スクリャービン (1872 - 1915)

ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 作品20 (約29分)

 アレクサンドル・スクリャービンはモスクワ音楽院ピアノ科出身のピアニストであり、作曲家としてもまずはショパン風のピアノ小品の創作から出発した。その後、「神智学」の影響のもと、独自の和声語法を目指して変貌(へんぼう)を遂げ、最終的には神秘的な総合芸術を目論(もくろ)むようになる。この《ピアノ協奏曲》は、そのように変貌する前の作品であり、明らかにショパンの影響が色濃い。しかしながら、そこには左手の広い音域や、異なるリズムの組み合わせ、繊細な音の動き、独特な官能的響きなど、スクリャービンらしさもすでに濃厚に現れている。
 1896年にピアノ譜を数日で一気に書きあげたが、オーケストレーションに手間取り、リムスキー・コルサコフやリャードフら先輩作曲家の助言を受けながら1897年に完成させた。
 第1楽章 アレグロ、嬰ヘ短調。オーケストラの短い導入部の後すぐピアノが登場する。叙情的で不安げな第1主題と、ややおどけたマズルカ風の第2主題からなる。展開部はこの対比を中心に進むが、次第に第1主題の叙情的で劇的なイメージが優勢となる。
 第2楽章 アンダンテ、嬰ヘ長調。甘美で素朴な主題と5つの変奏からなる。主題は12歳頃に作曲されたものとされる。主題を奏するのはオーケストラのみ。第1変奏でピアノが装飾を加え、第2変奏ではテンポが上がり、第3変奏は葬送行進曲となる。第4変奏は繊細な装飾が特徴的。最後は第1変奏とほぼ同じ内容で締めくくられる。
 第3楽章 アレグロ・モデラート、嬰ヘ短調。ポロネーズ風の勇ましい第1主題と、歌心に溢(あふ)れた叙情的な第2主題からなる。最後は長調に転じ、華々しく閉じられる。

作曲年代:1896~1897年
初演:1897年10月23日(旧ロシア暦10月11日)、作曲家自身のピアノ、ワシーリ・サフォノフの指揮、ロシア音楽協会オデッサ支部の演奏会

(高橋健一郎)