サン・サーンス (1835 - 1921)

チェロ協奏曲 第1番 イ短調 作品33 (約20分)

 長く生きることで時代の変化の生き証人となったカミーユ・サン・サーンスにとって、異国趣味は重要な要素だが、それはあくまで古典的な形式の範囲内で表現された。《チェロ協奏曲第1番》が初演された1873年、サン・サーンスは初めてアルジェリアを旅し、その開放的なエネルギーに強く惹(ひ)かれる。以後アフリカはサン・サーンスの発想源となり、《ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」》(1896年)などが生まれた。
 協奏曲はサン・サーンスがもっとも得意とするジャンルであった。チェロ協奏曲は2作品ある。《第1番》は、ベルギーの名チェリスト、オーギュスト・トルベック(1830~1919)に献呈され、彼によって初演された。トルベックはヴィオラ・ダ・ガンバをはじめとする古楽器の修復と収集、演奏にも造詣が深く、古楽の再興に熱心であったサン・サーンスとは、志を同じくしていた。本作品は協奏曲に典型的な3楽章形式を装いつつ、実際は3部分からなる一続きの単一楽章である。その形式における革新性はむしろ、古典派以前の作品から同時代のフランツ・リストの交響詩まで、形式を知り尽くしたサン・サーンスだからこそ可能な、形式の自在な応用である。
 第1部(アレグロ・ノン・トロッポ)では、イ短調の主和音が鳴ったあとすぐに、チェロ独奏が旋律を奏でる。この旋律が、曲全体を統括する主要主題となる。下行する主要主題に対して、やはりチェロが奏でる第2主題は、高みに昇っていく旋律である。中間部となる第2部(アレグレット・コン・モート)は変ロ長調のメヌエットである。チェロは素朴な伴奏に乗って、古典派オペラのアリアのように切々と旋律を歌う。変ロ長調のまま、オーボエが主要主題を奏するところから、全体としては再現部でもある第3部が始まる。イ短調に戻り、チェロは第3部の新たな第2主題として、息の長い哀切な旋律を奏でる。最後はイ長調で終わる。全曲を通じて独奏者に主導権と華をもたせる手法は、サン・サーンスの協奏曲に共通した特徴である。

作曲年代:1872年
初演:1873年1月19日、オーギュスト・トルベックのチェロ独奏、エドゥアール・デルドヴェーズ指揮、パリ音楽院管弦楽団、パリ音楽院

(安川智子)