ルーセル (1869 - 1937)

バレエ組曲「バッカスとアリアーヌ」第2番 (約18分)

 古代ギリシャ神話におけるアリアドネ(アリアーヌ)は、アテネの王子テーセウスと恋に落ちるが、ナクソス島で眠っている間に彼に置き捨てられる。眠りから覚めたアリアドネは、葡萄酒(ぶどうしゅ)の神ディオニュソス(バッカス)に見初められ、その愛に屈する。島に捨てられたアリアドネの嘆きは、絵や音楽の主題として何度もとりあげられてきた。ルーセルの《バッカスとアリアーヌ》は、この神話をもとにアベル・エルマンが書いた台本に基づく全2幕のバレエである。各幕がそれぞれ《組曲第1番》、《第2番》に相当し、独立した管弦楽曲としても演奏される。《組曲第2番》は、アリアーヌの眠りと目覚めから始まり、嘆きよりもむしろ、バッカスとの愛に焦点が当てられている。ドビュッシー《牧神の午後への前奏曲》(1894年)の前例にならい、夢と官能そのものが音で表現される。そこにストラヴィンスキーのバレエがもつ斬新(ざんしん)なリズムと、ダリユス・ミヨーの音楽にヒントを得た複調性(2つの異なる調が同時に進行する)が加わり、ルーセル独自の音楽が生まれている。
 導入(アリアーヌの眠り)では、弦楽器と管楽器が織りなす複調の響きが、眠りの中の混濁した意識を表現し、ヴィオラとヴァイオリンの独奏によって、幕開けへと導かれる。アリアーヌが目覚め、急いで辺りを見回す様子はクラリネットの細かい動きで表現される。捨てられたことに気づいたアリアーヌは、波に身を投げようとするが、ハープの下行するグリッサンドを経て、バッカスの腕の中に落ちる。バッカスの踊りでは、どこかひょうきんな音型が行進曲風に拍を刻む。そして接吻(せっぷん)。拍の刻みは消えて、楽器の音色が混ざり合い、広がっていく。木管楽器の独奏による掛け合いがディオニュソスの歓喜を表し、女たちの行進へと進んでいく。アリアーヌの踊りでは、異国的で妖艶(ようえん)な旋律が、ヴァイオリンから木管へと受け継がれていく。バッカスとアリアーヌの踊りが、10/8拍子という特徴的なリズムで繰り広げられた後、最後はお決まりの狂宴(バッカナール)となる。

作曲年代:1930年
初演:[バレエ版]1931年5月22日、フィリップ・ゴーベール指揮、セルジュ・リファール振付、パリ、オペラ座 [組曲第2番]1934年2月2日、ピエール・モントゥー指揮、パリ交響楽団

(安川智子)