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2020年7月21日

N響ホルン・セクション(福川伸陽、今井仁志、勝俣 泰、石山直城)に聞く
―― シューマン《4本のホルンのための小協奏曲》をめぐって

インタビュアー・文:山田治生/撮影:平舘平

 

NHK交響楽団 9月公演ではシューマン《4本のホルンのための小協奏曲》をとりあげる。ソリストを務める4人のホルン奏者がこの楽曲に寄せる想いと、N響ホルン・セクションについて語った。

 

─ シューマン《4本のホルンのための小協奏曲》との出会いや今回の公演についてお聞かせください。

 

石山 高校2年生のとき、『N響アワー』で聴いたヘルマン・バウマンの演奏1を聴いたときの衝撃は大きかったですね。ホルンであんなに高い音が出るはずがない、これは絶対に自分の聴き間違いだと思いました。今回、僕は4番パートを吹くのですが、4人のサウンドをまとめる役として1番から3番までをサポートします。また、4番だけちがう動きもします。

 

石山直城
石山直城。静岡県出身。2013年にNHK交響楽団入団。

 

勝俣 思い出深い録音といえば、ゲルト・ザイフェルトですね。鮮やかな演奏で、高音のA(ラ)の音がこんなにしっかりと聴こえたものはないと思いました。今でもたまに引っ張り出して聴くこともあります。僕が担当する3番ホルンもサポートにまわることが多いかな。オーケストラのホルンでは、ほとんど1番と2番、3番と4番がそれぞれ組み合わされていて、3番は高い音を担当することが多いのですが、この曲では1、2、3、4番の順に高音域が割り当てられていて、3番は下から2番目の低音を吹くことが多いですね。

 

勝俣 泰
勝俣 泰。東京都出身。2006年にNHK交響楽団入団。

 

今井 一番はじめに聴いたのは高校3年生のころです。ホルンで最高音といわれているのはハイF(高いファの音)ですが、この曲ではさらに高いハイA(高いラの音)が出てくるのです。ハイFを出すのもままならないころに聴いたザイフェルトの録音は衝撃的でした。そしてそのハイAが一番大きい音なんですよ(笑)。でも僕が担当する2番ホルンはハイFまで。1番に比べるとちょっと気楽です(笑)。N響のメンバーでどのようなシューマンが演奏できるか今から楽しみです。

 

今井仁志
今井仁志。愛媛県出身。2000年にNHK交響楽団入団、現在首席奏者。

 

福川 たぶん、初めてオーケストラと一緒に演奏した協奏曲がこの曲です。日本フィルハーモニー交響楽団の演奏会(2006年7月)で、そのときは2番を吹きました。金管楽器の協奏曲はパワーが第一みたいなところがありがちで、どうしても大きな音や高い音に注目が行きますが、シューマンは、力で押すタイプの作曲家ではありません。N響ではすばらしい指揮者とシューマンの交響曲を共演してきているので、そういう方向から解釈を深めていきたいと思っています。

 

福川伸陽
福川伸陽。神奈川県出身。2013年にNHK交響楽団入団、現在首席奏者。

 

─オーケストラにおけるホルンという楽器の背景や役割は?

 

石山 ナチュラル・ホルン2の時代、オーケストラで用いられるホルンは基本的に2本編成でした。楽器の構造上、基本的にひとつの調しか演奏できなく、調を変えるためには管を差し替える必要がありました。交響曲の展開部など転調にも対応できるよう別の調性の楽器を2本足して4本にしたのはベートーヴェンやブラームスのあたりだと思います。オーケストラのホルンが基本的に1番上・2番下・3番上・4番下と交互になっているのは、こういった背景からだと思います。モーツァルトも例外的に《交響曲第25番》3で4本を使っていますが、これは曲が短調だからですね。自然倍音だけでは長調になってしまうので、G管(3・4番)とB♭管(1・2番)を組み合わせてト短調を作りだしています。モーツァルトは天才ですね。

 

福川 その後、ナチュラル・ホルンとすべての調を演奏できるヴァルヴ・ホルンが混在していた過渡期は長かったのです。たとえば、サン・サーンスの《交響曲第3番》(1886)では、1・2番がナチュラル・ホルン、3・4番がヴァルヴ・ホルンで演奏します。ナチュラル・ホルンからヴァルヴ・ホルンに変わったことで決定的なことは、1・2番と3・4番との間で音色感を統一できるようになったことです。例えば、先ほどのモーツァルトの例のように、1・2番がG管で、3・4番がB♭管だとすると、当然音色も違う。それが全員ヴァルヴになって4人でより濃密なひとつのハーモニーを作ることができるようになりました。

 

─今回の《4本のホルンのための小協奏曲》はヴァルヴ・ホルンでないと演奏できないのですか?

