リムスキー・コルサコフ (1844 - 1908)

交響組曲「シェエラザード」作品35 (約46分)

 ロシアの軍人貴族の家系に生まれたリムスキー・コルサコフは、海軍士官学校時代(1856~1862)にバラキレフ(1837~1910)と知り合い、国民楽派「五人組」の一員となった。バラキレフの指導のもとで《交響曲第1番》(1865年)を書き始めるも、未完のままで士官候補生として遠洋航海に出発するなど、その後も海軍軍人として職務を果たしながら創作活動を続けた。やがて作曲に専念するようになり、1871年にサンクトペテルブルク音楽院教授に就任する。専門的な音楽教育は受けていないが、豊かな才能を開花させ、管弦楽法の大家としてロシア内外の作曲家に大きな影響を与えた。その手腕は編曲などにおいても発揮され、かつての「五人組」の仲間の作品を甦(よみがえ)らせた。ムソルグスキー(1839~1881)の《交響詩「はげ山の一夜」》のオーケストレーションや《歌劇「ホヴァンシチナ」》の補筆、ボロディン(1833~1887)の未完の《歌劇「イーゴリ公」》も、グラズノフ(1865~1936)とともに完成させた。
 こうした作業のなかで、新たな作品のアイディアを得ることもあった。1888年に作曲された《交響組曲「シェエラザード」》は、《イーゴリ公》の補筆作業を手がけるなかで着想された。どちらも東洋風の異国情緒にあふれ、雄大さと力強さが広がる。リムスキー・コルサコフは、『千一夜物語(アラビアン・ナイト)』を題材にし、この物語を「女性に不信の念を抱くシャフリアール王は、毎夜、女性と一夜を共にしては翌朝、殺害してきた。新しい妃になるシェエラザードは、千一夜の間、不思議な物語を聞かせ続け、王に残忍な考えを捨てさせた」と紹介している。そして、初演の際に作曲者が楽団員に説明した内容などから、第1楽章は「海とシンドバッドの船」、第2楽章は「カレンダー王子の物語」、第3楽章は「若い王子と王女」、第4楽章は「バグダッドの祭り─海─船は青銅の騎士のある岩で難破」といったタイトルをもつと考えられている。
 特殊楽器を含まない2管編成にもかかわらず、絢爛(けんらん)豪華に鳴り響くオーケストレーションは、リムスキー・コルサコフならではである。第1楽章のシャフリアール王とシェエラザードの主題は、その後も各楽章に現れ、循環主題として楽章を有機的に結び付け、第1楽章と終楽章の海の描写は、海軍時代の経験が生かされているとも言われる。
 第1楽章 ラルゴ・エ・マエストーソ。荒々しい響きのシャフリアール王の主題で始まり、続いて独奏ヴァイオリンがゆるやかに優美なシェエラザードの主題を奏でる。主部(アレグロ・ノン・トロッポ)は、波打つような海の様子が描かれ、フルートによるシンドバッドの主題が現れる。海は大きくうねりをあげ、シャフリアール王やシェエラザードの主題も現れる。
 第2楽章 レント。冒頭の独奏ヴァイオリンのシェエラザードの主題が、新たな物語の開始を伝える。カレンダー王子の主題(アンダンティーノ)は、ファゴットで滑稽(こっけい)な表情を見せながら現れ、各楽器に受け継がれる。金管楽器の鋭いファンファーレ(アレグロ・モルト)で緊迫感が増すが、カレンダー王子の主題とともに陽気な音楽が戻ってくる。
 第3楽章 アンダンティーノ・クワジ・アレグレット。若い王子と王女の夢見るようなロマンチックな音楽。弦楽器が官能的な美しい旋律を歌う主部に対して、中間部は、小太鼓のリズムにのせてクラリネットが快活な主題を奏する。作曲者によれば、後半は、独奏ヴァイオリンのための楽章で、シェエラザードの主題も現れ、技巧的にも発展する。
 第4楽章 アレグロ・モルト。第1楽章のシャフリアール王の主題が再現され、シェエラザードの主題が続く。賑(にぎ)やかな祭りとなり、これまでの楽章の主題が回想される。第1楽章の海の情景が戻ってくると、嵐に襲われ船は難破する。最後(レント)は、優しく語りかけるシェエラザードの主題に、シャフリアール王の主題が重なり、全曲を締めくくる。

作曲年代:1888年
初演:1888年11月3日(ロシア旧暦10月22日)、サンクトペテルブルク、作曲者自身の指揮

(柴辻純子)