ヨハン・シュトラウスII世 (1825 - 1899)

ワルツ「南国のばら」作品388(約9分)

 喜歌劇に進出して以降のヨハンは、自作の喜歌劇のなかに登場する楽曲をつなぎ合わせ、それを新作のダンス音楽として発表することが多くなっていった。《ワルツ「南国のばら」》もそのひとつで、彼の第7作目の喜歌劇である《女王のレースのハンカチーフ》に登場するメロディを基としている。ヨハンが作ったほとんどの喜歌劇の例にもれず、当喜歌劇そのものは忘れられてしまって久しいが、そこから編み出されたダンス音楽はその後も人気を博し続けており、《南国のばら》もその一例にほかならない。
 曲名は、このワルツがイタリア国王ウンベルト1世(1844~1900)に献呈されたことに由来する。経緯としては、ウンベルト1世が《女王のレースのハンカチーフ》を気に入っていることを伝え聞いたヨハンが、同作品に基づいて新たにワルツを作り、イタリアを想起させる題名に仕立て上げた。喜歌劇中に登場する三重唱〈野ばらが花咲くところ〉が、当ワルツに採り入れられている点も、この曲名が誕生した背景にあるだろう。
 優美ではあるものの、そこはかとない哀愁が漂う。これは、シュトラウス兄弟のワルツの特徴だが、当時の彼が置かれていた状況も、華やかな曲名を戴(いただ)く本作の裏側に濃い影を作り出したといえないだろうか。1878年、ヨハンは1人目の妻の死から程なく、25歳も年下の女性と電撃結婚するも、ふたりの関係は早々に悪化。やがては妻の駆け落ち騒動にまで発展する一触即発の状況のなかで、麗しき《南国のばら》は花咲いた。

作曲年代:1880年
初演:1880年11月7日、エドゥアルト・シュトラウスI世指揮、シュトラウス管弦楽団、ウィーン楽友協会

(小宮正安)