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2020年10月8日

インタビュー ― 原田慶太楼(指揮)
こだわりのアメリカン・プログラムを披露する「NHK交響楽団11月公演」について語る
「僕が本当に情熱をもっている音楽をN響とやることで、新しいものが生まれたり、一緒に演奏する意味が出てくると思う」

「NHK交響楽団11月公演」のうち、東京芸術劇場(11/20、21)とサントリーホール(11/25、26)で指揮を務めるのは、アメリカを中心にキャリアを積み、現在は日本のオーケストラでも大活躍中の原田慶太楼。ともに選曲を進めたNHK交響楽団演奏制作部長の西川彰一に、今回の選曲の意図や聴きどころをオンライン・インタビューで語りました。

 


マイケル・ティルソン・トーマスから伝授されたアメリカ音楽のグルーヴ

―11月の2種類のプログラム、大変楽しみです。もともとこの日程でマイケル・ティルソン・トーマス(MTT)さんが初登場の予定だったのですが、残念ながら来日のめどが立ちませんでした。せめてMTTさんの精神だけでも残したいと思い、「代わりに誰を?」と考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが原田さんでした。スケジュールを空けてもらえて、本当によかったです。まずはMTTさんとの繋がりを教えて下さい。

原田:MTT氏と初めて会ったのは2010年の夏。病気のレヴァインに代わり、彼がタングルウッド音楽祭で先生をしていたんです。指揮のテクニックに関してはもちろん、彼自身も作曲家だから「作曲家がどういう思いでこの音を書いているのか」とか、そんなことを色々教えてもらいました。コープランドやバーバーといったアメリカ音楽の代表的なレパートリー、それに現代の作曲家の新曲に数多く触れた経験も大きかった。その後もあちこちで会っていますが、この時の思い出がすごく強いです。

―MTTさんからいちばん影響を受けたのはどんなことですか?

原田:一言でいうと、アメリカの作曲家のサウンドってどういうものなのかを教えてもらったこと。MTT氏にしてもスラットキン氏にしても、僕にとってはお父さんみたいなもので、彼らはコープランドやバーンスタインと直接親しかったから、アメリカ音楽に必要なグルーヴとか、ヨーロッパの作曲家との音の違いなんかを具体的に聞くことができ、「ここにこだわらなきゃいけない」っていうポイントを、肌で感じることができました。

アメリカの作曲家って、自分自身だったり先祖だったり、多くはヨーロッパの国々から出てきているわけじゃない。だからヨーロッパに対抗しようといった意識はなくて、ヨーロッパの良さをアメリカナイズしている。つまりヨーロッパの音楽があって、アメリカの音楽がある。ヨーロッパへのリスペクトがあるからこそ、アメリカ独自のサウンドが作れるんじゃないかなと思います。

原田慶太楼

コリリャーノ《航海》が伝えるメッセージ

―では今回のプログラム、東京芸術劇場の方から見ていきましょう。
コリリャーノ、バーバー、そして《新世界から》というラインナップです。コリリャーノは今年82歳、存命の作曲家ですね。『レボリューション・めぐり逢い』『レッド・バイオリン』といった映画音楽が有名ですが、日本ではまだそれほど知られていません。

原田:コリリャーノには高校生のころ、会ったことがあります。高校のマスタークラスに来てくれて。その後は会う機会がないのですが、彼の音楽にはずっと親しんできました。《航海》は、コリリャーノの世界にいちばん入りやすい作品だと思います。

―この曲のオリジナルはアカペラの合唱音楽です。ボードレールの「旅への誘い」の英訳が歌詞に使われていますね。

原田:お客さまには、そのことを意識して聴いてもらえるといいですね。純粋さ、謙虚さ、静かな世界に喜びを見つけようという・・・。コロナで世界がカオスになっている状況だからこそ、ここにいちばん大事なメッセージがあるんじゃないかな。それで僕は是非、この音楽を紹介したいと思いました。今回は弦楽器だけのバージョンですけど、切なさもあれば喜びもあり、希望もあれば悲しみもある。バーバーの《アダージョ》に似ているところもあるんだけど、2曲目にバーバーが来るから、敢えて最初は《航海》がいいかなと。

―コリリャーノからバーバーへの流れは、とてもしっくり来ますね。バーバーの《ヴァイオリン協奏曲》は、神尾真由子さんの旬のレパートリーということで、提案させて頂きました。

原田:神尾さんとはまだ共演したことがないので、とっても楽しみです!

