ベルリオーズ (1803 - 1869)

序曲「ローマの謝肉祭」作品9 (約9分)

 エクトル・ベルリオーズは、楽器の音色ひとつひとつに劇的な意味をもたせた最初期の作曲家である。《序曲「ローマの謝肉祭」》の土台となった《歌劇「ベンヴェヌート・チェッリーニ」》は、1838年9月10日にパリのオペラ座で初演されたが、明らかな失敗に終わった。しかし16世紀ローマの謝肉祭を背景とするこのオペラから引用した主要主題と楽器法の秀逸さが、《ローマの謝肉祭》の成功を決定づけている。
 冒頭を飾るのは、オペラ第1幕の謝肉祭の場面から転用したサルタレッロ(イタリアの民俗舞踊)の音楽である。その後、オペラの愛の二重唱から引用された、イングリッシュ・ホルン独奏による叙情的な歌が続く。序曲の作曲時に出版された『現代楽器法および管弦楽法』の中で、ベルリオーズはイングリッシュ・ホルンの特徴を「メランコリックな、夢見るような声であり、常に気高く、過去の感情やイメージを思い起こさせるような“遠い”響きにふさわしい」と表現している。この旋律が他の木管楽器と弦楽器に受け渡されると、タンブリンをはじめとする打楽器が加わって楽しげなマーチを演出し、どこか郷愁を残しつつも祭りへと戻っていく。アレグロ・ヴィヴァーチェ(急速に)の部分に入り、軽快に拍を刻む新しい主題が登場する。この主題と冒頭部サルタレッロの主題、そして上述の歌の旋律が絡み合い、一体となってフィナーレまで駆け抜ける。フランス管弦楽の基盤を築いたベルリオーズの才能が、見事な主題法に表れている。

作曲年代:1843~1844年
初演:1844年2月3日、作曲家自身の指揮、パリ、サル・エルツ

(安川智子)