グリエール (1875 - 1956)

ハープ協奏曲 変ホ長調 作品74 (約27分)

 この作品は、ロシアの卓越したハープ奏者クセーニヤ・エルデーリ(1878~1971)の依頼に応じて1938年に作曲された。この時期の西洋芸術音楽においては、一方で十二音技法をはじめとする前衛音楽が探究され、他方ではバロック時代以前の様式に基づく古典主義的な音楽が志向されたが、いずれも「19世紀的なもの」からの脱却を模索しての動きであった。だが、ロシア(当時はソヴィエト)国内に留まり創作と教育に身を捧げたグリエールは、西洋芸術音楽の潮流の渦中に身を置くことよりも、19世紀ロシア音楽の伝統を継承し、民族的な要素を取り入れた作風を維持した。《ハープ協奏曲》においてもその傾向が見られ、各楽章に取り入れられた民謡風の旋律や民族舞踊のリズムが、手堅い管弦楽法によって縁どられている。
 第1楽章 アレグロ・モデラート、変ホ長調、4/4拍子、ソナタ形式。冒頭から、ハープ独奏がグリッサンドを駆使した輝かしい第1主題を提示する。クラリネットによって提示される第2主題は、ハープ独奏に受け渡され鮮やかに変化する。展開部の中盤に挿入されるカデンツァでは、幅広い音域と技巧が駆使され、骨太な音色から繊細な音色まで、ハープの多彩な音色が惜しげもなく披露される。
 第2楽章 アンダンテ、変イ短調、6/8拍子、主題と変奏(コーダつき)。低弦による前奏に誘われ、ハープ独奏が哀愁ただよう主題を提示する。この主題は6回変奏されるが、主題はハープのみならず、さまざまな楽器の組み合わせによって奏される。ハープ独奏は叙情たっぷりに旋律を歌い上げる部分や、細やかに技巧を駆使する部分など変化に富み、レース細工のように精緻(せいち)な響きが際立つ。
 第3楽章 アレグロ・ジョコーソ、変ホ長調、2/4拍子、ソナタ形式。ヴァイオリンとヴィオラが第1主題の冒頭を予示したのち、ハープ独奏が勇壮な第1主題を提示する。第2主題もまたハープ独奏によって導かれ、オーケストラとともに盛り上がりをみせる。展開部はオーケストラが展開部を主導し、ハープは控えめな伴奏で彩る。再現部ではハープが第1主題を、オーケストラが第2主題を中心に奏でながら両主題を変形させてクライマックスを生み出す。

作曲年代:1938年
初演:1938年11月23日、モスクワ音楽院大ホール、レオニード・シュテインベルクの指揮、クセーニヤ・エルデーリのハープ独奏、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

(成田麗奈)