ドヴォルザーク、バーバー、コリリャーノに連なる伝統

―後半は、なるべく大勢の方に足を運んで頂きたいという理由もあって、誰もが知っている曲、ドヴォルザークの《新世界から》を選びました。

原田:おなじみの第2楽章は歌としても親しまれているし、そういう意味では、歌がベースになっているコリリャーノとうまく繋がるんじゃないかなと思います。

―まだ見ぬ世界への憧れを歌ったコリリャーノ、そしてアメリカに渡ったドヴォルザークの、ふるさとボヘミアに寄せる望郷の思い、そのあたりも響き合うかもしれませんね。

原田:さらに言えば、バーバーはコリリャーノの先生だった。バーバーはジュリアードでも教えていたことがあるけど、ジュリアードができる少し前には、同じニューヨークのナショナル音楽院でドヴォルザークが教えていました。そう考えると、19世紀末のニューヨークの音楽シーンや伝統といったものが、今生きているコリリャーノにまっすぐ続いているわけで、その点でも説得力のある組み合わせになっていると思います。

原田慶太楼

「踊り」「男女」「愛」「パッション」をテーマとしたサントリーホール公演

―そういった共通点を感じながら、楽しんでもらいたいですね。
さて、サントリーホールの方は、一段とこだわりの強い選曲になりました。決定まで、何十回意見交換したかわかりません。

原田:結局、僕が本当に情熱をもっている音楽をN響とやることで、新しいものが生まれたり、一緒に演奏する意味が出てくると思うのです。どのオーケストラもそうだけど、指揮者を選んだ時点で、その指揮者が与えてくれる刺激や、お互い一緒に作り出す何かを、オーケストラは求めているわけでしょう。僕もオーケストラから何が出てくるか、楽しみなわけですし。それでいうと、去年のN響デビューでいちばん衝撃的だったのは、やっぱりヒナステラだったんじゃないでしょうか。

―おっしゃる通り、去年8月「N響ほっとコンサート」で原田さんと演奏したヒナステラの《マランボ》は、会場全体を巻き込んで、空前の盛り上がりでした。

原田:この曲をレパートリーにしている日本人はまだまだ少ないから。その延長線でもう一つのプログラムを作ろうと思い、ヒナステラから連想したのが、彼の弟子であるピアソラでした。ピアソラと言えば、踊りの音楽。僕はダンスのレッスンを受けていたくらいタンゴが大好きで、音楽もたくさん演奏してきたので、今回《タンガーソ》はどうかと提案してもらえたのはとても嬉しかった。それなら、踊り、男女、愛とかパッションといったテーマで全体を括ってはどうかと思いました。

―最初はバーンスタインの《オン・ザ・タウン》です。この曲にするか、同じ作曲家の《ファンシー・フリー》にするか、ぎりぎりまで悩みましたよね。

原田:アメリカのエンターテインメントといえば、やっぱりミュージカルじゃないでしょうか?アメリカ音楽にとって、すごく大事なアイデンティティでもあるし。《ファンシー・フリー》は同じストーリーにつけられた音楽ですが、こっちはバレエで、バレエは今回《アパラチアの春》があるから。でも直後に書かれただけあって、《オン・ザ・タウン》には《ファンシー・フリー》の雰囲気が残っていますよ。

もう一つこだわりたかったのは《ダンソン第2番》との共通点。プログラムの始めと終わりで、クラリネットが大活躍します。なぜこの楽器がこれほど特別な扱いされたかというと、やっぱりベニー・グッドマンがいたから。彼のビッグバンドのクラリネットのサウンドを知っていたから、バーンスタインもマルケスも、こんなに魅力的なソロを書いたんだと思う。

原田慶太楼

白人、ラテン、黒人作曲家の作品が共存するプログラム

―意欲的な曲が並ぶ中で、特に目を引くのが、日本ではめったに演奏されない黒人作曲家G.ウォーカーの《弦楽のための叙情詩》です。「ブラック・ライヴズ・マター」がニュースになる中、タイムリーな選曲と言えますね。世の中の動きを意識したコンサート・プログラムはとても重要だと思います。

原田:白人のバーンスタイン、コープランド、ラテンのピアソラ、マルケスときたら、アメリカを語る上でもう一つはずせないのが黒人の作曲家ということで、ウォーカーを紹介したいと思いました。

みんな「アメリカ合衆国」なのですよね。マルケスはメキシコ人だけど、12歳のときにロサンゼルスに引っ越して、そこで育っているし、ピアソラも生まれはアルゼンチンだけど、5歳からニューヨークだから、やはりアイデンティティはアメリカ。

