ヨーゼフ・シュトラウス (1827 - 1870)

ワルツ「うわごと」作品212(約8分)

 ヨハンの弟であるヨーゼフ・シュトラウスは、人気ダンス作曲家として多忙をきわめ身体をこわしかけた兄のピンチヒッターとして、工学技師のキャリアを投げ打ってこの世界に入り、やがてヨハンと並ぶ人気を得るようになった。
 《うわごと》は、1867年の作品。先述したとおり、1866年にオーストリア帝国はプロイセン王国と戦い、敗れ去る。首都のウィーンは敗戦の報に沈み、翌年の舞踏会シーズンは一挙に冷え込んだ(なお、そんなウィーンっ子を励ますべく兄ヨハンが作ったワルツこそ、《美しく青きドナウ》である)。こうした状況のなか、医師たちが主催する医学舞踏会は例年のように開かれ、新作のダンス音楽もヨーゼフに委嘱されたのだが、そこで彼に示されたお題こそ、暗い世相を反映した「うわごと」。ヨーゼフもそれに応え、舞踏会で踊られるワルツのイメージを裏切るような、陰鬱(いんうつ)で幻想的な序奏のついた曲を書き上げた。
 19世紀後半になると、シュトラウス兄弟のワルツは、踊るためのみならず、交響曲あるいは交響詩をも彷彿させる、聴く作品としての様相を帯びてゆく。特にヨーゼフは、「ワルツのシューベルト」と呼ばれるほどの叙情的な作風を得意としていた。そうした彼の特徴がもっとも鮮やかにあらわれたのが、本作ではなかったか。

作曲年代:1867年
初演:1867年1月22日、作曲者自身による指揮、ウィーン、ゾフィエンザール

(小宮正安)