ラヴェル (1875 - 1937)

ピアノ協奏曲 ト長調(約22分)

 第1次世界大戦終戦以降、長らくドビュッシーのライバルと目されてきたラヴェルは、戦争の衝撃と母の死による精神的な落ち込みもあってか創作活動が停滞し、彼を「終わった」作曲家と揶揄(やゆ)する者すら現れた。こうした中でラヴェルの創作を後押ししたのは、フランス国外での演奏旅行であった。とりわけアメリカでは彼の作品が大喝采(だいかっさい)を浴び、ガーシュウィンをはじめとする現地の音楽家たちとの交流も大いに刺激となった。かくして、1929年から1931年にかけて、ラヴェルは生涯で初めてピアノ協奏曲を作曲する。《ト長調》の作曲中、ピアニストのウィトゲンシュタインから《左手のためのピアノ協奏曲》を委嘱され、2作品を並行して書き進め、全く対照的な協奏曲を完成させた。
 ラヴェル自身によると、この作品ではピアノという楽器の特質に逆らわない、快活華麗な要素を重視しているという。オーケストレーションにもラヴェルの腕が冴(さ)えわたり、ピアノはオーケストラの中に自然に溶け込み、管楽器の独奏の数々はピアノ独奏と同等もしくはそれ以上に活躍している。また、ジャズの要素も柔軟に取り入れられ、自身のルーツを見出していたバスク地方の旋律も用いられる。いっぽう、両端楽章の周到な構成と比して、中間楽章の甘美さが不自然なほど浮いているとも評される。ラヴェルは、性格の異なるさまざまな要素を組み合わせた不均衡の妙を楽しんでいたのかもしれない。
 第1楽章 アレグラメンテ、ト長調、2/2拍子、ソナタ形式。意表を突く鞭(むち)の一打の後、ピアノの分散和音上でピッコロが第1主題を軽やかに吹き始める。全合奏ののち、テンポをゆるめ、ピアノ独奏が気だるげな第2主題を奏で、オーケストラはおどけた調子でこれに応える。展開部ではピアノ独奏が強弱やリズムの濃淡を巧みに駆使しながらカデンツァへと続き、再現部はオーケストレーションを多彩に変化させ高揚感をもたらす。
 第2楽章 アダージョ・アッサイ、ホ長調、3/4拍子、3部形式。ピアノ独奏が優しく奏でる主旋律は、管楽器ソロによって継ぎ目なく続けられる。中間部でピアノ独奏が提示する、性格の異なる挿入句で微(かす)かなゆらぎをみせた後、再現部ではイングリッシュ・ホルンが主旋律をたっぷりと歌いあげ、ピアノ独奏のトリルで消え入るように終わる。
 第3楽章 プレスト、ト長調、2/4拍子。金管楽器の鋭い和音と小太鼓の連打で始まる序奏の後、主部ではトッカータ風に独奏ピアノの平行和音と諧謔的(かいぎゃくてき)なオーケストラの掛け合いが盛り上がりを見せるも、決して熱狂しすぎぬよう巧みに抑制され、互いに駆け引きを楽しんでいるかのようだ。

作曲年代:1929~1931年
初演:1932年1月14日パリ、サル・プレイエル。マルグリット・ロンによるピアノ独奏、ラヴェル指揮、ラムルー管弦楽団

(成田麗奈)