グラス (1937 -)

2人のティンパニストと管弦楽のための協奏的幻想曲(2000)(約27分)

 フィリップ・グラスは、1960年代後半のアメリカで生み出されたミニマル音楽を代表する作曲家である。限定された和音やリズムの動機を延々と反復しながら、徐々に動機どうしが多層的に重なり合い、ずらされながら、全体的音響が変化していくのがミニマリズムの特徴だが、グラスの場合には、シタール奏者ラヴィ・シャンカルとの出会いがきっかけで、インドの音楽理論や時間感覚からの影響を強く受けており、日常的な時間感覚を超越したかのように、極彩色の万華鏡のような音響が息長く持続する。
 そのグラスも82歳となり、かつての異端児もいまや大御所的存在である(2012年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞)。数々の映画音楽やロック歌手デヴィッド・ボウイとのコラボレーションなど、ジャンルをまたいだ創作活動はいかにもアメリカ的であり、ミニマル音楽のもつ良い意味での大衆性を最大限に展開した点に、グラスの功績があるといえよう。
 《協奏的幻想曲》は、アメリカのヴィルトゥオーゾ・ティンパニ奏者ジョナサン・ハースのために2000年に作曲された。クラシックのみならずジャズやロック、そして現代音楽まで幅広いジャンルで活躍するハースは「ティンパニのパガニーニ」と称えられ、その超絶テクニックはこの曲の独奏パートに遺憾(いかん)なく発揮されている。
 第1楽章は拍を3+3+4に分割した10/8拍子と、落ち着いた3/4拍子が交差しながら進み、リズム優位の音楽から次第に音階状の旋律が発生していく。
 第2楽章は暗い緊張感に貫かれた緩徐楽章であり、ティンパニのリズムに支えられた息の長い旋律を背景に、小さなリズム動機が、アルペッジョから上下に動く音階へと成長しながら、じっくりと大きなクレシェンドを形成する。音楽が落ち着いた後、2人のティンパニストと打楽器群によるカデンツァがつづき、そのまま次の楽章へとつづく。
 第3楽章は、第1楽章に似て4/4拍子と7/8拍子が交差しながら進むが、全体的な音響はアジア的な祝祭感に満たされている。

作曲年代:2000年
初演:2000年11月19日、ジョナサン・ハース、スヴェトスラフ・ストヤノヴィの独奏、レオン・ボツタイン指揮、アメリカ交響楽団、ニューヨーク

(千葉 潤)