モーツァルト (1756 - 1791)

交響曲 第38番 ニ長調 K.504「プラハ」(約28分)

 3楽章からなるために「メヌエットなし」とも呼ばれるこの交響曲を、モーツァルトは1786年末にウィーンで作曲し、自筆の作品目録には「12月6日」の日付と共に書き込んでいる。この年の5月に初演された《歌劇「フィガロの結婚」》は、その根底にある「貴族批判」のためにウィーンでは成功しなかったが、ボヘミアの都プラハでは大成功を収めた。そこでモーツァルトは翌1787年1月8日、妻のコンスタンツェらと共にプラハへの旅行に出かける。プラハでのモーツァルトは《フィガロの結婚》をみずから指揮したほか、1月19日に国民劇場でこの交響曲を演奏している。この作品が「プラハ」の名で呼ばれるのには、こうした事情がある。しかし、このときが初演であったかどうかは定かではない。むしろ待降節にウィーンでの予約演奏会において、すでに初演されていた可能性がある。
 ソナタ形式の第1楽章は、アダージョの劇的な序奏によって幕が開けられ、シンコペーションのリズムが特徴的なニ長調の第1主題が登場する。第2主題はイ長調の優雅な旋律。展開部が主題の対位法的処理によって深遠な世界を見せたあと、ふたたびシンコペーションのリズムが再現部を告げている。
 アンダンテの第2楽章もソナタ形式。ト長調、6/8拍子の第1主題はまさにモーツァルトの独壇場ともいえる美しい旋律。ホ短調の間奏を経て現れる第2主題もニ長調のしなやかな旋律だが、拍子の裏から入ることによって、第1主題との対照性が計られてい る。大胆な転調が続く展開部など、変化と驚きに満ちた緩徐楽章である。
 第3楽章プレストは、《フィガロ》第2幕のスザンナとケルビーノの早口の対話を思わせるニ長調2/4拍子の弾けるような第1主題が支配するロンド・ソナタ形式で書かれている。イ長調の第2主題も、弦と管の対話が楽しい。そしてもっぱら第1主題を素材とした 展開部からは息をもつかせぬ盛り上がりで、一気に曲が締めくくられる。

作曲年代:1786年12月6日完成
初演:1786年12月ウィーンでの予約演奏会または、1787年1月19日、プラハ国民劇場でのモーツァルト演奏会

(樋口隆一)