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2022年2月16日

NHK交響楽団 第69回「尾高賞」について

NHK交響楽団「尾高賞」は、故・尾高尚忠氏の生前の音楽界に遺した功績を讃えて1952年(昭和27年)に制定され、本年で第69回を迎えることになりました。今回は、国内59の音楽団体、音楽大学等に推薦を依頼し、13団体から23曲の推薦をいただいた後、選考委員による慎重審議の結果、下記のとおり授賞作品が決定いたしました。

 

なお、第69回「尾高賞」の贈呈式と受賞作品の演奏は、7月1日(金)東京オペラシティコンサートホールで開催される「Music Tomorrow 2022」(指揮:イラン・ヴォルコフ)で行われます。

 

 


第69回「尾高賞」授賞作品

授賞作品
華開世界~オーケストラのための(2020)
[NHK交響楽団委嘱作品] [17分]
作曲者
西村 朗
作曲年
2020年
世界初演
2021年6月22日 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:杉山洋一
管弦楽:NHK交響楽団

 

授賞作品
チェロとオーケストラのための What the Thunder Said / 雷神の言葉(2021)
[西ドイツ放送委嘱作品] [7分30秒]
作曲者
岸野 末利加
作曲年
2021年
世界初演
2021年11月12日 ケルン・フィルハーモニー(無観客)
[世界初演放送:2021年11月26日 西ドイツ放送番組 TonArt]
指揮:クリスティアン・マチェラル
チェロ:オーレン・シェブリン
管弦楽:ケルンWDR交響楽団

 

尾高賞歴代受賞作品(PDF)

 

 


『第69回尾高賞 受賞によせて』
西村 朗

西村 朗

このたびは私のオーケストラ曲《華開世界》が伝統ある「尾高賞」を賜ることとなり、誠に光栄に存じます。

昨年、素晴らしい初演をしてくださいましたNHK交響楽団の皆さまと指揮者の杉山洋一さん、そして尾高賞の審査員の皆さまと関係者の皆さまに心からの感謝を申し上げます。

またこのたびは、ドイツを拠点に国際的な活躍目覚ましい岸野末利加さんの御作と並んで賞を受けさせていただくことになり、そのことも大変嬉しく感じております。

今回の《華開世界~オーケストラのための》は、2019年2月に新国立劇場で初演された私の《オペラ「紫苑物語」》に続いて作曲したものです。オペラ初演後、一年半にわたって没頭したオペラ作曲の疲れを感じ、ぼんやりしておりましたところ、そのオペラを観て下さったNHK交響楽団演奏制作部長の西川彰一さんからご連絡があり、新作管弦楽曲の委嘱を賜りました。私にとりましては、《二重協奏曲「光の環」ヴァイオリン、ピアノとオーケストラのための(1991)》、《光と影の旋律(2000)》以来20年ぶりにNHK交響楽団の委嘱曲を書かせていただけるということで、一気に目が覚めた思いがいたしました。

タイトルの「華開世界」は、道元禅師のお言葉「華開世界起」をもととしたものですが、お言葉の本義から離れることをあえておそれず、私なりに “世界は一瞬一瞬花が開くようにみずみずしく生起し続ける。” と解釈し、用いさせていただきました。

2019年の10月初めから翌年1月末にかけて作曲。3管編成で、内部に8奏者(5人の打楽器、チェレスタ、ピアノとハープ)による「華開」の表現グループを含んでいます。演奏時間は17分程度。2020年の「Music Tomorrow 2020」で初演される予定でしたが、コロナ禍で中止となり、1年後に初演していただきました。色々と難しい状況下で素晴らしい初演をして下さった皆さまにあらためまして深く感謝を捧げさせていただきます。

そして、このたびNHK交響楽団の皆さまによって《華開世界》が再演されますことを、今大変幸せに感じております。このたびの受賞を大きな励みとして今後も作曲に精進してまいりたいと存じます。

誠に有難うございます。

 

 


『第69回尾高賞 受賞によせて』
岸野 末利加

岸野 末利加

この度、《チェロとオーケストラのための What the Thunder Said / 雷神の言葉》を尾高賞に選出いただき心から御礼申し上げます。

この作品は、ドイツで2回目の都市封鎖が始まった2020年の11月に、西ドイツ放送から「時代のミニアチュール」というコンサートシリーズのために委嘱され、チェリスト、オーレン・シェブリン氏とケルンWDR交響楽団のために作曲しました。パンデミックがいつまで続くかわからない状況下で、1)現代の社会事象をテーマにすること、2)小規模な編成、3)短い演奏時間、4)早く仕上げること、という条件のもと生まれた曲で、今後展開させる予定の《チェロ協奏曲》の一楽章です。

「社会事象」という具体的なテーマを「音」という抽象的なもので表現することは、私にとってチャレンジでした。そんな中、100年前にT. S.エリオットによって書かれた『荒地(The Waste Land)』に出会いました。「What the Thunder Said」は、この詩の最終章のタイトルです。

スペイン風邪と第一次世界大戦で荒廃した当時のヨーロッパで書かれた美しい詩は、100年後の今、パンデミック、気候災害、人種、宗教、経済の様々な問題を抱える現在の世界の状況を映しています。

乾いた大地に亀裂が走りひび割れるイメージのチェロ・ソロで始まるこの曲は、詩で使われた、岩、乾き、水滴、幻覚、湿気、雷などのモチーフを音楽の素材にし、バラバラの断片(個)が、バランスを取り戻しながらグループを成し、時に孤立状態に戻りながらも、社会を再生する方向に向かって「雨=希望」の兆しを見いだす様子を描いています。

私自身、何度かのロックダウンの経験から、人間が社会的な生き物であること、個の自由と帰属意識の両方を切望する存在であることを改めて痛感させられました。

作曲し始めた当時の、無観客、動画配信、放送という形の演奏会状況を思い起こすと、今回この作品が、尾高賞を受賞しNHK交響楽団によって再演されることは、感激もひとしおです。関係者の皆様、どうもありがとうございました。

最後に、私の作品の良き理解者・助言者で『荒地』を紹介してくれたゼルボーニ音楽出版のガブリエル・ボノモ氏、作品の準備段階から初演まで、私がイメージする音を共に探求し、多くのインスピレーションを与えてくれたオーレン・シェブリン氏、私の作曲活動をいつも励ましてくれる家族に心からの感謝を捧げます。

(2022年1月18日京都にて)