典の構成美や多彩な音色のパレットを存分に味わって頂きたい。

 

 

 

こだわりの巨匠と探求するシューベルト最大の交響曲
― 池袋Aプログラム

5月14日(土)6:00pm 
5月15日(日)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:マレク・ヤノフスキ
ヴァイオリン:アリョーナ・バーエワ
シューマン/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
シューベルト/交響曲 第8番 ハ長調 D. 944「ザ・グレート」

 

 

池袋Aプログラム]のアリョーナ・バーエワは、かつて弾いた伸びやかで思い切りのよいR.シュトラウスが印象的で、それ以来、再び招聘したいソリストの一人だった。ヤノフスキの快諾を得て、3年ぶりの登場となる。
シューマン《ヴァイオリン協奏曲ニ短調》は、長くその存在が忘れ去られ、1937年になってようやく日の目を見た。近年名手たちが盛んに演奏するようになったが、バーエワの明晰にしてダイナミックな表現も、作品解釈の新たな沃野を切り開くものとなりそうだ。
同様に作曲家の死から10年後にシューマンが発見し、その「神々しいまでの長さ」を称えたシューベルト《交響曲第8番「ザ・グレート」》。ヤノフスキは33年前にもN響とこの曲を演奏している。当時の端正なアプローチは、時を経てどのように熟成するのだろう。
両曲とも、N響の前身である新交響楽団が設立後間もない時期に日本初演しており、我々にとって縁の深いレパートリーである。

 

 

名キャプテン・ルイージと 大海原を音楽で航海する
― Bプログラム

5月25日(水)7:00pm 
5月26日(木)7:00pm

サントリーホール

指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:小菅 優
メンデルスゾーン/序曲「静かな海と楽しい航海」作品27
ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調
リムスキー・コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」作品35

 

 

Bプログラム]は“海”や“水”が共通テーマ。生命の源である“海”は、様々な芸術作品にインスピレーションを与える「創作の源」でもあった。
メンデルスゾーン《静かな海と楽しい航海》は、ゲーテの詩に基づく。死の静寂を伴う凪から一転、風が吹いて船を進めることのできる水夫たちの浮き立つ様子が描写される。“音の風景画家”と呼ばれる作曲家の面目躍如たる佳品である。
ラヴェルは《水の戯れ》《海原の小舟》など、水のイメージに関わる作品を数々残しているが、流麗な旋律の流れは《ピアノ協奏曲》にも聴き取れる。ソリストは“水”を主題にしたリサイタルを企画したこともある小菅優
“海”と言えば、ルイージ得意のリムスキー・コルサコフ《シェエラザード》。オーケストレーションの名人が描く大海原の情景に身を委ねたい。

 

 

ルイージが丹念に磨き込む ウィーン古典派の名品
― 池袋Cプログラム

5月20日(金)7:30pm 
5月21日(土)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:アレクサンドル・メルニコフ
モーツァルト/歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K. 466
ベートーヴェン/交響曲 第8番 ヘ長調 作品93

 

 

池袋Cプログラム]のモーツァルト《歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲》《ピアノ協奏曲第20番》は、共に悲劇性と絶望的な死への予感をはらんだニ短調で書かれている。同時代の常識を打ち破る独創性は、ロマン派への扉を開くものだった。
協奏曲のソリストはロシア出身のアレクサンダー・メルニコフ。伝統的な演奏スタイルを尊重し研究しながら、既存の型から果敢に踏み出そうとするメルニコフのチャレンジ精神を、ルイージは高く評価する。
ベートーヴェンはモーツァルトの《第20番》を好んで弾いたと言われ、この曲に優れたカデンツァを残している。ニ短調の平行調、ヘ長調を主調とする《交響曲第8番》は打って変わって愉悦に満ちた作品。傑作群の谷間に咲いた小曲と見られがちだが、ルイージは《英雄》でも《運命》でも《第九》でもなく、この《第8番》を“ベートーヴェンの最上の交響曲”と呼ぶ。彼によれば「シンプルな書法で、完全な古典的統一を達成した真の名曲」なのだ。