ヤナーチェク (1854 - 1928)

シンフォニエッタ (約23分)

 5つの楽章からなる《シンフォニエッタ》は、ヤナーチェクの晩年に作曲された管弦楽曲である。祖国チェコスロバキアが1918年にオーストリア・ハンガリー帝国から独立し、ヤナーチェクの愛国心はいやがうえにも高まっていた。ピーセクで軍楽隊の演奏を実際に聴いたこと、そして民族復興運動の流れで1862年に設立されたソコル体育団体の祭典のために、ファンファーレを依頼されたことが重なり、《シンフォニエッタ》は当初、「軍隊シンフォニエッタ」として構想された。第1楽章が、金管楽器13本とティンパニのみで奏されるファンファーレであるのは、そのためである。当初は舞台上のみで演奏される予定であったこのファンファーレで、空虚な平行5度(完全5度音程が同じ方向に進む)に乗せて、トランペットとティンパニが奏する民族的な旋律(5つの音からなるペンタトニック・スケールに基づいている)は、一度聴いたら忘れられない。村上春樹の小説『1Q84』では冒頭からこの《シンフォニエッタ》が流れるという設定だが、音楽を思い浮かべることで、不可思議な物語の始まりを予告する効果があった。
 一方、初演時のプログラムに、ヤナーチェクはモラヴィア地方の中心都市ブルノで過ごした少年時代を回想したタイトルを書き留めた。現在の総譜からタイトルは省かれているが、第2楽章「城」、第3楽章「王妃の修道院」、第4楽章「街路」、第5楽章「市庁舎」として、それぞれの場所の思い出が音楽に結びつけられている。第1楽章の印象的なファンファーレは、第5楽章で回帰し、今度は全オーケストラで奏される。こうして幻想的なブルノの都市風景が、誇り高き国家礼賛に包まれて、テーマは閉じられる。

作曲年代:1926年
初演:1926年6月26日、プラハ、ヴァーツラフ・ターリヒ指揮、チェコ・フィルハーモニー

(安川智子)