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2021年7月16日

ブロムシュテットの指揮人生が凝縮されたプログラムを聴く
―企画担当者による「2021年10月定期公演」の聴きどころ

文・西川彰一(NHK交響楽団 演奏制作部長)

 

ヘルベルト・ブロムシュテットが初めてN響を指揮したのは1981年11月。以来ちょうど40年、ほぼ毎年のように共演を積み重ねてきた。昨年は来日が叶わなかったが、マエストロと私たちの深い絆はいささかも緩むことがない。今回の3種類のプログラムは、すべて北欧とドイツ・中欧の作品を組み合わせたものである。70年近くにわたり、これらの地域を主舞台に活躍してきた巨匠の指揮者人生、芸術のエッセンスが凝縮されている。

 

 

 

巨匠が限りない共感を込めて贈るニールセン
― 池袋Aプログラム

10月16日(土)6:00pm 
10月17日(日)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ヴァイオリン:レオニダス・カヴァコス
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ニルセン/交響曲 第5番 作品50

 

 

《池袋Aプログラム》レオニダス・カヴァコスは現代最高峰のヴァイオリニスト。磨き抜かれた音色やフレージング、構築力、時には粗野にもなれる実験精神など、どこを取っても間然する所がない。厚い信頼関係で結ばれたマエストロのサポートを得て、ブラームス《ヴァイオリン協奏曲》は、シーズン屈指の好演となる予感大である。ブロムシュテットとN響は、ニルセン《交響曲第5番》を20年前にも演奏した。当時「注目されない曲に敢えて“布教精神”で挑む」と語っていたマエストロ。その熱意が実り、ニルセンは我々のスタンダード・レパートリーになりつつある。《第5番》には作曲家が敬愛したブラームスの楽想が見え隠れするが、表現のユニークさ・インパクトの強さは、マーラーやショスタコーヴィチにも匹敵する。この曲を愛してやまない巨匠が、限りない共感を込めて贈る。

 

 

N響とのベートーヴェン・シリーズの掉尾を飾る《運命》
― Bプログラム

10月27日(水)7:00pm 
10月28日(木)7:00pm

サントリーホール

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ステンハンマル/セレナード ヘ長調 作品31
ベートーヴェン/交響曲 第5番 ハ短調 作品67

 

ブロムシュテットの“布教精神”は、祖国スウェーデンの作曲家ステンハンマルにも向けられている。《Bプログラム》前半の《セレナード》は、タイトルから気軽な機会音楽を連想するが、その実、2曲の交響曲と並ぶ彼の本格的なオーケストラ作品である。後期ロマン派の芳醇な香りを、北欧の澄んだ空気が包み込むかのようだ。美しくたゆたうヴァイオリンやクラリネットのソロには、南国イタリアへの憧れも感じられる。ステンハンマルはピアニストとしても、ベートーヴェンの演奏で名を馳せた。後半は“運命”の主題でおなじみの《交響曲第5番》。2015年以来続けてきたブロムシュテットとN響のベートーヴェン・シリーズは、これをもって完結する。一般に指揮者のテンポは加齢と共に遅くなるが、マエストロの場合、むしろ以前よりきびきびと引き締まってきた。飽くことを知らぬ探求心のなせる業である。

 

 

名曲で巨匠の瑞々しさにあふれる解釈を聴く
― 池袋Cプログラム

10月22日(金)7:30pm 
10月23日(土)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
グリーグ/「ペール・ギュント」組曲 第1番 作品46
ドヴォルザーク/交響曲 第8番 ト長調 作品88

 

《池袋C》は、グリーグ《「ペール・ギュント」組曲第1番》ドヴォルザーク《交響曲第8番》。どちらも親しみやすい旋律や抒情性に富んだ、定番の名曲である。特に前者はブロムシュテットの十八番で、サンフランシスコ響との録音は名盤の誉れ高い。後者はN響がツアーなどで最も頻繁に演奏する曲の一つ。メンバーの誰もが曲を熟知しているので、短いリハーサルでも形になる反面、ともすればパターン化された演奏に陥る危険性を秘めている。だがおそらくブロムシュテットは、数限りなく取り上げてきたこれらの曲のスコアを一から読み直し、練習時間を目いっぱい使って、新鮮な音楽を立ち上げることだろう。マンネリズムとは程遠い、瑞々しさにあふれた解釈が聴けるに違いない。