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2021年7月16日

次期首席指揮者のタクトで聴く 後期ロマン派の名品
―企画担当者による「2021年11月定期公演」の聴きどころ

文・西川彰一(NHK交響楽団 演奏制作部長)

 

来年9月に首席指揮者となるファビオ・ルイージ。就任発表時のインタビューでも述べたように、サヴァリッシュやスウィトナーが育んだN響サウンドを大切にしながら、ドイツ音楽、中でも後期ロマン派のレパートリーをいっそう充実させていくことが、これからの大きな方針となる。その前哨戦とも言えるプログラムである。

 

 

 

フランツ・シュミットのあふれ出る抒情性、ゴージャスな響きを味わい尽くす

11月13日(土)6:00pm 
11月14日(日)2:00pm

東京芸術劇場

指揮:ファビオ・ルイージ
ピアノ:アレッサンドロ・タヴェルナ
ウェーバー/歌劇「魔弾の射手」序曲
リスト/ピアノ協奏曲 第2番 イ長調
フランツ・シュミット/交響曲 第2番 変ホ長調

 

 

《池袋Aプログラム》フランツ・シュミットは、マーラーやR.シュトラウスの同時代人で、近年にわかに脚光を浴びつつある作曲家。再評価の先鞭をつけたルイージはこの先、N響とともに彼の作品を継続的に取り上げていく。《交響曲第2番》は、バッハの器楽曲に似た冒頭主題、ブラームスを思わせる変奏曲形式などにドイツ音楽の伝統が刻印されている。他方、機能和声を極限まで生かしたゴージャスな響き、あふれ出る抒情性は後期ロマン派芸術そのもの。深まりゆく秋、たそがれのウィーンの残照を味わい尽くしたい。
シュミット生誕のおよそ半世紀前、その生地プレスブルクを9歳の神童リストが訪れ、ピアノの公開演奏で話題をさらった。《ピアノ協奏曲第2番》は、時代の寵児が10代で着手し、長年にわたり改訂を重ねた労作。苦心の末に達成された“超絶技巧と優美の共存”は、アレッサンドロ・タヴェルナの持ち味そのものでもある。
ウェーバー《「魔弾の射手」序曲》は、歌劇場でキャリアを築いたルイージならではの選曲。小品演奏の無類の巧みさは、前回の《「オイリアンテ」序曲》で実証されている。

 

 

鮮やかな色彩に満ちたチャイコフスキー《交響曲第5番》
― Bプログラム

11月24日(水)7:00pm 
11月25日(木)7:00pm

サントリーホール

指揮:ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン:フランチェスカ・デゴ
パガニーニ/ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品6
チャイコフスキー/交響曲 第5番 ホ短調 作品64

 

 

リストに先んじ、超絶技巧で19世紀前半のヨーロッパを席捲したのがヴァイオリンのパガニーニ《Bプログラム》《ヴァイオリン協奏曲第1番》に見られる、広い音域を高速で駆け巡る3度のダブルストップや2重ハーモニクスは、当時の聴衆の度肝を抜いたことだろう。フランチェスカ・デゴは、タヴェルナ同様イタリアの若手で、今回の共演はルイージの推薦による。2人のソリストに共通するのは、技巧性が際立つ難曲を苦もなく弾きこなしながら、あくまで歌心やエレガンスを失わないところ。ルイージの目指す音楽の方向性を示唆している。
後半はチャイコフスキー《交響曲第5番》。誰もが知る名曲を、衒いもなくプログラムに取り入れるのが、ルイージの特徴の一つである。クライマックスも通俗に堕すことなく、どこまでもサラリと品のよい運びは一流の証。それでいてイタリアらしい鮮やかな色彩感が随所に顔を出す。

 

 

一つ一つのフレーズを丁寧に歌い込むルイージのブルックナー
― 池袋Cプログラム

10月18日(木)7:30pm 
10月19日(金)7:30pm

東京芸術劇場

指揮:ファビオ・ルイージ
ブルックナー/交響曲 第4番 変ホ長調 「ロマンチック」

 

《池袋Cプログラム》ブルックナー《交響曲第4番》。ブルックナーもまた、今後のレパートリーの柱となるだろう。この先は第2番、第8番などが続く予定。悠揚迫らざるテンポを取りつつも、決して間延びせず、全体の構造がクリアに見通せる点、レガートを多用して、一つ一つのフレーズを丁寧に歌いこんでいく点、楽器どうしの絶妙な音量バランス・・・。こうした特徴を併せ持つルイージのブルックナーは、激烈さや破天荒さと無縁ながら、強い説得力をもって私たちの胸に響いてくる。N響の演奏史に刻まれる名演が期待できよう。