ハイドン (1732 - 1809)

交響曲 第102番 変ロ長調 Hob.I‒102(約24分)

 ヨーゼフ・ハイドンが「交響曲の父」と呼ばれるのには、もちろん理由がある。エステルハージ侯爵家に奉職した約30年間に手がけられた数多くの交響曲によって、聴き手が自明のこととして共有するこのジャンルの様式が形成された。
 長年にわたって培ってきたハイドンの創意は、パリやウィーンにおいて少しずつ識(し)られるようになっていくが、その人気はロンドンで爆発する。2度の渡英(1791~1792、1794~1795)では6曲ずつ、計12曲の交響曲を披露し、圧倒的な成功を収めるに至った。《102番》は滞在最後の年にロンドンで初演されるが、数々の協奏曲や声楽曲の中で「大序曲」という触れ込みで演奏されたのが目を惹(ひ)く。交響曲がいまあるような形で定着するようになったのは、ハイドンのさまざまな工夫を聴き取ることのできる、イギリスの聴衆による圧倒的な支持が背景にあったのだろう。
 本格的な序奏の後に軽快に始まる第1楽章(変ロ長調)では、展開部から再現部に入る前にハイドンお得意の「疑似」再現部が置かれ、ウィットに富んだ人柄が偲(しの)ばれる。緩徐楽章となる第2楽章(ヘ長調)では、3つの変奏を有する変奏曲をチェロの独奏が彩る。第3楽章(変ロ長調)は優雅なメヌエットと素朴なレントラーが好対照を成し、第4楽章(変ロ長調)では再現部が短く取られた分、展開部で複雑な対位法的書法が垣間見られ、堂々たるコーダが曲を華々しく締めくくる。新しい時代を切り拓こうとしたハイドンの創意は、多くの後進作曲家たちに受け容れられていくことになる。

作曲年代:1794年
初演:1795年2月2日、ロンドン「オペラ・コンサート」

(広瀬大介)