チャイコフスキー (1840 - 1893)

交響曲 第4番 ヘ短調 作品36 (約43分)

指揮:ウラディーミル・アシュケナージ
管弦楽:NHK交響楽団

 

2012年6月9日収録

© NHK

 本作は1877年のほぼ1年間を費やして作曲された。この時期は露土戦争が勃発(ぼっぱつ)し、チャイコフスキーは強い不安を抱いていたという。さらに、私生活においては、ミリュコーヴァという女性と結婚するも、すぐに破局。精神的な危機を経験した。この交響曲の主題は「運命」であり、運命に疲弊(ひへい)した状態から希望へ向かうという図式が見られるが、そこにこの社会的危機と精神的危機が多かれ少なかれ反映されていると考えられる。
 また、この曲が生まれた背景として、ナジェジダ・フォン・メックという大富豪の未亡人がこの年にチャイコフスキーへ莫大な経済支援を申し出たことも挙げられる。経済面の不安から作曲家は解放され、大作の作曲に集中することが可能になったのである。チャイコフスキーは感謝の気持ちからこの曲の楽譜に「わが最良の友に」と献辞を記した。また、メック夫人への手紙で本作を「我々の交響曲」と呼び、作品の標題内容を詳しく伝えている。以下、そこでの作曲家の言葉を引用しながら、各楽章の内容を見よう。
 第1楽章 アンダンテ・ソステヌート、3/4拍子─モデラート・コン・アニマ、9/8拍子、ヘ短調、ソナタ形式。冒頭のファンファーレのモチーフは「幸福の追求を妨げる運命の力」であり、曲全体の核となる。第1主題は憂鬱(ゆううつ)な感情に満ち、第2主題は儚(はかな)い夢を表す。人生が、過酷な現実と儚い幸福の夢が果てしなく交替するものとして描かれる。
 第2楽章 アンダンティーノ・イン・モード・ディ・カンツォーナ、2/4拍子、変ロ短調、3部形式。「仕事に疲れ、本を手にひとり座っているが、知らぬうちに落としてしまう、そのような晩方に感じるメランコリー」が描かれる。
 第3楽章 スケルツォ:ピチカート・オスティナート:アレグロ、2/4拍子、ヘ長調、複合3部形式。この楽章は「特定の感覚を表さず」、「気まぐれなアラベスク」のよう。
 第4楽章 終曲:アレグロ・コン・フオーコ、4/4拍子、ヘ長調、ロンド形式。「自分自身の中に喜びを見出せないのなら、周りを見渡し、民衆の中に入りなさい」、「他人の喜びの中で喜びなさい。そうすれば生き続けることができる」。これが、運命に苦しむ人間の救いに関するチャイコフスキーの答えである。旋回する力強い第1主題、ロシア民謡《白樺は野に立てり》に基づく第2主題、陽気な民衆の踊りの第3主題、この3つの主題が繰り返し奏される。その後、第1楽章冒頭の「運命」のモチーフが威嚇(いかく)するように現れるが、この陽気な3つの主題によって追い払われ、高揚して曲が閉じられる。

作曲年代:1877年初頭〜1878年1月9日(旧ロシア暦1877年12月28日)
初演:1878年2月22日(旧ロシア暦10日)、ニコライ・ルビンシテイン指揮、ロシア音楽協会モスクワ支部交響楽演奏会にて

(高橋健一郎)