ベートーヴェン (1770 - 1827)

交響曲 第6番 ヘ長調 作品68「田園」 (約40分)

 自然をこよなく愛したベートーヴェンは散歩を日課とし、心の寄りどころとしていた。本作では、自然の情景と結びついた標題的な要素が音楽に採り入れられ、ベートーヴェンはそれを、聴き手の想像力を刺激するきっかけと考えていた。楽譜には「田園交響曲、あるいは田舎での生活の思い出。音画というよりも感情の表出」と記され、音楽による自然の描写ではなく、感情の表現であることを強調した。これは、シュトゥットガルトの宮廷楽長だったユスティン・ハインリヒ・クネヒト(1752~1817)の《交響曲「自然の音楽的描写」》(1784)が、当時人気を集めていたので(クネヒトの交響曲も5楽章構成だった)、ベートーヴェンは、自分の交響曲は流行の作曲家のものとは違う、という思いをその言葉に込めたかったのかもしれない。
 第1楽章〈田舎に着いたときに、人々の心に生まれる心地よく朗らかな気持ち〉 アレグロ・マ・ノン・トロッポ、ヘ長調、2/4拍子。ソナタ形式。ヴァイオリンの穏やかな第1主題で曲は始まる。4小節目のフェルマータが効果的で、楽章タイトルの晴れやかな気持ちのまま、深呼吸するかのようだ。なだらかな第2主題とともに爽(さわ)やかな気分が広がる。
 第2楽章〈小川のほとり〉 アンダンテ・モルト・モート、変ロ長調、12/8拍子。ソナタ形式。澄んだ小川のせせらぎを思わせるヴァイオリンの第1主題が美しい。最後のコーダではナイチンゲール(フルート)、ウズラ(オーボエ)、カッコウ(クラリネット)の声が模倣される。
 第3楽章〈田舎の人々の楽しいつどい〉 アレグロ、ヘ長調、3/4拍子。軽やかな3拍子の主部と民俗舞曲風の活発なトリオ(変ロ長調、2/4拍子)が交替するスケルツォ楽章。この楽章から終楽章まで、後半は切れ目なく演奏される。
 第4楽章〈雷と嵐〉 アレグロ、ヘ短調、4/4拍子。遠くで雷鳴が鳴り響き、近づく嵐の様子が克明に描かれる。この楽章で初めてトロンボーンとピッコロ、ティンパニが加わる。
 第5楽章〈牧歌 嵐のあとの神への感謝に満ちた、寛大な気持ち〉 アレグレット、ヘ長調、6/8拍子。ロンド形式。嵐が去った後の情景。開始のクラリネットとホルンの牧歌的な旋律は、アルペンホルンの響きを模したとも言われる。そこからロンド主題が導き出され、新しい主題をはさみ展開する。最後は強奏の和音で締めくくられるが、そこまで弱音で静かに進められるのは、古典派の交響曲としては、珍しい終わり方である。
 今回の演奏ではベーレンライター版が使用される。

作曲年代:1807年暮れ~1808年8月、ウィーン
初演:1808年12月22日、アン・デア・ウィーン劇場にて、作曲家自身の指揮による

(柴辻純子)