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2022年2月22日

ドゥネーヴが描くパリの異国情緒、鈴木優人が構築するバロック由来の形式美
―企画担当者による「2022年6月定期公演」の聴きどころ

文・西川彰一(NHK交響楽団 演奏制作部長)

 

6月の指揮台に立つのはステファヌ・ドゥネーヴ鈴木優人。各曲を有機的に関連づけるプログラミングは、二人の得意とするところ。工夫に富んだ選曲と演奏をお楽しみ頂きたい。

 

 

 

音楽と文学の幸せなマリアージュ その耽美的な世界に身を委ねる
― 池袋Aプログラム

6月11日(土)6:00pm 
6月12日(日)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:ステファヌ・ドゥネーヴ
メゾ・ソプラノ:ステファニー・ドゥストラック*
デュカス/バレエ音楽「ペリ」(ファンファーレつき)
ラヴェル/シェエラザード*
ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
フロラン・シュミット/バレエ組曲「サロメの悲劇」作品50

 

 

万国博覧会をきっかけとして、19世紀末から20世紀初頭のパリでは、オリエント趣味が流行した。異国情緒たっぷりの芸術が次々に生まれたが、[池袋Aプログラム]はその成果にスポットライトを当てる。
デュカス《ペリ》はペルシャを舞台に、不老不死の花を手に入れようとして夢破れる国王の物語。ラヴェル《シェエラザード》を歌うのは、昨年、新国立劇場の「カルメン」で主役を務めたステファニー・ドゥストラック。「カルメン」に似たオーボエの主題を聴けば、たちまちアラビアン・ナイトの幻想的で妖艶な世界に誘われることだろう。
マラルメの詩に霊感を受けたドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》が、白昼のけだるい夢想を描いたのち、プログラムはフロラン・シュミット《サロメの悲劇》で締めくくられる。官能的な踊りの褒美にヨハネの首を手に入れたサロメは、やがて神の怒りを買って身を滅ぼす。全体に通底するのは、未知の世界への憧れと、求めて果たせぬ思慕の念である。

 

 

仏米2人の作曲家が伝える 1920~30年代 パリの息吹
― 池袋Cプログラム

6月17日(金)7:30pm 
6月18日(土)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:ステファヌ・ドゥネーヴ
オルガン:オリヴィエ・ラトリー
プーランク/バレエ組曲「牝鹿」
プーランク/オルガン協奏曲 ト短調
ガーシュウィン/パリのアメリカ人

 

 

時代は下って「狂騒の20年代」と呼ばれた戦間期。ジャズやダンスホールなど、アメリカの大衆文化がパリに流入し、華やかな活気を生んだ。[池袋Cプログラム]はこの時期、互いに影響を与えあったフランスとアメリカの音楽がテーマである。
パーティで浮かれる若い娘たちを描いたプーランク《牝鹿》は、当時の世相を反映しているが、曲の一部にはアメリカで流行したラグタイムのリズムが取り入れられている。
同じ頃「ラプソディー・イン・ブルー」でブレイクした若きガーシュウィンがパリを訪れた。この時の印象を音楽にした《パリのアメリカ人》は、本物のクラクションを使って大都会の喧騒を描く。曲の冒頭はプーランクを一員とする「六人組」のスタイルだ。
厳粛な宗教性を帯びた《オルガン協奏曲》の初演は1938年。束の間の繫栄は終わろうとしていた。この曲はシャルル・ミュンシュ指揮のボストン交響楽団をはじめ、戦後のアメリカで度々演奏された。ミュンシュ、小澤征爾の流れを汲むドゥネーヴにとっては思い入れの強い作品。彼が最も信頼を置くオリヴィエ・ラトリーのソロで聴く。

 

 

しなやかに、颯爽と!鈴木優人のモーツァルト《ジュピター》
― Bプログラム

6月22日(水)7:00pm 
6月23日(木)7:00pm

サントリーホール

指揮:鈴木優人
ヴァイオリン:郷古 廉
バッハ(鈴木優人編)/パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582
ブリテン/ヴァイオリン協奏曲 作品15
モーツァルト/交響曲 第41番 ハ長調 K. 551 「ジュピター」

 

 

Bプログラム]では、オルガンの代表的名曲《パッサカリアとフーガ》を、バッハとともに生まれ育った鈴木優人の編曲で。低音旋律の反復の上に、豊かな変奏が織りなされる「パッサカリア」。この音楽形式に我々が惹かれるのは、同じような日常を繰り返しながら、いつしか遠い場所に行き着く人生に似ているためか。
続くブリテン《ヴァイオリン協奏曲》の第3楽章もパッサカリアで書かれているが、宗教的確信に満ちたバッハとは対照的に、20世紀を生きたブリテンは苦悩と希望の狭間で揺れ動く。N響と関係を深める郷古廉の意欲的挑戦に期待したい。
後半もバッハに呼応して、フィナーレに壮大なフーガを持つモーツァルト《交響曲第41番》。人智を超越した構築力はローマ神話の最高神「ジュピター」の名にふさわしい。