今でも生きているマルケスとか、最近まで生きていたウォーカー、ピアソラは、コープランドやバーンスタインに会ったことがあるはずだし、彼らの音楽を肌で感じていたんじゃないかな。明らかにお互いの音楽が刺激を与えあっていて、だからこそ面白いと思います。

コープランドやバーンスタインの作品が1944年、いちばん最近の《ダンソン第2番》が1994年。どうしてこんなに短いスパンの中で、しかも同じ国でありながら、これだけ違った音楽が書けるのか、本当に興味深いですよね。

―《ダンソン第2番》は《マランボ》に続いて、原田さんのトレードマークになりつつありますね。

原田:そうですね。僕はメキシコの国境まですぐそこのアリゾナに住んでいたし、メキシコのオーケストラのタイトルを持って、マルケスやピアソラをたくさん振ってきました。マルケスをよく知る指揮者からも色々伝授してもらっているし、楽譜に書いてないけど、なぜだかわかる、ということはあるかも知れない。だからこそ、日本のオーケストラに紹介したいというのはあります。そこに僕と共演する意味があるのかなあと思います。

結局、これまでの人生の半分以上をアメリカで過ごしてきて、僕がいちばん強くオファーできるのは、アメリカ南部やメキシコに住んでいた人間だからこそ紹介できる、こういう音楽かなと思う。そこで勝負しなきゃ、どこで勝負するのってことになりますしね。

―最後に、N響ファンの皆様に向けて熱い思いを。

原田:とにかく2週続けて、両方とも来てもらいたい(笑)。「One or other」 じゃなくて「Both」。それがmustだと思うなあ。両方のプログラムを、しかもこの順番で聴くことで、改めてアメリカ音楽の多様性とエンターテインメント性が感じ取れるし、情熱的にもなれるし、きっと心が動くはずです。

原田慶太楼

―セット割引もありますしね。

原田:その通り。絶対に忘れられない演奏になると思います。N響との2週間で、衝撃的に面白いことをやりたい。それくらいの自信を持って臨みます!

 


指揮:原田慶太楼
Keitaro Harada, conductor

指揮:原田慶太楼1985年東京生まれ。オハイオ州インターロッケン芸術高校で、指揮をフレデリック・フェネルに師事。ロシアのサンクトペテルブルクでも指揮を学ぶ。2009年創設者ロリン・マゼールの招きでキャッソルトン音楽祭に、2010年音楽監督ジェームズ・レヴァインの招聘によりタングルウッド音楽祭に、2011年には芸術監督ファビオ・ルイージの招請によりパシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌と、著名な教育音楽祭に続けて参加。これまでに、ロバート・スパーノ、マイケル・ティルソン・トーマス、オリバー・ナッセン、ヘルベルト・ブロムシュテットなどに師事。
20歳でジョージア州のメーコン交響楽団アシスタント・コンダクターに就任したのを皮切りに、プロ・オーケストラでのキャリアを開始。2006年にはモスクワ交響楽団で指揮者デビュー。2015年から4年間にわたりシンシナティ交響楽団および同ポップス・オーケストラのアシスタント・コンダクターを務めた。2020年シーズン、ジョージア州サヴァンナ・フィルハーモニックの音楽・芸術監督に就任。2021年4月に東京交響楽団正指揮者に就任予定。
N響との初共演は2019年8月の「フェスタサマーミューザKAWASAKI」と「N響ほっとコンサート」。今回はそれ以来の共演となる。

 


公演情報

NHK交響楽団 11月公演 東京芸術劇場
2020年11月20日(金)開演:7:00pm 
2020年11月21日(土)開演:2:00pm
東京芸術劇場

指揮:原田慶太楼
ヴァイオリン:神尾真由子
コリリャーノ/航海
バーバー/ヴァイオリン協奏曲 作品14
ドヴォルザーク/交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」

 

NHK交響楽団 11月公演 サントリーホール
2020年11月25日(水)開演:7:00pm 
2020年11月26日(木)開演:7:00pm
サントリーホール

指揮:原田慶太楼
バーンスタイン/「オン・ザ・タウン」─「3つのダンス・エピソード」
G.ウォーカー/弦楽のための叙情詩
ピアソラ/タンガーソ(ブエノスアイレス変奏曲)
コープランド/バレエ組曲「アパラチアの春」
マルケス/ダンソン 第2番