 

石山 ヴァルヴ・ホルンでないと演奏不可能です。

 

今井 この曲のソリスト4人は、協奏曲のソリストというより、オーケストラの中の4人が前にいるという感じです。ソリスティックなパッセージはいっぱいありますが、いつものオーケストラの中でハーモニーを作っている感覚や僕らのセクションの良さを表現したいと思っています。

 

勝俣 ソリスト4人以外にもオーケストラの中にホルンが2本いるので、曲全体でホルンは6本なのです。

 

今井 4番ホルンは、石山さんが言われたように、ひとりだけ違うことをやっているので、そこも聴きどころだと思います。4番のハーモニーを作るための動きがすごくカッコいいんです。作曲された当時は、ホルンは1・2番、3・4番という2本と2本で括られるのが一般的で、1・2・3番が同じ動きをして4番だけがちがう動きをするというのはめずらしかった。

 

勝俣 シューマンは、ホルンの使い方に関して既成概念にまったくとらわれていなかったのです。

 

─N響のホルン・セクションの特徴はどんなところですか?

 

勝俣 すごく仲が良いところ。過去にみんなでイタリアに遊びに行ったことがあり、数日一緒にローマやバチカンに行きました。今日しているネクタイはそのときローマで買ったものです(笑)。プロがそんな仲良し集団である必要があるかはわからないですが、気心の知れた仲間と一緒に音を紡いでいくというのは気持ちが良いことです。

 

今井 楽器がひとりひとりちがうのがN響の特徴だと思います。普通、セクションで同一のメーカーで揃(そろ)えているオーケストラが多いのですが、僕らは自分の好きな楽器をそれぞれ使って、でもちゃんと音質を合わせる。音の方向性がみな一緒だから大丈夫なんです。N響の音質は、英語でダーク・トーンという、暗いというより太いというか、どちらかというと温かい音を目指しています。

 

石山 サウンドの横のつながりを重視する、昔からの伝統があります。何も言わなくても同じ方向を向けるというのは、N響の大きな特徴かなと思います。

 

福川 僕の役割は音楽の方向性を示すこと。音色は、2、3、4番の人たちが作ってくれるので、そこにポンと乗るだけでいい。僕自身がセクションの音色をどうこうしようとは思ったことはありません。基本的には意識の共有ができているから、何も言わなくても僕の演奏を聴いて、すっと寄せてくれます。

 

─オーケストラ作品でホルン奏者として好きな作品は?

 

石山 演奏するのも聴くのもプロコフィエフは好きですね。《ロメオとジュリエット》や《シンデレラ》。

 

勝俣 一番思い入れが強いのはマーラーの《交響曲第9番》ですね。命を削りながら吹いている感覚があります。近年ではセクションとして喜びを感じ、演奏して幸せだと思ったのはマーラーの《交響曲第5番》ですね。

 

今井 ブラームスの楽曲は、自身がホルンを吹けただけあって、ホルン奏者だったらこの旋律をどういう気持ちで吹くのかをわかって書いている感じがします。だからブラームスと一緒に吹いているみたいな感じがするのです。

 

福川 僕は、モダン楽器だけでなく、ピリオド楽器(ナチュラル・ホルンやバロック・ホルン)も演奏するので、ピリオド楽器のときはバッハが一番好きですね。モダン楽器だと、ブラームス、マーラー、R.シュトラウス。ドビュッシーやラヴェルなどのフランス音楽の目立たないところでふわぁって吹いているのも大好きです。

 

インタビュー:2020年3月NHK交響楽団高輪演奏所にて

 

N響ホルン・セクション

 

1…『N響アワー』:1982年6月23、24日に行われた第875回N響定期公演(NHKホール)の放送映像を指す。ヘルマン・バウマンは1番パートを務め、2~4番パートはN響ホルン奏者(田中正大、松﨑 裕、山本 真)が担当した

2…ヴァルヴがなく、基本的に自然倍音を出すホルン

3…モーツァルトの交響曲のなかで短調は《第25番》と《第40番》のみである

 


[公演情報]

NHK交響楽団 9月公演 サントリーホール
2020年9月23日(水)開演:7:00pm9月24日(木)開演:7:00pm
サントリーホール

指揮:下野竜也
ホルン:N響ホルン・セクション(福川伸陽、今井仁志、勝俣 泰、石山直城)

シューマン/4本のホルンのための小協奏曲 ヘ長調 作品86
コダーイ(下野竜也編)/ミゼレーレ
シューマン/交響曲 第4番 ニ短調 作品120