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2021年7月16日

ハイドン、マーラー、バルトークらが残した人類共通の遺産を堪能する
―企画担当者による「2021年9月定期公演」の聴きどころ

文・西川彰一(NHK交響楽団 演奏制作部長)

 

1年7か月ぶりに再開するN響定期。ハプスブルク帝国の辺縁に生まれたハイドン、マーラー、バルトークが9月公演の主役である。3人の作曲家は、各自のルーツに根ざした音楽語法を駆使し、その作品を人類共通の遺産へと昇華させた。

 

 

沼尻竜典が自信を持って臨むマーラー
― 池袋Aプログラム

9月25日(土)6:00pm 
9月26日(日)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:沼尻竜典
クラリネット:アンドレアス・オッテンザマー
モーツァルト/クラリネット協奏曲 イ長調 K. 622
マーラー/交響曲 第1番 ニ長調「巨人」

※出演者が変更になりました(8/23更新) 詳細

 

 

《池袋Aプログラム》はウィーンゆかりの作曲家モーツァルトマーラーの組み合わせ。《クラリネット協奏曲》のソリスト、アンドレアス・オッテンザマーは著名な音楽一家の出身で、若くしてベルリン・フィルの首席を務める。正統派のエリートと見られがちだが、活動の幅は決してその範疇に留まらない。自由な中にも気品をたたえた演奏で、古典中の古典に清新な息吹をもたらすだろう。後半はおなじみの《巨人》。指揮の沼尻竜典は、かつて小澤征爾のアシスタントとしてこの曲のバックステージ演奏を手伝った経験を持つ。それから30年あまり、若い頃には制御が難しかった《巨人》の複雑さを、ようやく手の内にしつつあると自信を覗かせる。自然との調和や東洋風の味わいなど、日本人にも共感しやすい要素をふんだんに孕みつつ、高らかな勝利で締めくくる人気曲にどんなアプローチで迫るのか、興味は尽きない。

 

 

トン・コープマンと時代の変遷を一望する旅に出る
― Bプログラム

9月15日(水)7:00pm 
9月16日(木)7:00pm

サントリーホール

指揮:トン・コープマン
チェロ:ニコラ・アルトシュテット
バッハ/組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
C. P. E. バッハ/チェロ協奏曲 イ短調
ハイドン/交響曲 第98番 変ロ長調 Hob. I-98

※出演者、曲目が変更になりました(8/23更新) 詳細

 

 

《Bプログラム》の指揮は、2年ぶりのN響登場となるトン・コープマン。言わずと知れた古楽界の大家ながら、近年は名だたるモダン・オケにも度々客演している。今回はバロックから古典にかけて、時代の変遷が一望できる音楽の旅。前の世代の影響を色濃く受けながら、独自のスタイルを切り開いた作曲家たちの個性が鮮やかに浮かび上がる。有名な《アリア》を含むバッハ《組曲第3番》に続くのは、その息子C. P. E. バッハ《チェロ協奏曲》。吹きこぼれんばかりの情感は、ハイドンの「疾風怒濤」の先駆けと言っても過言ではない。モダンとピリオドの境界を自在に行き来する若き俊才ニコラ・アルトシュテットが、意欲作に新たな光を投射する。後半は、功成り名遂げたハイドン晩年の傑作《交響曲第98番》。「交響曲の父」の異名に恥じぬ完成された様式美は、風通しの良い清々しさが持ち味のコープマンにふさわしい。

 

 

パーヴォ・ヤルヴィの最重要レパートリーを再び聴く
― 池袋Cプログラム

9月10日(金)7:30pm 
9月11日(土)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
バルトーク/組曲「中国の不思議な役人」
バルトーク/管弦楽のための協奏曲

 

 

大幅リニューアルとなる《池袋Cプログラム》では、豪華な顔ぶれの指揮者陣が、コンパクトながら選りすぐりのプログラムをお届けする。初回を飾るのはパーヴォ・ヤルヴィバルトーク《管弦楽のための協奏曲》は彼の最重要レパートリーで、N響とは6年前の首席指揮者就任直後にも演奏し、評判を呼んだ。主役となる楽器が次々に入れ替わりながら、オーケストラと濃密な掛け合いを展開するこの曲は、名手ぞろいのN響メンバーがその技量を発揮するのに打ってつけと言える。パーヴォは過去のインタビューで「曲の持つ悲劇的な要素を浮き彫りにすることが大切」と語っている。特にシンメトリー構造の中心をなす第3楽章「エレジー」が、表現上の鍵となりそうだ。《中国の不思議な役人》では、前衛的なリズムとオーケストレーションが炸裂、生演奏の大迫力を味わえる。首席指揮者として最後のシーズンを迎えるパーヴォの熱演に期待したい。