シベリウス (1865 - 1957)

交響詩「フィンランディア」作品26(男声合唱付き)(約8分)

 1900年に初演された交響詩《フィンランディア》(作品26)は、フィンランドの作曲家シベリウスの代名詞ともいえる作品であり、今日まで世界中で広く愛好されてきた。
 この作品は、1899年に委嘱を受けた舞台劇『歴史的情景』の最後を飾る「フィンランドは目覚める」の付随音楽を原曲としている。翌1900年、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団のパリ万博遠征公演のプログラムで演奏するため、シベリウスは上記の付随音楽を劇から切り離し、単独の交響詩《フィンランディア》へと改編。ただし同年7月2日にヘルシンキで初演された際は、支配国ロシアの厳しい検閲を配慮して「スオミ」(フィンランド語で「フィンランド」の意味)のタイトルが用いられている。およそ1か月間におよんだパリ万博遠征公演中、より一般的な「祖国」というタイトルで披露された《フィンランディア》はヨーロッパ各地で取り上げられ、シベリウスの国際的評価の確立に大きく貢献した。
 19世紀フィンランドの苦難に満ちた時代を壮大な活人画で描いた「フィンランドは目覚める」は、「ロシア帝国の理不尽な圧政に対抗するフィンランド、その輝かしい未来」を主要なコンセプトとしている。《フィンランディア》もその内容を受け継いでおり、当時のフィンランドの異様な「閉塞感」と、皮肉にもその反動によって生じた激しい「高揚感」が、とても説得力ある形で表現されている。
 作品は金管楽器の咆哮(ほうこう)で重々しく始まる。悲劇的な雰囲気が満ちあふれていくなか、やがて猛々(たけだけ)しい闘争のファンファーレも聞こえてくる。すると一転して明るい曲調になり、勇壮な調べと敬虔(けいけん)な賛歌の対比を軸にしながら、クライマックスのコーダへ向けて力強く駆け上がっていく。なお、曲の中間部に現れる有名な賛歌の旋律は後に無伴奏合唱曲《フィンランディア賛歌》(歌詞はコスケンニエミとソラのものがある。前者の方が有名で、今回はコスケンニエミのものが使われる)へと改編され、人びとに大変親しまれるようになる。指揮者レオポルド・ストコフスキーはその美しい旋律を「全世界の国歌」と呼んだ。まさにストコフスキーのいうように、この清冽(せいれつ)な旋律にはシベリウスという作曲家の美質がすべて織り込まれており、人びとの心を捉えてやまない不思議な魅力にあふれている。
 今回の演奏は、オリジナルの交響詩版に《フィンランディア賛歌》の合唱を組み合わせる形で行われる。この興味深い演奏形態は、かつてユージン・オーマンディ率いるフィラデルフィア管弦楽団が1950年代に録音。力強い管弦楽に巨大な合唱が加わることで、より荘厳かつ記念碑的な姿へと曲全体が変化している点が、大いに注目されよう。

作曲年代:1899~1900年
初演:1900年7月2日、ヘルシンキ、ロベルト・カヤヌス指揮、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団

(神部智)